第18話 漆黒のドア

 僕は、国民にシレーン共和国からの要求と官邸が攻撃をされる事などを国営放送を使用して、包み隠さずに発表した。そのうえで、要求を受け入れない決定をした事と、反撃も行わない事を告げたのだ。そして、首都からの住民の避難を全力で行う計画を発表する。住民の反対意見が耳に入って来る事は無かった。



 *****


 ついに攻撃前夜が、やって来た。記者会見で僕は、思いを述べる事にした。その模様は、この国は勿論の事、惑星ブラーフの全ての国に衛星中継で放送されるのだ。

 

 「僕は、自由なる独立国であり続ける道を選ぶ。しかしながら、シレーンの民も、この国の民と同様に愛している! だから、殺し合う戦いなど望まない。僕の行動を見て、シレーン共和国が攻撃を思い直してくれることを願っている。どうか国民の皆様には、御理解していただきたい! この放送後から僕は、難を受け入れて、官邸に滞在し、ホワレーン経守護神への祈りを捧げます。以上です」


 記者会見は、皆が冷静で落ち着いたものとなった。問題なく終了する事が出来た。僕の覚悟を察してくれたのかもしれないな……。



 *****


 超統領官邸の窓を開けて、空を見上げると満月と満天の星空がとても綺麗だ。

 迷いも不安もない。心は、とても穏やかだった。

 全てのホワレーン教信者が、祈ってくれるらしい。信仰してない人々も、今回は共にする事を聞いている。

 僕が居なくなったなら、その後の国の方針は、国民投票で決定する事になっているが、そんな国民が、間違える選択などする事はないだろう。


「大丈夫だな」


 そう呟き、合掌して目を閉じる。僕の身は、どうなっても構いません。どうか、この惑星ブラーフの民の笑顔を守り、安寧に暮らせる世界を。そう、ホワレーン経の守護神に心から願った……。

 すると、眼を閉じていても、心の目が漆黒色のドアを発見した。これは? そうか、デモネードの悪に染まっている心だな。僕の思いが三千世界のデモネードの心を捉えたか! 

 僕は、迷わずに漆黒色のドアを開けて、中に飛び込んだ……。


 真っ暗な暗闇の中。物音一つしない場所に僕は立っていた。この場所は、どうなっているんだ? やがて暗闇が明るく照らされた。光輝く満月が目に飛び込んだ。すると、月の光の下、長い黒髪に透き通るように白い肌。白色のドレス姿の若く美しい女性が見える。僕を見ているようだ。考えても仕方がない。

 僕は、彼女に向かって走り出す。全速力だ。あと少しで会話が出来るであろう距離まで来た時だ。

 時計のアラームの音が鳴り響く。僕は、目を覚ますと、アラームを止めた。あの夢は何だったのだろうか? その前の夢で、凄く偉い人になった気がするのだが……。僕の将来の夢は、警察官になる事なんだけど、警察署長になった夢じゃなかったよなぁ。まぁ、考えても仕方がない。夢なんだし。

 取りあえずは登校する前に、朝ご飯だな。ベッドから起き上がると、高校の制服に着替えた。そして、キッチンへと向かうのだった。



 *****


 期末試験が終わり試験休みになっている為、校内は、ひっそりとしていた。僕みたいに部活動で来る者だけだからな。文芸部の部室の前まで来ると、ほっとした気持ちで入室した。すると、黒色のブレザーの制服姿の女生徒一人が席に座っている。もり リエか。来ていたんだな。何かをやっているようだ。興味本位と挨拶をするために彼女に近寄る。


「森、おはよう」


「どうも」


 僕が挨拶すると、森は少し嫌そうな顔をした様に見えた。森は返事をしてくれたが、あの返事は悲しいな。まぁ、普段の森を知っているので、無視されるよりは良しとしよう。どうやらタロットカードらしき物をしているようだ。


「なぁ、実芭みば 美樹みき は来てるの? 知ってる?」


 間が持たないので、たまらずに他の女子部員の事を尋ねてみた。二人は、菓子や飲料を買い出しに行っているようである。森は、むっとしているような感じに思えた。掛けている銀縁眼鏡のレンズの奥の目がにら んでいる様に思える。まずいな。もう話しかけるのは無理だな。

 

「さぁ、やるか!」


 森に聞こえるように、大きな声で宣言する。もう、あなたに関わりませんをアピールしてから、制服のポケットからポータブルゲームを取り出した。部活に来たのだから、文芸部らしく小説でも描くべきなのだろう。しかし、文芸学部のある大学を目指す訳じゃないからな。卒業後に就職する僕は、限られた学生生活を楽しみに来ているのだ。ゲーム部の無いこの高校が駄目なのだ! と、勝手な主張を思いながら、ポータブルゲーム機のスイッチをオンにした。

 ゲームに熱中していると、部室のドアが開く音がした。思わず音の方を見ると、エコバッグを持った美樹が入って来る。買い出しから帰って来たのか。美樹と朝の挨拶を交わすと、実芭も後からも入って来る。


「ミドレン、おはよう!」


 実芭が僕に挨拶をしたのだ。それはいいとして、ミドレン? その名前に僕の心が騒めいた。なぜだ……。僕の名前は、蓮輔れんすけ だぞ。取りあえずミドレンとは、誰なのか尋ねてみた。


「何を言っているのよ。ミドレンは、あんたでしょ。入部仕立ての自己紹介の時、『僕は、緑山蓮輔 みどりやまれんすけだ。ミドレンと呼んでよ』って言ったじゃない。その時は、漫画の主人公かと思ったわよ」


 そんな事を言っていたのか。何だか記憶が曖昧だ。まぁ、自分で言ったのなら納得だ。その呼び名に悪い気がしない。

 二人は僕の事など、お構いなしに菓子や飲料を机に並べだした。実芭が僕に緑茶を渡してくれる。ミドレンなだけにと言う事らしい。こういう冗談的行為をする女子は、好意が持てるからいいか。

 二人は、コンビニに買い物をしたようだ。店の前に面白い男が居たと話し出した。どんな奴だと聞いてみたんだ。男は、コンビニ店の入り口辺りのコンセントを使用して、コンロで焼肉を焼いていた。そう言って二人は笑った。しかし僕は、笑う気にならなかった。言いようのない不安に襲われる。何だ? 嫌な予感がする……。


「来るわよ! カードが示している!」

 

 部室に森の大声が響く。ど、どうしたんだ? おとなしい森らしくないじゃないか。そう思ったのも束の間だった。バターンと思いっきり部室のドアが開けられた。俺は、目を疑った。そこには、髑髏どくろ プリントの黒いTシャツを着た男がナイフを持っていた。男は、鋭い目つきをして、舌を出していた。

 実芭と美樹がコンビニに居た男だと怯えている。女子達を追って来たのか? ナイフに赤い血が付着している。肉を切ったためなのか? それとも……? 


「目覚めて、超統領! ここは、繰り返される魔の時空の中よ」


 森のその言葉で、僕は自然と身体が反応した。両手を合掌させて、眼を閉じて祈る。すると、漆黒色のドアが出現する。目を開けると、実際に部室に漆黒ドアが存在していたのだ。戸惑ったが、森がドアに入るように叫び勧めた。あの男に殺されるのはごめんだ。皆も同じ思いであろう。一同は躊躇ちゅうちょ する余裕もなく、漆黒ドアの中の暗闇へと飛び込んだ。すると、何故か意識が遠くなっていった……。

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