第20話 如来を目指す魂

 僕らは、あてもなく森林の中を進んでいた。はたして、デモネードの心の中の何処に悪の元凶が存在するのか? やみくもに動いてもとき が過ぎて行くだけではないのか? そんな焦る気持ちが生まれて来る。

 いかん、いかん。僕の心がそんな思いを抱いてどうする。信じるんだ。ホワレーン経の力と己自信を!

 そう決意して、心を落ち着かそうと目を閉じて、合掌するのだった。そうだ追いかける必要などない。運命を受け入れて、待てば良いのだ。そうすれば、道が開かれるだろう……。

 その境地になった瞬間に身体から輝く光が溢れだして、包まれた感覚になったのだ。



 *****


 目を開けると、周りに他の三人の気配を感じなかった。これからは、一人か。否、何時も僕の心に皆が存在したんだ。勿論これからもだ。

 此処は、中央に赤いカーペットが敷いてあり、三段高い玉座まで続いている。凄い豪華な装飾の場所だな。謁見の間と言う場所であろう。玉座には、若く美しい女王陛下が座っていた。その御方は、長い黒髪に透き通るように白い肌であり、僕は目を奪われてしまう。この感じ、何処かで……。

 一段下の脇に大臣か爺やかは、分からないが老人がいる。その横に鎧は着てないが剣装備の銀髪の女性剣士が立っていた。僕は、女王陛下達に御挨拶と自己紹介をさせてもらった。


「私は、女王のサーラ。古より言い伝えられし、勇者よ。ピュアネード城へようこそ。あなたが来るのを待ち望んでました。現在この城内は、邪悪な気によって満ちてます。どうか、お救い下さい」


「尽力いたします」

 

 僕が迷える心を光へ導く勇者の存在か。どうやらこの城は、デモネードの良心の最後の砦と言った所か。サーラ女王陛下が希望の鍵だな。悪魔が作る闇から守り抜かなければ。その決意を皆に伝えた。


「くっくっくっ……悪あがきは止めておけ。おとなしく、闇に飲まれるのだ。抵抗するだけ苦しいだけだ。ただ欲望に身を委ねれば、楽でいられるぞ。わしは、もう一人のわしの囁きのままに動くと快感なのだぁ」

 

「ギリダラス、大臣のあなたがどうしたのです? 正気にお戻りなさい!」


 大臣と呼ばれる老人の目は白目まで真紅に変わっていた。サーラ陛下が言葉をかけても、まるでお構いなしの様子だ。それどころか服を脱ぎだした。何をするつもりなんだ? 途中で、カランと音がする。見ると隠し持っていた短剣が床に転がっていた。それには、無関心の様子だ。とうとう老大臣は、一糸まと わぬ姿になったと思うと、段を駆け下りた。そのまま謁見の間から飛び出て行った。あの姿で走り回るのが奴の欲望か!? に、逃がしていいのかな。

 大臣の事は、城内の衛兵にでも任すしかないと自分に言い聞かして、サーラ陛下の方を向く。僕は、思わず息を呑む。女性剣士がサーラ陛下の喉に噛みついていたのだ。喉の傷は、血を吸われたようだな。女剣士は僕を見て、ほくそ笑んだ。


「さあ、サーラ。あの男を倒しなさい。そうすれば、後でたっぷりと私が可愛がってあげるわよ」


「はい……ダークローズ様」


 ダークローズとは、何者なのだ? サーラ陛下が落ちていた短剣を拾って僕の方に近づいて来る。僕は、黙ったままで女王陛下を見つめたまま静止状態だ。あと少しで、短剣が僕の体に刺さりそうな距離で、ためらっている。それを見て許せないダークローズの怒号が謁見の間に反響した。それでもサーラ陛下は応じずに、ついには短剣をその場に落としたのだ。そのままサーラ陛下は僕に倒れ込むように抱き着いた。僕も優しく抱きしめた。ダークローズが気になり見てみると、姿が消えていた。


「今回は、私の負けだ! だが、また何処かの世界で出会う事になるだろう! あっ、はははははは!」


 ダークローズの大声だけが城内に響いて、見上げる頭上からは、大きな白い抜けた羽が幾つか舞い落ちて来たのだ。

 少しすると謁見の間に太陽の光が差した。光を浴びたサーラ陛下の首の噛み傷は治癒されていく。これでもう大丈夫だろう。僕は、サーラ女王陛下に別れを告げた。

 デモネードの心の魔は去り、闇は取り去られるだろうから目的は達成したはずだ……。



 *****


 鳥のさえずりが、耳に入って来る。外が明るくなってきたのを感じた頃。官邸地下の施設にいたシャリーとモーレンが、慌てた様子で入って来た。だが今の僕は、焦る必要はない事を知っているので椅子に座ったままで落ち着いている。


「超統領、今、シレーン共和国在住の我が国の大使から連絡が入りました。デモネードが本日のサンブック国、超統領官邸を目標の攻撃を中止と、国の統合計画を白紙にすると発表。そればかりか、今までの政策を全て就任前のシレーン共和国の状態に戻す指示をして、己は超統領を辞任しました。その後に何故か服を脱いで、素っ裸で外に走りに行ったそうです。それは、無邪気な子供のような笑顔をしていたそうです……」


「そうか……平和が、人々の笑顔が守られて良かった。モーレンどうしたんだい? 涙なんか流して……」

 

 官邸の窓の外を見ると、太陽が輝く良い天気になりそうだ。沙羅の木々が一斉に花を咲かしているのが見えた。綺麗だ……。そう思いながら僕は、静かに目を閉じた。その死に顔は満足で安らかであった。



 *****


 どうやら僕は、生命の限界までエネルギーを使い果たしてしまったのかもしれない。まぁ、惑星ブラーフの全ての民を救えたとするならば、それで魂の修業は早く終了となることも理解できる。

 さてと次は、いよいよ如来への道となるのだろうか? 上級ランクの魂の者を待っている惑星は、まだまだ沢山あるのだ。だからこの話しを聞いた人は、魂の修業を頑張って欲しいんだ。そして魂ランク上級になってもらいたいものだ。さあ、待っているよ。


「少し、よいかな」

 

 突然の声に緊張が走る。


「あなたは、ホワレーン経の偉大なる如来様。何の御用でしょうか?」


 偉大なる如来様は、僕に命じられた。如来への道の前に、ある惑星に菩薩として観察に行って欲しいとの事であった。そこは、惑星ブラーフに似ているそうなのだ。だったら難しく考えないでいいのかな?

 おっと、次の世界で産まれる心への扉が現れた。さあ、出発だ。

 

 あっ、僕の呼び名かい? そうだな如来への前だから、零式菩薩とでも名乗ろうか……。

                                  おわり

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僕の魂修行の異世界転生 零式菩薩改 @reisiki-b-kai

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