第9話

「さ、散々さんざんな目にった」

 白亜はくあは服についた汚れをはらっている。

 なんとか魔法を解いてもらい。真紅しんくあかねしかられ。北も、真紅に協力した者が注意されていた。

 そのつぶした本人は白夜びゃくやに目配せすると、どこかに。

 試合の場はれ、それぞれ手当て。そのため一旦部屋に戻ることに。北竜王ほくりゅうおう様を襲い、こおらされていた男も連れて行かれ。

「で、何の用だ」

「おお、本当に来た」

「来いと言ったのはそっちだろう」

 歩いて行った方向に来れば。ラビアが立っており。

「言葉にしていないが」

「そんなことが言いたかったのか」

「いや、びびって来ないかも、と」

 言いたいことはわかるが。

「こちらも聞きたいことはある」

「では、私の用件から」

 切り替えが早い。

「竜は魔法を使えないんだよな」

「ああ」

「だが、あの金色の竜は魔法を使っていた」

 右手を見ている。その手には、金色のうろこ。いつの間に。

「竜の姿に変えることもできるが」

「できるのか」

「変える、というか、ける、か。攻撃されれば元に戻る。こうして鱗が残りはしない。ほら」

 鱗を投げてくる。

 受け取り、触れる。よく知っている感触。

「金色の竜、というのは」

「北は黒、南は赤、西は白、東は青。それ以外は」

「混血、か? 人との混血とは限らない。精霊、魔族」

「俺に聞くより、西竜王せいりゅうおう様に聞けば」

「竜王の隠し子」

「失礼なこと言うな」

「竜王同士の結婚、はないのか」

「はっきりないとは。今は男ばかりだが、女性だった時もあるらしい。それに隠していれば」

 特に他の地の情報は。こうして訪れた時しか。

 ラビアは顎に手をあて。

「そういえば、最初、別の男と争っていたな。気にしていたし」

「ああ。偶然屋根にいるのを見つけて。何をしていると、直撃」

「誰かに伝えろ」

「めんどい」

「面倒くさがるな」

 うろこを返す。

「あの男、回復が竜より早い。さらに精霊のトップともいえる三体を取り込み、その力を使っている」

「精霊のトップ。自然四大精霊か。水のウンディーネ、火のサラマンダー、土のノーム、風のシルフ」

「知っているんだな」

 意外そうに見られた。

「あれらを従えられる人などいない」

「竜もいない!」

 肩の小動物が。

「竜王ほどの力を持つものを三体従えているようなもの」

「竜王様を」

「だから気になった。人でも竜でも、精霊、魔族でもない。たぶん」

「たぶん?」

「はっきりわからない。ヒントが欲しかった。解剖できれば」

「……わかるのか」

「専門家じゃないからわからない」

「なら言うな」

 白夜びゃくやは息を吐き。

「つまり、あの闖入者ちんにゅうしゃのことは」

「まったく」

 ラビアは小さく肩をすくめ。

「それなら、あのこおらせた男は」

「言った通り、あの竜の女の子に苦しむ魔法をかけまくった奴。私が返した魔法呪いもばっちりついていた。苦しかったのはそのせい。ったく、自分で作った魔法だろう。解くくらいできなくてどうする」

 呆れたように頭をかいている。

 北竜王様を襲い、苦しくないと言っていた。襲う原因を作ったのは。

北竜王ほくりゅうおうを襲ったのもそのせい。あの三人? がそそのかし、ここに入れたのだろう。それとも、元々竜王を狙っていたのか、場を混乱させたかったのか。お前達がいるとわかっていたのなら、力を試す、見ようと。別の狙いがあったの、かも。私じゃないのは確かだな」

「ああ。驚いていたな。一人は止め、一人は誤算だと」

「それなら狙いはお前達、竜。西の魔女の孫、というせんも。だが見向きもしなかった」

「力を試す、見てどうするんだ」

「お前達は強い竜、なのだろ。お前達の実力を見て、竜の力をはかろうとしていたの、かも」

「空間とは」

「自分に有利な場を作ることだ。結界に似ている。一定の場所に閉じ込め、その中の空気を薄くしたり、体を重くしたり。あのよろいの奴は現れた瞬間に私の足止めをしようと、その空間を作った。ま、すぐに壊して逃げたが」

「あ、いたいた」

 白慈はくじの明るい声。

「なに話しているの」

「答え合わせ」

「答え合わせ?」

 白慈はくじは首を傾げ。

「あの金色の竜を知っているか、という話」

「それならこそこそしなくても」

「正体がばれたし、色々やったからなぁ」

 ラビアは頭をかき。

「それならやらなければよかっただろう」

 呆れながら。

「大人しくやられるつもりはない」

 偉そうに。

 ラビアはきょろきょろ辺りを見て。

「どうかしたのか」

「今なら試せるか。人も少ないし」

「試す?」

「ああ。どっちがこたえやすい」

 右肩の小動物を見ている。

「ウンディーネだろうが、サラマンダーが応えるかも。今の状態は奴にとっては業腹ごうはら

「それは」

 白慈はくじは小動物を指し。

「ワタシはノーム。とっても偉い精霊」

「捕まっていたが」

 ふふん、と偉そうに鼻を上げていたが、右肩から小さな手でラビアの顔を叩いている。

 ネズミのようにも見える。ラビアが化けていた白いネズミよりは大きい。茶色の毛におおわれ、しっぽは短く。

「人のこと言えるのか」

 白夜びゃくやはぼそっと。ラビアも白夜に捕まり。

 ラビアはすう、と息を吸い、

「サラマンダー!」

 りんとした声が響く。

「……。来ないな」

「来ないな」

 五分、も経っていない。だが何も起こらず。

「呼べば来るのか」

「こいつが呼べば来る」

 小動物、ノームは再びぺちぺちとラビアの顔を叩き。

「ウンディーネ」

 再び呼ぶも、何も起こらず。

「取り込んだ奴を弱らせたから、逃げ出しやすいはずなんだが。もう回復したか、別か。あの二体の意思、ということはないだろう」

 肩のノームを掴み。

「ん? なん」

 消えた。

「おい」

「試そうと。ここは竜の棲む地。場所が悪いのか? 適当にどこかにとばした」

 軽い。

「……大丈夫なのか」

「さあ」

「さあ、てなんだ。暴れるなよ。これ以上暴れるな」

「ノーム次第しだいだな。暴れるようなら」

「謝れ」

 我慢できず、ラビアの両頬を引っ張った。


 白慈はくじの案内で西竜王せいりゅうおう様がいる部屋に。

 向かう途中、ラビアはノームを呼び、こたえ、現れたので、ウンディーネ、サラマンダーはなんらかの理由、方法で応えられないのだろうと。

 そのノームはラビアをぺちぺちと叩き続けている。

「取り込まれた、とか言っていたな。どうやってノームは」

「迫力ある声で名前を呼ばれたからな。応えなければどうなるか。危機感が。ふたりも外へ出ようとしていたのだろう。ワタシは、こいつが攻撃した拍子ひょうしに運良く外へ、ぽんと出られた」

 ラビアを叩き続けながら。

 部屋には西竜王様、フォディーナ様、白斗はくと白亜はくあ。白斗と白亜はラビアを見て固まり。

「やっぱり別に」

 どこかに行こうと。

「いやいやいや、行かなくていい。その手のものは」

 白斗はくとは止め、ラビアの右手に掴まれ、ぶら下がっているノームを。

「ああ、これは」

「自然四大精霊の一体、土の精霊、ノーム様」

 フォディーナ様は驚いたように。

「ワタシ、とっても偉い、精霊」

「はいはい」

 ざつな返事。

「なんだ、この扱いはぁ!」

「わからないでもない」

 同意するとラビアに睨まれた。

 ノームは暴れ、ラビアの手を離れ、器用に着地したところ、氷漬こおりづけにされ。

 部屋は静かに。

白夜びゃくやにも話したが、あの三人は知らない。一人はなんとか生きているだろう。手加減はした」

 何事もないように。

 西竜王せいりゅうおう様は微苦笑。

「捕らえた。とはいえ、北竜王を傷つけたからな」

 こちらで罰する、か。

「自業自得、だな」

 ラビアは、ぼそっと。白慈はくじに背を押され、座る。どこかに行って、また暴れる、物色ぶっしょくされては。他の竜もいる。

「まさか、東の魔女とは」

 白慈はくじは楽しそうに。

「西の魔女から頼まれたのは本当だ」

 ラビアは腕を組み。

「魔女直々に魔法を教えてもらっていたのか」

 よく教えてくれたものだ。しかも魔法書まで持ってきてくれ、魔女本人が。噂とは違いすぎ。

「あの~、失礼します」

 遠慮がちな女性の声。全員そちらを見る。

 桃色の長い髪、碧の瞳。西の魔女の孫。

 どうしてここに、と尋ねる前に、

「お久しぶりです、姉さん」

「ねえさん?」

 孫は笑顔でラビアを見て。

「妹?」

「じゃない。まったく似ていないだろう。妹弟子、になるのか」

「ノ、ノーム様、なぜこんなお姿に」

 さらに高い声。孫の肩には黒猫が。肩から身軽く下り、氷漬けのノームの傍に。

「誰がこのようなことを」

「私」

 犯人はあっさり。

「な、な、なにをなさっているのです!」

「うるさい」

 黒猫も一瞬で氷漬けに。

「あらあら」

 孫は笑い。

 いいのか、と見ていた。

「失礼します」

 頭を下げ、部屋に入って来る。ラビアは座っていた座布団を孫に。

「あ、その節はクファールが失礼しました」

 深々と頭を下げ。

「悪い人ではないのですが」

「口が悪い」

「姉さん」

 困ったように。

「で、何の用だ。挨拶に来たのか。来なくていい」

「だって、久々お会いしたのに。来ていたのですね」

 にこにこと。

「さっきも言った、西の魔女に頼まれて。お前も招待されたと聞いた」

「はい。学校にまで来られて。断るに断れず。学長も行ってくればいいと。クファール、フィリ、協会のかたも一緒に来てくれると言うので」

「仲が良いんだね」

 白慈はくじが口をはさむ。

「わたしは、色々事情があり、五歳まで東の魔女様の所にいました」

「西の魔女の弟子がこいつをねたみ、命を狙っていた。西の魔女も考えたものだ。まさか同じ魔女に預けるとは弟子どもも思わんからな。来ようにも簡単に来られん」

 そういえば、以前そんなことを。

「基礎は先代東の魔女が教えた。教えたのに、なんだ、それは」

 ラビアは、びしっと右人差し指で差し。

 孫の周りには黒いもやが。白夜びゃくやにはそう見えるが、ラビアにははっきり。

「う、だって」

「だって、じゃない。それくらい返せ」

「返す?」

「やった奴に倍返ししろ、ということだ。返すのが嫌なら浄化しろ」

「だって、返せばその人が」

「だったら浄化しろ」

「う、それも」

 ラビアは深々と息を吐き、孫の右頬をつねっている。

「返せば、返された人はどうなるんだ」

「さっき見ただろう。もの、程度によるが、襲われる。やった奴もそれくらい考えている。対策をとっているだろう」

「浄化する、というのは」

「言葉通り、始末する。やった奴に返ることもない」

「できるのか」

「もち」

「できません~」

 対照的な返事。ラビアは自信満々。孫は情けない声で。

「言っておくが、やらんからな。やるのなら倍返し。お前も未来の魔女だろう。それくらい、やれ」

「だって」

 孫は手を動かし。

「返せばその人が」

「自分を攻撃している者の心配か。余裕だな。今すぐそれを解いて、西の魔女を継ぐか」

 解く?

「だめです。やめてください~」

 情けない声。泣き出しそうな顔。

つたないものもまじっているな。お前、学校でもねたまれているのか」

「え? 皆さん良いかたですよ。親切にしてくれて」

 きょとんと。

「なるほど、表面上仲良くしている、か。わかっていたが、人とは恐ろしいな。これならまだ魔族が」

 孫は頬をふくらませ。

「そんなことありません」

「なぜ魔族と比べる」

 呆れたようにラビアを見た。

「姉さんは魔族のに一年いたことがあるのですよ」

 孫はにこにこと。

「……」

「魔族の魔法に興味があった。上位魔族は人の姿になり、人の地に出てくる。話しもできる。魔王に会った時は、あ、これやばい、と思ったが、小物こものと思われたのか、無視された」

 ラビアはなんでもないように。

「さすがに怒らせた時は終わった、と思ったな」

 遠い目をしている。

「……何を、しているんだ」

 孫以外は引いている。ドン引きしている。

「竜にも興味はあったが、精霊とどことなく似ていたし、行くのは難しいと聞いていた。行けたらいいや、ぐらいで」

 魔族の棲み処には自ら行き、竜は行けたらいいや。どちらが危険かなど。

「西の魔女は竜に興味があり、若い時こっそり来ていたそうだ」

「……」

 魔女というのは。

「魔族の棲み処に行ったせいか、魔王の娘と言われ。見たことないのに」

 今までのやりとりを見ていれば。

「はうっ」

「やっととけた」

 黒猫とノームの声。見ると氷はけ。

 ノームは素早くラビアの背後に。

なつかれている、仲が良いように見えるが」

 ノームを見て。

「ああ。盾にしているんだ」

「盾?」

「こいつがけがれているから。精霊は穢れを嫌う」

「けがれ、とはこの子についている」

「あれは人の負の感情が形を持ったもの。ねたみ、憎しみ。そういったものを精霊は嫌う。だから私を盾にしている」

「なるほど」

「僕達に移るってことは」

「本人が移さない限りはない。狙いはこいつ、だから、な」

「だが肩代わり、なすりつけると」

「覚えていたか」

「忘れるか」

「本人、もしくは腕のいい魔法使いなら移せる。なすりつけられる。見えていないのなら移しやすい。協力すると言った東竜王とうりゅうおう側にもなにかしら魂胆こんたんはあるのだろう。西の魔女側も。もしくは弟子どもが勝手に」

「むう、疑うのですか」

「当たり前だ。とはいえ、どうなろうとも関わらん」

 手をひらひら振り。

「むぅぅぅ」

 孫はむくれ。

「おばあちゃんにお世話になっていて」

「だから返しているだろう。これ以上面倒に巻き込むな」

「世話になっていた?」

「姉さんは十歳の時に東の魔女を継いだのです」

 十歳。人の十歳は子供も子供、では。

「何か失礼なこと考えてないか」

 軽く睨まれた。

「それから一年は魔族のもとにいたから、本格的に動き出したのは十二、三、だな。だがその前から頼るのは西の魔女ばかり。優秀だったからな。薬も作れ、魔法の腕も。若い頃は美人だったとも」

「ふきゅう」

「大丈夫です。リディス様もきっと立派な魔女になれます」

 黒猫がはげまし。

「そうだな。とっととなってもらわないと困る」

「そんなこと言われても」

 孫はしゅんとし、黒猫は励まし続けている。

「何が困るんだ」

「今、動けるのは私だけ。南と北は動かない。特に北は。ちぃっ」

 余程嫌いなのは、盛大な舌打ち。

「西の魔女は」

「今、動いているのは弟子だ。西の魔女は動けない。九十を越えているからな。薬作りも弟子に任せているが、西の魔女ほどのものは。弟子は弟子で西の魔女ほど優秀ではない。結果」

 すべての面倒ごとが東の魔女であるラビアに。

「弟子をまとめる力も、もうないのだろう」

 ラビアは小さく息を吐き。

「まあ、いくつか無視しているが。はあ、ますます面倒になりそうだから、完全に閉じこもるか」

「おい」

 西の魔女がもっともまともなのだろう。

 その孫を見た。黒猫にはげまされ。視線に気づいたのか。

「何か」

 小さく首を傾げ。

「いや、あんなものにまとわりつかれて、平気でいられると思って」

 今も彼女の周りを黒いもやおおっている。けがれ、精霊が嫌う。なんとなくわかるような。

「見えていませんし。あ、今の言わないでくださいよ。言えば見えるようになれ、とおしかりを受けます」

 孫は真剣な表情。右人差し指を立て。

「あとは姉さんがほどこしてくれたまもりのおかげです」

「護り?」

「こういうものが、わたしに害をなさないよう、結界、といいますか。そういうもので護ってくれているのです」

 そういえば、あの子にも護りを施していると。

「十八歳まで、ですが」

「十八?」

「ええ。おばあちゃん、西の魔女との約束で十八歳まで護られます。十八になると解けるので、それまでになんとかしないといけないのですが」

 肩を落として、しゅんと。

「今、何歳なの」

 白慈はくじが尋ねる。

「十五です。あと三年です」

 しゅん、しゅんとさらにしおれ。

「大丈夫です。きっと立派な魔女になれます。いざとなれば魔女様に頼んで」

 黒猫は励まし続け。

「うう、それをやれば、さらなるお叱りを」

 簡単に想像、できてしまう。

うわさとは随分違うね。こちらでは東の魔女は破壊の魔女だと」

 白慈はくじもそう感じたらしい。その魔女はノームと話している。

「それは、人が勝手に。いえ、魔法協会が汚れ仕事を押し付けているようなものです。勝手に名乗る者もいますし」

 孫は膝に両手を落とし、ぎゅっと握る。

「村を焼き払ったのは、それ以上の被害を防ぐため」

「被害を防ぐ?」

「はい。その村では原因不明の病が。厄介なことに、その村の誰かが、何かが移動、外に出てもそこから広がっていく、というものでした。すべてくさり、広がっていく」

「っ」

のちに判明したのですが、そういう病の魔法だったようです。魔法協会は全力で原因を探し、薬を作っていました。その間、村全体に結界を張り、出るのを、広がるのを防いでいたのです」

「広がるってことは、人や動物だけでなく」

 白慈はくじは真剣な顔で。

「はい。大地も腐っていたのです」

 孫はうつむき、話し続ける。

「結界を張り続けていた魔法使いもおかされ。打つ手はないと。すべて焼き払い、浄化する決断を下したのです。ですが、北の魔女様は動かず、南の魔女様にそれができるだけの魔力はない。それは、西の魔女である、おばあちゃんも。できたのは」

 顔を上げ、見たのはラビア。

「責任はすべて魔法協会が持つと。協会のかたも苦渋の決断だったのでしょう。どこまで広がるかわからない。薬もいつできるか」

 被害の小さいうちに。

「浄化時には村の方々かたがたはもう、手遅れ、生きているものはいませんでした。結界を張っていた魔法使いも。協会は新たな魔法使いを送らず。大地は腐り続け」

「ラ、東の魔女が浄化して、止まった?」

「はい。サラマンダー様でもできたでしょう。ですが呼び出し、頼めるのも姉さんだけ。それにサラマンダー様に頼んでも、細かな範囲は気にせず、無事な所も燃やしてしまうかも」

 小さく息を吐き出す。白慈はくじはお茶をれ、差し出した。

「すべては魔法協会の決断、だったのですが、どこからか東の魔女がやったと知れ。何も知らない者は、気まぐれで村一つ焼き払ったと。混乱させないよう、知っていた者も限られ。その、村の外には身内がいた方もいらして。ですが相手は魔女」

 恨んでも憎んでも、手も足も出ない。返り討ちにう。

「クファール達まで間違って」

 傍にいた師弟か。

「北の魔女様とのことも。あれも、悪いのは行った人なのに」

「行った人?」

「はい。どこかのお金持ちが面白おもしろがって北の魔女様の住んでいる場所に。行って行方不明。父親が魔法協会に大金を払い」

「……」

「北の魔女様にお会いしたことはありませんが、おばあちゃんは、気難しい、自分にしか興味がない。近づいてはいけない、と聞いていました。北の魔女様の住んでいる所は一年中氷に閉ざされています。侵入者撃退もいくつか仕掛けているでしょう」

 そんな所に面白がって。

「協会のかたも行きたくなかったようで、姉さんに頼み。何があったのかはよくわかりませんが、北の魔女様と大喧嘩したようで」

 雪崩なだれに巻き込まれ、永眠してくれていれば、と言っていた。

「その、行った人は、どうなったの」

「なんとか見つけて、帰ってきました。そして、りずにまた何か馬鹿をしたとか。姉さんは半年、協会からの依頼を受けず。協会の方は頭をかかえ」

「……」

「おばあちゃんも、若い頃はそういうことを頼まれていたようです。よく言っていました。魔女とは、誰もやりたがらない、できないことを押し付けられる、損な者だと。できないこともあるのに、魔女のくせにできないのかと」

 真実を知っているのは一部の者。知らない者からは恐れられ。子供の頃から人の汚い部分を。

「東の魔女を十歳で継いだと言っていたが、先代は若くして」

 血族なら、ラビアの母が先代、東の魔女。

「先代はおばあちゃんと同じくらいの年でした」

 おばあちゃん。祖母。それなら、この子と同じように母親は。

「先代の東の魔女様に血縁はいません。あのかたは先代がどこからか連れてきた方です」

 黒猫が。

「どこからか連れて来た?」

「はい。出自は不明。ですので、竜や精霊、魔族との混血、とも言われているのです」

「ふうん。あの子は長く生きているの?」

「いいえ。人と同じです。ですが魔女様なら成長を遅らせる、ゆっくりさせる方法はご存知のはずです。不老不死は無理ですが、長寿、くらいは」

 黒猫は説明。白慈はくじは笑顔で白夜びゃくやを見る。嫌な予感。

 手を伸ばし、ぽん、と肩を叩く。

「頑張って」

「何を」

 白斗はくと白亜はくあにまで同じことを言われ。

「そうだ」

 ノームとの話しは一段落したのか、ラビアは孫を見る。

「精霊の一体、二体は呼べるようになっただろうな」

「え、え~と、わたし、こんなのですし」

「それでも呼び出せるだろう。呼び出して、それをなんとかしてもらうことも」

「姉さんのようにはできませんよぉ」

 情けない声で。

「誰がこいつらを呼び出せと言った」

 ノームをし。

「水の精霊くらいなら」

 うう~、となさけない顔に。

「魔女様は四大精霊すべて呼び出して、使役することができるのです。西の魔女様でさえ、呼び出せて一体。ウンディーネ様だけ」

 なぜか詳しい黒猫。

 四大精霊は竜王と等しい力を持っていると。それを使役できる。……。

「あ、そろそろ戻らないと。こっそり抜け出してきたので。お邪魔しました~」

 黒猫を抱き上げ、部屋から駆け出していく。

「ち、逃げたな」

 ノームはほっと息を吐いていた。

なつかれているな」

「赤ん坊の頃から見ていたからな」

 姉代わり、か。あの子も姉さんと親しみを込めて。

「心配じゃないのか」

「何が」

「あんなものに」

「まったく、ではないが、手を出してもためにならないのはわかっている。私もおばあちゃんにやられた」

 どういう教育をしていたのか。

「一つ上手くかけていたのがあったな。あれは手こずるだろう。西の魔女でも返せるか。浄化できるかどうか」

「本当に大丈夫なのか」

「さあ。だが、あの女がやると言った。私がやれば契約違反。あの女にも何か」

「あの女?」

「クファールの弟子の女だ。言っていただろう。わたしがなんとかしてやると。魔法使いの言葉には魔力が宿やどる」

「つまり、あの子にまとわりついているものをあの弟子がなんとかしないと、いけない?」

「そういうことだ」

「……めたな」

「なんのことだ」

 しれっと。

 師も、もう一人いた女性もわかっていた。だから必死に止めた。最終的にラビアに頼もうと。しかし、それも。今頃二人からしかられ、説明されているだろう。

「西の魔女にもあれははっきり見えているのか」

「いや、お前と同じ、ぼんやり。私は、見えすぎるらしい」

 苦笑? なのか。笑って。

「魔王ならはっきり見えるかもな。あれもすごかった」

「……」

 魔王の娘と呼ばれるのもわかるような。

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