第14話 姉と奇跡

 僕には、歳の離れた姉がいる。姉は身体が弱く、病弱だった。それ故に、外に遊びに行くことなどなくて、ほとんどが家の中での生活だった。だから、忙しい父の仕事を手伝う母の代わりに僕の面倒を見てくれて、可愛がってくれてるんだ。

 今晩も寝る前にお休みのキスを頬にしてくれたから、朝までぐっすりと眠れそうだ……。

 そう思っていたけれど、真夜中に目が覚めてしまった。顔は汗で、びっしょりだ。悪夢にうな されたんだ。蛇男の怪物。あれ多分悪魔だよ。それに追いかけられた夢だった。もう怖くて、たまらなくて眠れないよぉ。

 僕は、ベッドから抜け出して、ふらふらと自分の部屋を出る。


「お姉ちゃーん」


 隣の姉の部屋の前で呼んでいた。すると部屋の扉が開いて、眠そうな顔が現れる。寝ているのを起こして、怒られるかな? と少し不安だった。


「あら、ミドレン。どうしたの? こんな夜中に」


「怖い夢をみて、僕、怖くて……」


「あら、そうなの? 可哀想に、一人で眠れないのね。今夜は、私が一緒に寝てあげるからね」


 そうして、優しい姉の温もりに包まれて、ぐっすり眠る事が出来たのだ。



 *****


 優しい姉が大好きで、僕は、何時も甘えていた……。しかし、ある日に姉が突然に倒れたのだ。

 姉は、直ぐに医師の診断を受けたが、原因は不明だった。取り合えず、病院に入院することになる。

 僕は、毎日見舞いに行った。入院当初は、会話もできた。青ざめた顔でも微笑んでくれた。だが、姉の具合は、日に日に悪くなり、遂には意識不明にまでなったんだ。でも僕は、寝ているだけと思っていたんだ。


「もう、駄目かもしれないな」


「そんな……。ううっ」


 姉の病室の前。父の絶望の言葉に泣き崩れる母を見た。僕は、とても悲しくなった。


「う、嘘だよね? お姉ちゃんが居なくなるなんて、嫌だー!」


 僕は、とても悲しくなった。やりきれない思いに叫んでいた。そして、姉が居なくなるという現実から逃げたかった。だから、病院から全力で駆け出した。何処へなどは考えもせずに……。



 *****


どのくらい走っただろうか? 気が付けば大寺院の前だった。別に目指して来た訳では無いのだけれど。すると、まるで来るのを知っていたかのように大房主ビッグボウズ 様が現れて僕に声を掛けて来た。 

 一人だけで 居るのを不思議に思ったのだろう。その理由を尋ねられて、僕は悲しみの感情を抑える事が出来なくなった。


「うわーん! お姉ちゃんが病気で、病気で。うわーん!」


 大声で泣きわめいた。その姿を見ていた大房主ビッグボウズ 様は僕の思いを理解してくれたと感じる。


「そうか、姉さんを助けたいんじゃな? 泣いているだけでは、駄目だ。願うのじゃ、唱えるのじゃ!」


 その言葉に僕の思いは、絶望から希望に変わるのを実感したんだ。姉を助けたいという願いを叶えるために頑張る決意をした。


「や、やります!」


「よし、今からは、わしの弟子じゃ!」


 厳しい表情だった大房主ビッグボウズ 様の顔が笑顔に変わっていた。



 *****

 

 僕は大房主ビッグボウズ 様の直属の弟子みたいな者になり、ホワレーン経について色々と学んだのだが、何よりも姉の回復を祈願する日々だった……。

 そして、奇跡は起こったのだ。『私を呼ぶのは、ミドレンね』そう言って姉は、突然に意識を取り戻す。体調も見る見る回復して、健康を取り戻したのだった。

 また笑顔の姉を見ることが出来て嬉しかった。僕は、ホワレーン経の守護神に感謝した。

 信仰の大切さ、信じる事の力を実感することができたのだ!

 やがて、成長した姉は、隣国のシレーン共和国のシレーン軍司令官の御子息のもとへ嫁いでいく。大恋愛の末だったので、父と母も反対はしなかった。僕も何よりも姉が幸せを手に入れる事が嬉しかった。

 花嫁姿の姉は、とても美しく、良い笑顔をしていた……。

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