第11話
「はあ。色々あった。しかも
「それはこちらの
試合の翌日、竜達はそれぞれの棲み処に。
「東の魔女殿はどうした。同じ部屋だったんだろう」
「……そんな扱いをしていいのか」
「今さらです。来た時からこの姿でした」
「そういえば、お前を運んでいた時、姿を見なかったな」
納得したのか、荷物整理に戻り。同じく手を動かし続けている
「
「誰に」
「昨日のこと覚えているか」
「覚えている。起きた時から話せばいいのか。お前に叩き起こされ」
「話さなくていい。あの子、西の魔女の孫に」
口をヘの字に。
「嫌なんだな」
顔を見て理解してくれたらしい。
「当分は関わりたくない」
関わらずに済むことはない。いずれまた会う。そのいずれができれば十年、二十年先であれば。
今頃どこかの竜に囲まれているだろう。
「そうか」と言うと来た時同様、荷物の中に入れられ。
ノームは昨夜、家へと魔法で送った。帰れば
庭で竜の姿になり、
西竜王の屋敷の広い庭に着けば、屋敷から大勢出てきて囲まれ。御前試合の結果を聞きたかったようだ。口々に「試合の結果は」と。結果を聞き、よくやった、と肩を叩く者もいれば、次こそはすべてに勝て、と言う者も。
「気になるのなら、応援とかなんとか言って、ついて行けばいいのでは」
屋敷の中、廊下を歩いていた。歩いているのはフォディーナ、
荷物から勝手に出て、白夜の肩に。
「あちこちの竜が来る。
「竜は血の気が多いのか?」
「以前、見物人を何人か連れて行ったそうだよ。試合前日に見物人同士が
竜王の
「ところで、東の魔女殿」
「なぜ、そんな呼び方」
しかもいきなり。
「東の魔女なんでしょ」
「そうだが」
「それなら、
「なんか、嫌な予感」
「悪い話じゃない。定期的にこちらに来て、魔法を教えて欲しい」
「お前に?」
「違うよ。子供達に」
「……」
「お礼はするよ」
授業料を払う、ということか。今までは無償だった、いや、そいうこと考えず。ただ、教えただけ。
「
「竜の氷像ができるな。見に行くのも面白そうだ」
「北の魔女様は相変わらず?」
フォディーナは微苦笑。彼女が何歳か知らないが、北の魔女を知っている。代わっていないのなら、あの女も相当な歳。
「ああ。まったく変わらない」
自分のことしか考えない。住み家に足を踏み入れれば誰だろうと凍らせ、入口には趣味の悪い氷像がいくつも。
「南も姿を見ればどん引き。子供は泣く。無理」
大人でもどん引き、だろう。
「頼むのなら西の魔女の弟子、だろう。もしくは魔法協会に頼む、か。あそこは竜に嫁紹介もしている。職員を派遣して」
「君は、弟子はいないんだよね」
「いない」
「じゃあ、弟子候補に」
「却下。魔力はあるが魔女には向いていない」
家には危険なもの、生き物が。その管理もしなければならない。
「第一、あれはこっちの弟子だろう」
「魔女など継いだっていいことはない」
「それなら、君は次をどうするつもりなの。弟子がいないんじゃ」
「魔法協会が勝手に決める。結婚しろとうるさいが」
正体を知れば
西の魔女の所にもある、いるが、弟子が目を盗み、売っている。気づいた西の魔女は
まだ若いのになぜこんなことを考えなければならない。と重い息を吐いた。
「毎日来てくれとは言わないよ」
「来れるか。こちらも色々ある」
「僕達は年月、月日は
「ああ。一ヶ月、三十日を十二回。お前達も毎日働いていないだろう」
「うん。何日間か働いて休む。休みは同僚達と相談して。急に休むこともあるけど」
ラビアは決められた日に働くことはない。興味があれば、緊急の場合は動く。魔法協会からもあれやってくれ、これやってくれと来るが、動きたければ動き、こんなの他の魔法使いでもやれるだろ、というものはやらない。ほっておく。だから睨まれるのだが、すべて片付けていれば次世代が育たない。やってくれるだろうと調子に乗る。
「その一ヶ月に一回でいいから。君の教えた魔法で暴走されても」
「脅しか」
「こちらでは対処の仕様がないんだよ。今まで魔法を使う、ということがなかったからね。それはこちらだけでなく、他の所も。教えてくれた者が上手く育ってくれれば、次の者には彼らが教えられる」
「あちこち燃やされる、
「そこそこ、でいいのか。完璧などない。私も完璧ではない。ここで新たな魔法が生まれるかもしれない」
「やる気になってくれた?」
「話しを聞いているか。完璧など、終わりなどない」
だから南の魔女は不老不死を求めた。魔法の知識をすべて知りたいために。
「聞いている。わかった。とりあえず、二十日に一回来てくれる? 君が大丈夫だと、次に教えられると判断したところで、終了してもいい。終了しても遊びに来ればいい」
むぅ~ん、と腕を組んで考える。誰かに教えた覚えなど。一ヶ月が二十日に一回になっているし。だが教えたのはラビア。その責任を。どこまで持つか。
「変な魔法を勝手に作っても責任は持てない。それでいいのなら」
「それは武道や他のことでも同じだよ。全員正しく力を使えているかと聞かれれば」
「教える側は正しく使えと教えているんだけど」
「正しさの基準はそれぞれ、か」
竜だろうと、魔法使いだろうと、人だろうと。
「引き受けてくれる、でいいんだね」
「むぅ~、忙しければ来られないからな。それでいいのなら」
「忙しい?」
「失礼だな。こちらでもやることはある。何もせず暮らしていけるわけないだろう」
「ああ」
頷いているが、納得しているか怪しい。
「お前が一生面倒見てくれるのか」
「見るか」
素っ気なく返された。
「それでここにいてくれるのなら、それでも」
「一度失敗させるか。そうすれば、どんな目に
「身に沁みさせるな。俺だって全員は見られない。魔法は専門外」
竜と人のハーフ。おそらく人より魔力がある。白夜は武道を教えているだけで魔法は言った通り、何も知らない。
「で、お前はどうやってここまで来た」
「いきなりだな」
「助かった件もあるが、
仕事熱心なのか。呆れて
「一人は女に化けて、と言っていただろう。竜の嫁になりたいと言って連れて来てもらい、どこかで逃げたのだろう」
そして実験体を捜していた。
「他はあの金色の竜が運んできたのだろう。金は目立つ。よく見つからずに来られたな」
「はぐらかすな。ラビア、お前は」
真剣な顔、声で名を呼ばれ。
「以前話しただろう。西の魔女が若い頃、こちらに来たと。それを使った。が、あれはもう使えない。使えるのは一回。竜の地へ行くだけの一方通行のようなもの」
ラビアならそういう道を使わずとも戻ってこられると、教えた。弟子では無理だろう。一瞬で移動、転移の魔法は難しく、魔力も使う。いざとなれば浮遊の魔法で下りれば。弟子にそれだけの度胸があるかどうか。
「何度か行き来していた、よな」
「それも以前話しただろう。髪、爪、涙、血、体の一部を手に入れれば
「頭にふってきたのは」
「この姿だった。人の姿で頭からふって潰していいのか。影から女の手が突然にょきっと出て、もしくは眼前に足や腕が」
ネズミの姿なら気づかれず踏まれるから、影ではなく頭上に。
「その姿にしてくれ」
「寝ている時にその上から勢いをつけて、どすんと」
「猫か! 子供か! やめろ、起きている時に来い」
「そんなに重くはないんだが。太ってもいない、はず」
ネズミのお腹を両手でつまんだ。
「太ったのなら、誰かのせいだな」
白夜を見上げる。
「責任はとらすよ」
「元の体重に戻るまで、運動させてやる」
「……」
「来られる、現れるのは俺のいる場所、なんだな」
「
「断る。白慈は相手がいる」
「……ああ」
知らない者がラビアと白慈、二人で話しているのを見れば。
「相手に殺される?」
ぼそっと。
女性でも竜。南の三将の女性も強かった。人の男など片腕で倒してしまえるほど。
「されない、されない」
「人の地に戻るのは簡単なのか」
「私の家は人の地にある。あちこち行っている。
生まれたのはどこかはっきりしない。どころか両親も。人、精霊なのかも。魔族ではない。
「魔族がそんなものを持って生まれるか」と眼を指し、魔王は舌打ちし、はっきり。なので、魔族ではない。
「君の家とここを
「それはやめてくれ。
「住んでいる? 弟子はいないんだよね」
「保護した精霊、妖精、動物がいる。シルフ、ノームも」
「ああ」
「竜になれない者はその道を通って、人の地に行く、んだよな」
「そうだよ」
「それは一つ、なのか」
四つの地があるが、そのどこか一ヶ所にしか道はないのか。
「それぞれの地に一つ。うちは父上が管理している。父上が許可すれば使えて、人の地へ行ける。だけど、出る場所は一つ。同じ所。たぶん、君の言っている、魔法協会って所じゃないかな」
竜に女性を紹介している。
「行くのは時間がかかりそうだな」
理由や身元を調べられるのだろう。だからあの女達、女性を
「……改造して一方通行。私しか行き来できないようにすれば」
「おい」
「魔法を教えてくれるのを引き受けてくれて、行き来自由なら、無理に作らないよ」
「無理に作ろうとしていたのか」
半眼で
西の魔女は竜の地と人の地を
「君の住んでいる地域を護れと言うのなら」
「護らなくていい。周辺には誰も住んでいない。さっきも言ったが棲んでいるものが驚く。迷惑だ。礼なら、物、お金、現物よこせ」
小さな右足で、たしたしテーブルを叩く。
「はいはい。最終確認。十日に一回、子供達に魔法を教えてくれるんだよね」
「待てぃ、最初一ヶ月に一回だっただろう。次は二十日。で、十日。短くなっているぞ」
「気づいたか」
「気づくわ!」
「何日ならいいんだ」
「
「十五日に一回」
「おい」
「五日に一回って無理言ってないよ」
「そんなに来られるか」
「だから、一ヶ月に二回。一ヶ月に一回は
仲良くなった、のか?
「こちらも忙しい。寂しくない」
「だ、そうだ。三十日に一回」
笑顔の
「詳しいことは
「今日はどうするんだ」
「どう、とは」
「帰るのか、泊まっていくのか」
「そうだな。当分は来られないから、夕食、朝食をごちそうになるのも」
「使用人が作ってくれるんだろ」
「作ってくれるから文句は言わん。が、応用がきかないからな」
「応用がきかない?」
「料理本の通りに作る。余ったものを翌日、別の料理にして出すことはできない。しかも本に
彼女がいなければ今頃。
「それより、教えるのは今まで通り、お前が教える日に合わせて、でいいんだな」
「ああ。子供達とお前だけにして何かあれば」
「襲ってくれば魔法でぶっとばす。もしくは平手打ち」
「
「それをやらせないためだ」
「む~。私から手出しはしない」
先に出させ、正当防衛を主張する。
「そうか。まあ、来てくれるのなら、助かる。たぶん、
「牽制?」
「
「なるほど。
「東竜王様の竜に西の魔女の住んでいる地域を護ってもらい、竜を味方につけたと思わせたい?」
「ああ。昔、この地の竜がやったように」
西の魔女には竜がついていると。もしくは竜すら従えられる力があると。
「ま、竜も竜で考えがあるのだろう」
ただ利用されるだけでなく。
「だろうな」
「先ほども話していたが、西の魔女の弟子が北竜王と南竜王に協力すれば、東北南の竜が西の魔女の住む地を護ることに。……仲、良いか?」
悪ければ睨み合い。最悪、竜同士が争い、護るどころでは。
「見てみたいような」
「物騒なこと考えていないか」
「どうだろうな。だが、西の魔女の所には
リディスの手柄。
「他の三人もお前達に接触してくるかも、な」
「優位、同等になるために?」
「ああ。ちょうど三人。
「
「それ、言うな。ここの肩持つ、味方になったと思われる。優秀な魔法使いと言っておけと伝えろ。来れば、だが」
掴み続けている髪を軽く引く。
「何かまずいのか」
「どう言われているか知っているだろう。それがさらに竜と組んだと知られてみろ。ますます厄介。竜の地から、あれ取ってこい、これ取ってこいと」
「なるほど。御殿を物色されても」
「う、それは個人的に興味が」
どんなものがあるのか。
「見張り付き、
「う~ん。信用され、逆に人の地からあれ取ってこい、と言われても」
「……」
ないとは言えないのだろう。
「友人いないから、紹介できる女性はいない」
「そんなことはっきり言うな」
「本当のこと。紹介しろと言われても、できない」
「言わない」
白夜は大きく息を吐いていた。
買い物をして、家に戻り、荷物を置けば、
「世話になった、というか世話した、というか」
朝食を済ませ、ラビアは人の地に。
帰ってきたばかり。休めばいいのに、と思うことも。ラビアなら戻れば五日は確実家でごろごろ。買い物があれば外に出ているが、大体家にいる。魔法協会から依頼が来ていても受けない。
「世話された覚えは」
「御前試合とやらの
「勝手に首をつっこんだだけ」
「なんだと」
睨むが、ネズミ姿なので迫力はない。
「次は二十日後、だったな」
気を取り直し。昨夜、
「覚えていれば来る」
「勝手に道を作られたくなければ来い。
「脅しか」
「本当のこと」
長い付き合い。互いにわかっているから。
「何もなければ来る。たま~に大掛かり、予想外なことが起こることもある」
「そう、だな。それはこちらも」
竜の予想外とはどんなことだろう。関わりたくないが、見るだけなら。
「次に会う時は彼女の一人くらい」
「余計なお世話だ。来るなら、その姿にしろ」
女性と話しているのにいきなり、別の女が降ってくるのは。
「では、またな」
「ああ。また」
小さなネズミの姿が消える。
よく考えると何も解決していないような。
あの
人の地へ逃げていれば、ラビアが。……余裕で勝ちそうだ。消し炭にされる?
考えが物騒な方向に。首を左右に振る。
自然四大精霊の二体が捕らわれているのなら。ラビアのあの性格では積極的に動きそうにない。
魔法使いの件も。魔力の使い方に問題があるとすれば、どこも使い方を教えてくれる優秀な魔法使いを欲しがる。
いや、別の意味があるのかもしれない。まず、その誤解、間違いを正さないと。
それとも
魔女の嫁。もしくは旦那など。容姿はいいかもしれないが。
重い息を吐いて気持ちを切り替え、
「む」
「どうされました」
使用人と持ち帰った荷物を一つ一つ確かめていた。
ノームはソファーで猫のように伸び。シルフも別の部屋、日当たりの良い窓辺に。
「なぜか嫌な予感がした」
「そうですか。ご主人様なら、その嫌な予感も吹き飛ばせるのでは。これはなんです」
表情一つ動かさず、淡々と。買ってきたものを一つ手に取り。
気を取り直し、食べ物とそうでないものを
「そうだ。二十日したら、また上に行く。覚えていてくれ」
「忘れたら。もしくは寝坊」
寝坊、は遅れて行くだけ。忘れたら。……行かなければ、
「ウンディーネとサラマンダーはどうする」
ソファーで伸びているノームが。
「そっちは様子見」
竜にしろ、金色の竜の仲間にしろ、ここには来られない、はず。
以前、周辺の護りを強化したが、さらに強化しておくか、と考え、お
終われば手紙の整理。動く必要のあるものは動き、なければ家でごろごろ。いつもの生活。これまで通り。それに竜と人の子供に魔法を教えることが加わった。それを考えて動かなければ。だが期間限定。一人前、次に教えられるようになれば、終わり。遊びに来てもいいと
考え通り、その後、竜の関わった問題に次々巻き込まれることに。巻き込みもした。そんなことになるとは今の時点ではわからず。礼とはなんだろう。珍しい、良いものかなぁ、と
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