第11話

「はあ。色々あった。しかも散々さんざんな目に」

 西竜王せいりゅうおうに戻り、ラビアは深々と息を吐く。

「それはこちらの台詞せりふだ」

 白夜びゃくやは小さく顔をしかめ。

 試合の翌日、竜達はそれぞれの棲み処に。

「東の魔女殿はどうした。同じ部屋だったんだろう」

 東竜王とうりゅうおうの地をつ前、それぞれの部屋で荷物の整理をしていると、白斗はくとたずねられた白夜びゃくやは、ネズミ姿のラビアの首根っこをつかみ。

「……そんな扱いをしていいのか」

「今さらです。来た時からこの姿でした」

「そういえば、お前を運んでいた時、姿を見なかったな」

 納得したのか、荷物整理に戻り。同じく手を動かし続けている白夜びゃくやから、

挨拶あいさつしなくていいのか」

「誰に」

「昨日のこと覚えているか」

「覚えている。起きた時から話せばいいのか。お前に叩き起こされ」

「話さなくていい。あの子、西の魔女の孫に」

 口をヘの字に。

「嫌なんだな」

 顔を見て理解してくれたらしい。

「当分は関わりたくない」

 関わらずに済むことはない。いずれまた会う。そのいずれができれば十年、二十年先であれば。

 今頃どこかの竜に囲まれているだろう。

「そうか」と言うと来た時同様、荷物の中に入れられ。

 ノームは昨夜、家へと魔法で送った。帰れば土竜もぐらが家の中でごろごろ。

 庭で竜の姿になり、西竜王せいりゅうおうの地に。どこからでも人の地に戻れるが、とりあえず西竜王と一緒に戻り。

 西竜王の屋敷の広い庭に着けば、屋敷から大勢出てきて囲まれ。御前試合の結果を聞きたかったようだ。口々に「試合の結果は」と。結果を聞き、よくやった、と肩を叩く者もいれば、次こそはすべてに勝て、と言う者も。

「気になるのなら、応援とかなんとか言って、ついて行けばいいのでは」

 屋敷の中、廊下を歩いていた。歩いているのはフォディーナ、白慈はくじ白夜びゃくや。あとは庭で話している。

 荷物から勝手に出て、白夜の肩に。

「あちこちの竜が来る。喧嘩けんかになったらどうする」

「竜は血の気が多いのか?」

「以前、見物人を何人か連れて行ったそうだよ。試合前日に見物人同士がめて。試合中も口汚く相手をののしり、妨害工作もしたとか。だから、今は関係者の家族だけが見物になっている」

 白慈はくじは笑顔で。

 竜王の面子めんつもある。こんな者ばかりなのかと思われても。

 障子しょうじを開け、中へ。ここへ来た日に入った部屋に似ている。たたみ絨毯じゅうたん、テーブルに椅子。テーブルに下ろされ。

「ところで、東の魔女殿」

「なぜ、そんな呼び方」

 しかもいきなり。

「東の魔女なんでしょ」

「そうだが」

「それなら、あらためて、東の魔女殿」

 白慈はくじは迫力ある、有無を言わせない笑顔。こういうところは父親似か。

「なんか、嫌な予感」

「悪い話じゃない。定期的にこちらに来て、魔法を教えて欲しい」

「お前に?」

「違うよ。子供達に」

「……」

「お礼はするよ」

 授業料を払う、ということか。今までは無償だった、いや、そいうこと考えず。ただ、教えただけ。

東竜王とうりゅうおうの所は西の魔女殿を味方につけようとしている。おそらく他も。北と南の魔女殿の所へ行くだろう。もしかしたら、君の所にも」

 白慈はくじはきれいな笑みを浮かべ。

「竜の氷像ができるな。見に行くのも面白そうだ」

「北の魔女様は相変わらず?」

 フォディーナは微苦笑。彼女が何歳か知らないが、北の魔女を知っている。代わっていないのなら、あの女も相当な歳。

「ああ。まったく変わらない」

 自分のことしか考えない。住み家に足を踏み入れれば誰だろうと凍らせ、入口には趣味の悪い氷像がいくつも。

「南も姿を見ればどん引き。子供は泣く。無理」

 大人でもどん引き、だろう。

「頼むのなら西の魔女の弟子、だろう。もしくは魔法協会に頼む、か。あそこは竜に嫁紹介もしている。職員を派遣して」

「君は、弟子はいないんだよね」

「いない」

「じゃあ、弟子候補に」

 白慈はくじは笑顔を崩さない。

「却下。魔力はあるが魔女には向いていない」

 家には危険なもの、生き物が。その管理もしなければならない。

「第一、あれはこっちの弟子だろう」

 白夜びゃくやを指す。

「魔女など継いだっていいことはない」

「それなら、君は次をどうするつもりなの。弟子がいないんじゃ」

「魔法協会が勝手に決める。結婚しろとうるさいが」

 正体を知ればおびえるか、あの容姿なら多少のこと我慢と馬鹿を考える奴も。いざとなれば、自身の時間を遅らせ、ゆっくり年を。やるのも面倒。だが残されるものを考えれば。危険な魔法書、武器、宝石、保護した妖精、精霊達。あれらのことも考えなければ。

 西の魔女の所にもある、いるが、弟子が目を盗み、売っている。気づいた西の魔女はられてはならないものをこちらに押し付け。

 まだ若いのになぜこんなことを考えなければならない。と重い息を吐いた。

「毎日来てくれとは言わないよ」

「来れるか。こちらも色々ある」

「僕達は年月、月日はこだわらない。四竜王が一年に一度会う日をわかっていれば、決めていれば。でも君達は区切っているんだよね」

「ああ。一ヶ月、三十日を十二回。お前達も毎日働いていないだろう」

「うん。何日間か働いて休む。休みは同僚達と相談して。急に休むこともあるけど」

 ラビアは決められた日に働くことはない。興味があれば、緊急の場合は動く。魔法協会からもあれやってくれ、これやってくれと来るが、動きたければ動き、こんなの他の魔法使いでもやれるだろ、というものはやらない。ほっておく。だから睨まれるのだが、すべて片付けていれば次世代が育たない。やってくれるだろうと調子に乗る。

「その一ヶ月に一回でいいから。君の教えた魔法で暴走されても」

「脅しか」

「こちらでは対処の仕様がないんだよ。今まで魔法を使う、ということがなかったからね。それはこちらだけでなく、他の所も。教えてくれた者が上手く育ってくれれば、次の者には彼らが教えられる」

「あちこち燃やされる、水浸  びたしにされても」

 白夜びゃくやまで。

「そこそこ、でいいのか。完璧などない。私も完璧ではない。ここで新たな魔法が生まれるかもしれない」

「やる気になってくれた?」

「話しを聞いているか。完璧など、終わりなどない」

 だから南の魔女は不老不死を求めた。魔法の知識をすべて知りたいために。

「聞いている。わかった。とりあえず、二十日に一回来てくれる? 君が大丈夫だと、次に教えられると判断したところで、終了してもいい。終了しても遊びに来ればいい」

 むぅ~ん、と腕を組んで考える。誰かに教えた覚えなど。一ヶ月が二十日に一回になっているし。だが教えたのはラビア。その責任を。どこまで持つか。

「変な魔法を勝手に作っても責任は持てない。それでいいのなら」

「それは武道や他のことでも同じだよ。全員正しく力を使えているかと聞かれれば」

 白慈はくじは小さく肩をすくめ。

「教える側は正しく使えと教えているんだけど」

「正しさの基準はそれぞれ、か」

 竜だろうと、魔法使いだろうと、人だろうと。

「引き受けてくれる、でいいんだね」

「むぅ~、忙しければ来られないからな。それでいいのなら」

「忙しい?」 

 白夜びゃくやは疑わしそうに。

「失礼だな。こちらでもやることはある。何もせず暮らしていけるわけないだろう」

「ああ」

 頷いているが、納得しているか怪しい。

「お前が一生面倒見てくれるのか」

「見るか」

 素っ気なく返された。

「それでここにいてくれるのなら、それでも」

 白夜びゃくやそろって白慈はくじを睨む。

「一度失敗させるか。そうすれば、どんな目にうか身にみて。というかお前がしっかり見ていれば」

 白夜びゃくやを見上げた。

「身に沁みさせるな。俺だって全員は見られない。魔法は専門外」

 竜と人のハーフ。おそらく人より魔力がある。白夜は武道を教えているだけで魔法は言った通り、何も知らない。

「で、お前はどうやってここまで来た」

「いきなりだな」

「助かった件もあるが、東竜王とうりゅうおう様の所に現れた者の件もある。同じ道を使って」

 仕事熱心なのか。呆れて白夜びゃくやを見ていたが、同じように住んでいる敷地に気づかれず入られては。

「一人は女に化けて、と言っていただろう。竜の嫁になりたいと言って連れて来てもらい、どこかで逃げたのだろう」

 そして実験体を捜していた。

「他はあの金色の竜が運んできたのだろう。金は目立つ。よく見つからずに来られたな」

「はぐらかすな。ラビア、お前は」

 真剣な顔、声で名を呼ばれ。

「以前話しただろう。西の魔女が若い頃、こちらに来たと。それを使った。が、あれはもう使えない。使えるのは一回。竜の地へ行くだけの一方通行のようなもの」

 ラビアならそういう道を使わずとも戻ってこられると、教えた。弟子では無理だろう。一瞬で移動、転移の魔法は難しく、魔力も使う。いざとなれば浮遊の魔法で下りれば。弟子にそれだけの度胸があるかどうか。

「何度か行き来していた、よな」

「それも以前話しただろう。髪、爪、涙、血、体の一部を手に入れればつながりができると。最初に戻る時、髪をくれただろう。あれで繋がりができた。お前のいる場所なら、いつでも現れることができる」

「頭にふってきたのは」

「この姿だった。人の姿で頭からふって潰していいのか。影から女の手が突然にょきっと出て、もしくは眼前に足や腕が」

 ネズミの姿なら気づかれず踏まれるから、影ではなく頭上に。

「その姿にしてくれ」

 白夜びゃくやは右手で額を押さえ。

「寝ている時にその上から勢いをつけて、どすんと」

「猫か! 子供か! やめろ、起きている時に来い」

「そんなに重くはないんだが。太ってもいない、はず」

 ネズミのお腹を両手でつまんだ。

「太ったのなら、誰かのせいだな」

 白夜を見上げる。

「責任はとらすよ」

「元の体重に戻るまで、運動させてやる」

「……」

「来られる、現れるのは俺のいる場所、なんだな」

白慈はくじやフォディーナ、様の髪と交換してくれるのか。西竜王せいりゅうおうでも」

「断る。白慈は相手がいる」

「……ああ」

 知らない者がラビアと白慈、二人で話しているのを見れば。

「相手に殺される?」

 ぼそっと。

 女性でも竜。南の三将の女性も強かった。人の男など片腕で倒してしまえるほど。

「されない、されない」

 白慈はくじは笑いながら右手を振っている。

「人の地に戻るのは簡単なのか」

「私の家は人の地にある。あちこち行っている。つながりのあるものなどなくても、生まれ育った地。簡単に戻れる」

 生まれたのはどこかはっきりしない。どころか両親も。人、精霊なのかも。魔族ではない。

「魔族がそんなものを持って生まれるか」と眼を指し、魔王は舌打ちし、はっきり。なので、魔族ではない。

「君の家とここをつなぐ道でも作ろうか、とも話していたんだけど」

「それはやめてくれ。んでいるもの達が驚く」

「住んでいる? 弟子はいないんだよね」

「保護した精霊、妖精、動物がいる。シルフ、ノームも」

「ああ」

「竜になれない者はその道を通って、人の地に行く、んだよな」

「そうだよ」

「それは一つ、なのか」

 四つの地があるが、そのどこか一ヶ所にしか道はないのか。

「それぞれの地に一つ。うちは父上が管理している。父上が許可すれば使えて、人の地へ行ける。だけど、出る場所は一つ。同じ所。たぶん、君の言っている、魔法協会って所じゃないかな」

 竜に女性を紹介している。仲介ちゅうかい役。

「行くのは時間がかかりそうだな」

 理由や身元を調べられるのだろう。だからあの女達、女性をさらっていた者達は別の道を自分達で作った。いや、純粋な竜の力を借りれば、脅せば。眠っている、気絶しているうちに運べば。

 じゃの道はへび、か。

「……改造して一方通行。私しか行き来できないようにすれば」

「おい」

「魔法を教えてくれるのを引き受けてくれて、行き来自由なら、無理に作らないよ」

「無理に作ろうとしていたのか」

 半眼で白慈はくじを見た。

 西の魔女は竜の地と人の地をつなぐ道を作れた。やろうと思えばラビアにも。白夜びゃくやという道以外にも作れる、はず。

「君の住んでいる地域を護れと言うのなら」

「護らなくていい。周辺には誰も住んでいない。さっきも言ったが棲んでいるものが驚く。迷惑だ。礼なら、物、お金、現物よこせ」

 小さな右足で、たしたしテーブルを叩く。

「はいはい。最終確認。十日に一回、子供達に魔法を教えてくれるんだよね」

「待てぃ、最初一ヶ月に一回だっただろう。次は二十日。で、十日。短くなっているぞ」

「気づいたか」

「気づくわ!」

「何日ならいいんだ」

 白夜びゃくやに尾を押さえられ。みつくとでも思っているのか。

都合つごうがつけば、だ。こちらも都合がある。二十日に一回くらいなら」

「十五日に一回」

「おい」

「五日に一回って無理言ってないよ」

「そんなに来られるか」

「だから、一ヶ月に二回。一ヶ月に一回は白夜びゃくやも寂しいだろう。仲良くなったのに」

 仲良くなった、のか?

「こちらも忙しい。寂しくない」

 白夜びゃくやは素っ気なく。

「だ、そうだ。三十日に一回」

 笑顔の白慈はくじと見合うこと数分。フォディーナ、白夜の説得で十五日に一度、こちらに来ることに。

「詳しいことは白夜びゃくやと話し合って」と。ここに初めて来た時のように白夜に押し付けていた。


 西竜王せいりゅうおうの屋敷を出て、白夜びゃくやの家に。

「今日はどうするんだ」

「どう、とは」

「帰るのか、泊まっていくのか」

「そうだな。当分は来られないから、夕食、朝食をごちそうになるのも」

「使用人が作ってくれるんだろ」

 白夜びゃくやは呆れたように。

「作ってくれるから文句は言わん。が、応用がきかないからな」

「応用がきかない?」

「料理本の通りに作る。余ったものを翌日、別の料理にして出すことはできない。しかも本にっている通りの人数分作るから、下手すれば、一人なのに三~四人分作られ。作ってくれたからには食べるが、朝昼夜、同じもの。もしくは二日続けて。作れないから文句は言わない。こだわりもない」

 彼女がいなければ今頃。

「それより、教えるのは今まで通り、お前が教える日に合わせて、でいいんだな」

「ああ。子供達とお前だけにして何かあれば」

「襲ってくれば魔法でぶっとばす。もしくは平手打ち」

 白夜びゃくやの肩、右手で髪をつかみ、左手を振る。

りでも」

「それをやらせないためだ」

「む~。私から手出しはしない」

 先に出させ、正当防衛を主張する。

「そうか。まあ、来てくれるのなら、助かる。たぶん、白慈はくじ牽制けんせいもしているのだろう」

「牽制?」

北竜王ほくりゅうおう様や南竜王なんりゅうおう様の所に来てくれと、誘われても」

「なるほど。東竜王とうりゅうおうの所は西の魔女を味方につけたと思っている。見せびらかし、言い触らしていたのもそのため。弟子にすれば、利用してやろうと思っているのだろう」

「東竜王様の竜に西の魔女の住んでいる地域を護ってもらい、竜を味方につけたと思わせたい?」

「ああ。昔、この地の竜がやったように」

 西の魔女には竜がついていると。もしくは竜すら従えられる力があると。

「ま、竜も竜で考えがあるのだろう」

 ただ利用されるだけでなく。

「だろうな」

「先ほども話していたが、西の魔女の弟子が北竜王と南竜王に協力すれば、東北南の竜が西の魔女の住む地を護ることに。……仲、良いか?」

 悪ければ睨み合い。最悪、竜同士が争い、護るどころでは。

「見てみたいような」

「物騒なこと考えていないか」

「どうだろうな。だが、西の魔女の所には派閥はばつがある。クファール、孫の傍にいた男は孫派。他にも三人、魔女候補がいて。あ~、なるほど、リディスが竜と組んだと言い触らせば」

 リディスの手柄。

「他の三人もお前達に接触してくるかも、な」

「優位、同等になるために?」

「ああ。ちょうど三人。北竜王ほくりゅうおう南竜王なんりゅうおう、ここをそれぞれ味方につければ」

白慈はくじは東の魔女殿がいるから結構、と笑顔で断りそうだ」

「それ、言うな。ここの肩持つ、味方になったと思われる。優秀な魔法使いと言っておけと伝えろ。来れば、だが」

 掴み続けている髪を軽く引く。

「何かまずいのか」

「どう言われているか知っているだろう。それがさらに竜と組んだと知られてみろ。ますます厄介。竜の地から、あれ取ってこい、これ取ってこいと」

「なるほど。御殿を物色されても」

「う、それは個人的に興味が」

 どんなものがあるのか。

「見張り付き、西竜王せいりゅうおう様から許可をもらえば、見せてもらえる。そうなるよう、信用されるんだな」

「う~ん。信用され、逆に人の地からあれ取ってこい、と言われても」

「……」

 ないとは言えないのだろう。白夜びゃくやは黙り。

「友人いないから、紹介できる女性はいない」

「そんなことはっきり言うな」

「本当のこと。紹介しろと言われても、できない」

「言わない」

 白夜は大きく息を吐いていた。


 買い物をして、家に戻り、荷物を置けば、白夜びゃくやは台所に。ラビアは風呂場。姿を元に戻し、おけに水を入れ、魔法で温め、ちょうどの温度にして運び、タオルも用意して再びネズミの姿に。夕食ができるまで桶の風呂に浮いていた。



「世話になった、というか世話した、というか」

 朝食を済ませ、ラビアは人の地に。白夜びゃくやは仕事に。

 帰ってきたばかり。休めばいいのに、と思うことも。ラビアなら戻れば五日は確実家でごろごろ。買い物があれば外に出ているが、大体家にいる。魔法協会から依頼が来ていても受けない。

「世話された覚えは」

「御前試合とやらの闖入者ちんにゅうしゃを追い払ってやっただろう」

「勝手に首をつっこんだだけ」

「なんだと」

 睨むが、ネズミ姿なので迫力はない。

「次は二十日後、だったな」

 気を取り直し。昨夜、白夜びゃくやと話し合い、日が合うのは二十日後。

「覚えていれば来る」

「勝手に道を作られたくなければ来い。白慈はくじは普段おっとりしているが、やる時はやる。お前の家をどうにか探し」

「脅しか」

「本当のこと」

 長い付き合い。互いにわかっているから。

「何もなければ来る。たま~に大掛かり、予想外なことが起こることもある」

「そう、だな。それはこちらも」

 竜の予想外とはどんなことだろう。関わりたくないが、見るだけなら。

「次に会う時は彼女の一人くらい」

「余計なお世話だ。来るなら、その姿にしろ」

 女性と話しているのにいきなり、別の女が降ってくるのは。

「では、またな」

「ああ。また」



 小さなネズミの姿が消える。東竜王とうりゅうおうの地で買った荷物と一緒に。

 よく考えると何も解決していないような。

 あの闖入者ちんにゅうしゃ、金色の竜は竜の地すべてでさがされる。当分はどこも警戒する。狙いはなんだったのか。竜王の血? 竜王の血を取り込んだ人がどうなるか見たかった? ラビアの言っていたように、三将の力を見て、竜の力をはかろうとしていた?

 人の地へ逃げていれば、ラビアが。……余裕で勝ちそうだ。消し炭にされる?

 考えが物騒な方向に。首を左右に振る。

 自然四大精霊の二体が捕らわれているのなら。ラビアのあの性格では積極的に動きそうにない。

 魔法使いの件も。魔力の使い方に問題があるとすれば、どこも使い方を教えてくれる優秀な魔法使いを欲しがる。東竜王とうりゅうおう様が西の魔女を味方につけたように、白慈はくじが東の魔女であるラビアを味方につけようと。ある意味成功、か。

 いや、別の意味があるのかもしれない。まず、その誤解、間違いを正さないと。うわさになり、本人の耳に入れば。……。激怒、だけで済めばいいほうか。激怒され、暴れられても。

 それとも白慈はくじは本気で。

 魔女の嫁。もしくは旦那など。容姿はいいかもしれないが。

 重い息を吐いて気持ちを切り替え、御殿ごてんに。



「む」

「どうされました」

 使用人と持ち帰った荷物を一つ一つ確かめていた。

 ノームはソファーで猫のように伸び。シルフも別の部屋、日当たりの良い窓辺に。

「なぜか嫌な予感がした」

「そうですか。ご主人様なら、その嫌な予感も吹き飛ばせるのでは。これはなんです」

 表情一つ動かさず、淡々と。買ってきたものを一つ手に取り。

 気を取り直し、食べ物とそうでないものをけ、説明していた。

「そうだ。二十日したら、また上に行く。覚えていてくれ」

「忘れたら。もしくは寝坊」

 寝坊、は遅れて行くだけ。忘れたら。……行かなければ、白慈はくじに道を作られる?

「ウンディーネとサラマンダーはどうする」

 ソファーで伸びているノームが。

「そっちは様子見」

 竜にしろ、金色の竜の仲間にしろ、ここには来られない、はず。

 以前、周辺の護りを強化したが、さらに強化しておくか、と考え、お土産みやげの説明に。

 終われば手紙の整理。動く必要のあるものは動き、なければ家でごろごろ。いつもの生活。これまで通り。それに竜と人の子供に魔法を教えることが加わった。それを考えて動かなければ。だが期間限定。一人前、次に教えられるようになれば、終わり。遊びに来てもいいと白慈はくじは言っていたが、あれは絶対、何か裏がある。長く関わっていればろくなことにならない気がする。

 考え通り、その後、竜の関わった問題に次々巻き込まれることに。巻き込みもした。そんなことになるとは今の時点ではわからず。礼とはなんだろう。珍しい、良いものかなぁ、と呑気のんきに考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る