第17話 師弟と運命

 デモネード超統領は、シレーン共和国に信仰禁止法を制定した。これにより、あらゆる宗教が弾圧された。崇拝すべきは、己であると言わんばかりの独裁体制を強固にしているのである。

 惑星ブラーフは、ホワレーン経信者の人口数が圧倒的に多い。シレーン共和国もしかり。それを弾圧することは、全ての国々に対する宣戦布告のようなものだ。まさかデモネードは、武力で惑星統一する野望を考えているんじゃないだろうな? そんな懸念が生じて、落ち着かない毎日だ。

 

 やがて、僕の心配は、現実となったのだ。シレーン共和国外務大臣からの通達が届いた。内容は、シレーン共和国とサンブック国が統一国家となり、発展しようとのことだった。しかし、こちらは無条件での統合とあった。これは、事実上の征服だ。七日後に返答のない場合は、次の日の朝に超統領官邸を目標として、新兵器の攻撃をする。それからの交渉再開という無茶苦茶なものだ……。

 

 もう僕は、追い込まれていた。こちらもシレーン共和国と同様の新兵器、デスギーフトを開発するしかないと決断したのだ。それをシレーン共和国に通達し、交渉の手段にするしかない。もう悩んでいる時間は無い。泥でも何でも被ってやるさ。サンブック国民の生命と自由の為ならば……。でも流石に僕一人の決定では、大量破壊殺人兵器と言われる物の配備は、反対するホワレーン経の信者も多数現れるであろう事が予想される。それならば、大房主ビッグボウズ 様の許可を貰うしかないと考えた。

 超統領専用の電動馬車が静かに大寺院の前に停車する。

 護衛のモーレンとシャリーに大寺院の入り口で待つように命令し、大房主ビッグボウズ 様の所へ向かう足取りは、重かった。



 *****


「はぁ? デスギーフトを製造するのを許可してくれ? なんじゃそれ? 葬儀に配るんか?」


唐突に話をした僕が馬鹿だった。大房主ビッグボウズ 様に、シレーン共和国の状況やデモネードの非道な行い。そして、サンブック国の危機的状況を説明し、国と民を救う手段として、デスギーフト製造と万が一の時の先制使用の覚悟を話した。


「許可は、できんのう。お前さんどうしたんじゃ? 愛ある故の超統領になったんじゃろ? ホワレーン経信者じゃろ? とにかく、駄目なものは、駄目じゃ。聞けぬなら、破門じゃ」


「……」


 大房主ビッグボウズ 様の返答を聞いて僕は、静かに目を閉じた。その瞬間に思考を止める。ただ己の心の声を聴くために……。すると、目を閉じているのにもかかわらず、真っ暗な向こうにドアが見える。あれは、子供の頃によく行った姉の部屋のドアだな。懐かしいと思いながらドアを開けてみた。

 ドアの向こう側には、恐ろしい光景があった。全身を炎に包まれた姉の姿がある。姉だけでなく、大勢の人々が炎に包まれている姿が現れたのだ。これは、このまま進むと、シレーンの民とサンブックの民の末路なのだな。嫌だ、僕には出来ない。姉さんやホワレーン教の仲間も、そうでないシレーンの民も傷つけたくない。全ての人々が笑顔で暮らせる世を願う。

 そう思った瞬間に光輝くドアが現れた。僕は、迷わずドアを開ける。すると輝く光の玉が飛び出し、僕と光は一体となる。その後ドアは消滅したのだ。

 姉の部屋のドアの中を見ると、炎は消えて姉は微笑んでいた。僕は、閉じていた目を静かに開いた。

 すると、生まれ変わった気分だ。例えるならば、青虫がさなぎとなり蝶となったような。


「破門は、あり得ません。何故ならば、ホワレーン経は最早、我が身と一体だからです。そして、その僕には新兵器は勿論ですが、武力など必要ないと分かったのです」


「おおっ! お目覚めですな。この時を長く待っておりました。これより、ホワレーン経信者全ては、あなたの仰せの通りに」


 大房主ビッグボウズ 様は、涙ぐんでいた。僕の両手を両手で握ってくれた。温もりを感じる。僕も強く握り返す。今までの感謝を込めて。


大房主ビッグボウズ 様、これからも信者を導いてください。ホワレーン経を、お願いします。僕は、運命の道に向かわねばならないので。これまで、ありがとう……」


 大房主ビッグボウズ 様は、頷かれた。最後は、祖父への感謝の気持ちを伝えるような思いだ。もう会えないであろうと感じていた。言葉には出さなかったけど……さようなら。心の中で呟き、立ち去ったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る