第5話
人捜しなどすぐ終わる。と考えていたが、ここもここで人の地と同じ、様々あり。なかなか終わらない。
魔法協会からくる仕事は無視して。いつまでも帰らないのは。
朝はなぜかわからないが説教され。あの姿でなければいいのか。
あの姿で歩いて、来た奴を片っ端から絞めれば。
おそらく別の竜の地でも、協力者? 首謀者?
屋根の上から、青く澄んだ空を見ていた。
「馬鹿はしていなかっただろうな」
「なんことだ」
「帰ってくる途中、美人が歩いていたと。どう聞いても、お前の容姿そっくりなんだが」
「この姿に」
ネズミの姿。
「とぼける気か。人の姿だ。今朝も言ったが」
「
「それでも、だ」
「魔法をかけられていた娘の親から感謝された。
「しない。かけた奴に仕返しした。解いて再びかけてこられても、はね返す護りは
「過ぎれば」
「解ける。いつまでも頼られても。髪、とは限らないが取られない限り、大丈夫だろう。
「そう、だが」
「頼まれたら断れないのか。私は誰だろうと、はっきり、ばっさり」
「断るんだろ。西の魔女は苦労しているな。とにかく、感謝され、魔力が上手く発散できなかった子供のことも知れて」
「お前達が知らなかっただけ」
「そのことが上司の耳に入り、一から説明。純粋な竜側を調べてくれる。少し待て。そして目立つことはするな」
純粋な竜の屋敷にも忍び込んだ。無駄に広く、一日に二軒しか調べられなかった。
「まさか、ここに出入りしている姿も」
「見られていない。見られていいのなら」
「よくない。これ以上事態をややこしくしないでくれ」
「ややこしいことになっているのか?」
「ああ。誤解が」
「……もしかして、恋人に勘違い」
「いない」
ぼそっと。
「ん?」
「そんな者などいないと言っているんだ。言わせるな」
再び小さな頬をつねられ。
赤い髪、金の瞳。
「今のところ、人の地では大人気だな。欠点とかないのか」
「なんの話しだ」
「お腹空いた」
また頬をつねられた。
私は一体何をやっている。
見た目、十歳前後の子供六人に囲まれ、魔法を教えていた。
最初に教えた子は、あれからよく眠れ、食べ、部屋が荒れることもなく、なんともいえない気分はないと。すぐ疲れることもなく。他の子供と一緒に元気に遊んでいると。
そして話を聞いた、似たような症状の子供達がここに。
まず、初歩を教えていた。文句を言う子はおらず真剣。周りから色々言われているのか。
「まほうってどんなことができるんです」と質問されることも。
「大まかに
「大まか? 三つ?」
「攻撃と治癒、防御」
「こうげき?」
「ちゆ、ぼうぎょ?」
子供達は首を傾げ。
「治癒というのは怪我を治す魔法。
「なんだ」
「そこから石でも、その木剣でもいい、投げろ」
「当たるんじゃ」
「当たらない。実演だ」
白夜は渋々、手に持っている剣を投げた。
剣はラビアに当たることなく、離れた所で何かに弾かれたように地面に落ちる。
「お前達も近づいてくればわかる」
恐る恐る、すぐに行動、と性格が出ている。
「あれ、ここから進めない」
「え、何もないのに」
ラビアの周りをぺたぺた。
「これが防御、結界というもの。見える者には見える」
子供達はむう、と目を細め。
「薄い
「そうだ。お前、見えるのか」
「この距離なら。離れれば見えない」
子供達は結界に張り付いて見ているが、白夜はその子供達の後ろから見ている。
「随分目がいいな。それとも竜は。いや、それなら、あの父親にも」
なんらかの形で娘を苦しめていた、まとわりついていたものが見えたはず。それが白夜には見え、あの父親には見えなかった。
「これが、ぼうぎょ?」
「ああ。これで身を護る。とはいえ、竜は体が頑丈で、傷の治りも早いと」
聞いた。
「広くも、小さくもできる」
結界を広げると、子供達は押され、ラビアから離れて行く。
「じゃあ、こうげきは」
結界を解き、右人差し指をたて、
「炎よ」
指先に十センチほどの火の球が現れる。
「これをぶつけたりする。が、まずは基礎。基礎を
炎を破裂させる。子供達は目を丸く。
「失敗すれば自分も大怪我する。あっち、剣と同じように」
剣や槍を振っている子供達を見た。人数はこちらより多い。
「炎だけでなく、水、風、土も」
炎と水を風に舞わせる。
「一つを極める魔法使いもいる」
「ひとつをきわめる?」
「炎に特化した者、治癒に特化した者。一つだけを学び、研究し続ける、ということだ。魔法使いは魔法に専念するから、剣士と組んでいることが多い。剣士の補助。魔法を完成させるまで剣士に気を引いてもらったりもする。飛ばすこともできる。一緒に飛ぶことも」
子供達の体を一斉に一メートルほど浮かす。
子供達は驚き、バランスを崩す者も。
「じゃ、じゃあ、竜みたいに飛ぶこともできるの」
「訓練次第で。だが、力が足りなければ、真っ逆さま。落ちる」
浮かすのをやめると地面へ。地面から十センチほどのところで浮かせた。
目を閉じ近くの子に抱きついている子もいれば、呆然としている子も。
「まずは基礎。そこから自分の魔力量を知る」
「まりょくりょう?」
子供達を地面に下ろし。
「魔力量はそれぞれによって違う。例えるなら、コップの水、だ」
「コップの水?」
「水を魔力と例える。コップ一杯の者もいれば、半分の者も。個人により違う。魔力量が少ない者は多いものに比べると、早く魔力が尽きる。まあ、使う魔法にもよるが」
「使うまほう?」
「魔法には大きく魔力を消費する大技と、それほど消費しない小技がある。これも剣と同じ。大打撃を与えられるが、自分も疲れる、とか終わった後を狙われる、隙をつかれる、とかあるだろ」
なぜか剣や槍を振っていた子供まで聞いて。
「オレらと変わらないってことか」
槍を持っている子が。
「訓練方法は違うが、そうだな。剣や槍、体術だって基礎をきちんと習わず、振り回すだけなら」
覚えがあるのか、頷いている子が何人か。
「自分自身を傷つける。だから基礎から、一からやる。一もできていないのに、いきなり五にいくのは無理だ。特に魔法は。ものによっては自分に返ってくるものもある」
「……」
「返ってくるのか」
「くる。唱え間違えれば爆発する。一文字でも間違えれば魔法として完成しない、敵に反射されれば。それに」
声をおとし。
「この前の、苦しめる魔法を見ただろう。ああいうのは失敗すれば自分に返る。だから対策をとっている者もいるのだが」
「あまり、いい方法じゃなさそうだな」
「その通り。自分じゃなく、他の人、動物になすりつける、肩代わりさせる」
「言葉にも気をつけろ。言った言葉が魔法になる場合もある」
「言葉がまほう?」
「
特に加減のわからない子供は。
「師匠とお姉さん、どっちが強い」
「……」
「魔法を使ったのなら、私」
胸を張り。
「何か武道を」
「剣を習っていた。剣の腕だけなら、負ける、かも」
「かも?」
「まず力が違う。時間が長くなれば体力のない私が負ける。あくまで魔法を使わなければ。使えば瞬殺」
「あと、確実に
「そうか」
そう言うと、どこかに。
「これは振れるか」
持ってきたのは木剣。子供達も木剣や木槍で練習している。
持ち手をラビアに。
「魔法は」
「なし。俺が負けるのだろう」
「どれだけの耐久か試してみたいような」
「やめろ。俺にも仕事がある」
西竜王の家の警備、だろうか。興味がなかったので聞いていない。逆に聞き返されても。
近頃、剣を振っていない。受け取り、素振り。
「ふむ」
簡単に動き、白夜と向き合う。
髪は
先に動く。軽いので受けられ。魔法を使えば押し潰せるのだが。
「急所、というか、確実仕留められる場所ばかり狙ってきたな」
額、首、心臓、斬るというより突き。
「剣の腕だけなら負けるかも、と言っただろう。なぜ、こんなことで体力を使わないといけない。今日もこの姿でいてやる」
呼吸を整え。
「やめろ」
白夜は子供達に教えに戻る。
ラビアは地面に座り、大きく息を吐いた。
「お姉さんも強いんだね」
子供が寄ってくる。
「さあ、どうかな。上には上がいる。上ばかり見ていても仕方ないが、下ばかり見ていても」
「師匠も強い。なんたって、三将の一人に選ばれたんだから。おれもいつか師匠みたいに」
「三将の一人?」
「知らないの」
「知らない」
「それぞれの地に三将っていって、三人の強い竜がいるんだ」
それぞれ。四つの地。合わせて十二。
「師匠は純粋な竜以外で初めて、その三将の一人になったんだ」
子供は自分のことのように誇らしそうに。
「他の地は」
「どうだろう。交流ないし。あ、一年に一度、竜王様達や三将達が集まって、御前試合っていうのをやるみたい」
試合。竜王同士が戦うのか。見たい、かも。
「竜じゃないと他の地へは渡れないんだ。ここも広いけど」
人の地も海を渡らないと行けない地がある。それと同じか。
「
「
聞いた話を口々に。
「魔族とも戦っている」
「魔族がでるのか」
魔族の棲み処は地の底。人の地が近いため、人の地だけに現れるのだと。
ただ、魔族にも
「空を飛んで来るんだ」
それはそうだろう。ここは空。
人の地にも空を飛ぶ魔族はいるが、飛んでいるのは魔族だけでなく、精霊、妖精、竜も。
飛んでいるのなら、竜になれる方が有利か。常識外れの人もいる。竜と人の子となれば。
「師匠は馬鹿にされても、一生懸命頑張って、
「馬鹿にされても?」
「ぼく達みたいな竜と人の子は
「……」
そういえば、最初に見つけた女性のいた所の男も、
「師匠は西竜王様の奥方様とも仲が良いから」
人と変わらないなぁ、と。
だが純粋な竜が減り続ければ。
おそらく、ここも竜王達のなんらかの力で浮いているのだろう。空気も薄くない。人の地と同じ。それとも道具、か。道具なら点検しないと、ずっとはもたない。
いずれ竜も人の地に下りてくるのか。
記憶を消してやろうか、と考えることも。ここでの少ない協力者。ご飯に寝床。終わってから消しても遅くないかと。ばれないように外に出ていた。
「こんにちは」
人の姿で歩いていると声をかけられ。
高い声。見ると、女が笑顔で。
「竜?」
「はずれ。あんた、人だろ」
気安く、明るい口調。女は黒の色眼鏡をかけており、瞳の色はわかりにくい。
「最近この辺りを美人が歩いているって聞いたから。竜に連れて来られた
「印?」
「
「いや」
首を左右に振る。
「ふうん。だったら相手を
「……捜しているは、捜している」
「なんだい、それは」
女は軽く笑い。
「うちらなら紹介してあげられるよ。純粋な竜でも、顔のいい竜でも。あんたほどなら」
じっと見てくる。
「断れば」
「残念だけど、断れないよ」
女の背後から二人の男が。さらにラビアの背後からも三人。口笛を吹いている男も。
「丁重に扱いな。高く売れる」
そういえば、最初に見つけ、助け出した女性、その後見つけた女性の何人かが、女が面倒を見てくれたと。
「ついてくるだろ」
眼鏡を戻し、女は歪んだ笑み。
「人の地から女性を
「需要と供給」
女は顎をしゃくり。歩け、ということだろう。ついて歩く。
「お前は竜の妻?
「随分偉そうな口を
「思ったことはない。この顔で馬鹿なことを言われ、面倒にも巻き込まれた。今も」
「はは、そうかい」
「正体がばれると、皆、
「は? なんだいそれは。ああ、精霊と人の子、かい。彼ら彼女らもきれいな容姿をしているから。高い値がつく」
「違うが。まあ、いいか。知らない方が幸せだとも言うし」
隠すように逃げられないように、周りには男達が。
「アエリ、という女性を知っているか。明るい茶色の髪と瞳。年は二十歳」
「さあ、一人一人覚えていないよ」
前を歩く女は小さく肩をすくめ。
「つまり、今までにも何人も」
「さっきも言ったけど、需要と供給。大喜びの娘もいた。次まで間があるけど、早めるか。下の連中にも連絡をとって」
「どうやって連絡をとっている。ここは竜に連れて来てもらうか、道を使わないと」
「
どこをどう歩いたか。家の数は減り、三軒並んでぽつんと建っている場所に。
真ん中の家、玄関の扉を開け、中へ。
「ここには今、連れて来られた娘はいるのか」
外観はぼろかったが、中はきれい。
「いないよ」
「それなら、燃やしても文句は言われないか」
「は? 何を言っている。恐怖でおかしくなった?」
「いや。上手く
女も、男も笑っていたが、数秒後、それは悲鳴に変わった。
「
「……」
男はぼんやりして。
「白夜はいるか」
再び、はっきり、ゆっくり。
「あ、びゃ、白夜殿ですね。います。まだ帰っていない、はず。出て行くのを見ていませんので」
「どこに行けば会える」
「案内します」
「いいのか」
「かまいません。こちらです」
男は右手と右足を出して歩き出した。
白夜が買ったショールをかぶり、顔を隠した。
「
二人と手合わせしていると呼ばれ、見ると、門番をしている男が。その背から女性が。
「もしかして、あれが
「違います。知り合いです」
ラビアは門番に小さく頭を下げ、こちらに。
「何をしている」
白夜も
「顔は隠してきた。あの男には見せたが。ネズミの姿でここに来るのは時間がかかる。中を物色していいのなら」
「するな。用件は」
「娘を
「……」
「焼いてはいない。証拠を燃やしても。逃げられては困るから、気絶させて、動けないようにはしている。とはいえ、いつまで気絶しているか。あの場所にいない仲間が戻ってくれば」
ラビアは息を吐き。
「招待状が何枚かあったから、それは持ってきた」
手には白い封筒。
「あれは一部だろう。他にもいるような口ぶりだった」
「あれほど、勝手をするなと、言っただろう」
声を低く、怒りをにじませ。
「なにをしている」
一言、一言はっきりと。
「
ラビアの両頬をつねる。
「おいおいおい。何をしている。
それまで見ていた二人が傍に。
「いえ、勝手をして、危険な場所に飛び込んだようなので」
「はあ?」
「あれくらいっ」
「おや、久しぶり。なぜ、ここに」
「娘を
「さらりと言うな」
「……」
白慈は笑い、二人は黙り。細い体。どう見ても荒仕事とは無縁。黙って立っていれば護らなければと思わなくも。
「ここに書かれている名前はさっぱり。そちらが詳しいだろう。女もいたが、男は竜と人の子ばかりだった。あ、子供でなく、大人」
封筒を持っている手を振っている。
「そういうわけです。俺は今からそちらに。
手にある招待状とやらを奪い取り、
「こちらをお願いします」
有無を言わせず、上司の
「あ、ああ」
「行くぞ」
右手首を握り、その場から足早に。
迷いながらも、その屋敷に辿り着くと、女性が一人、男が五人、倒れていた。
「増えていないし、減ってもいない」
ラビアは倒れている者を見て。
見かけに
怒り、呆れ、安堵。なんともいえない気持ちに。
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