第7話 俺は、猫だ

 さてと、次の世界の話しをしようか。そこは、猿人の世界なんだけど……。まぁ、説明よりも、物語に入るとしよう。

 


 *****


 鏡を見るたび に思う事がある。俺は猫だ……。否、正確には耳が猫の様に頭の上にあるのだ。

 

 ここの惑星の生物界の頂点は、猿人と呼ばれる者なんだ。猿人には、尻尾がある。当然に耳はあり、顔の横に付いている。両親と妹と弟は、何処にでもいる普通の猿人だ。しかし、何故か俺の耳は、猿人がペットにする動物の猫の耳そっくりなのだ。親父が浮気して、出来た愛人の子? それは無い。何故なら、この世界に猫の獣人等が存在しないからだ。

 幼少の頃に親と自分との違いに、『ぼ、僕は、橋の下で拾われた子なの?』そう質問した事がある。そうだと言われたらどうしよう。泣きたくなるのを堪えて、一大決心で親父にたず ねた。すると……。

 『わっはっは! 拾うなら犬がいいぞ。俺は犬派だ』と爆笑で返答された。笑えんわ!


 どうして俺が猫なのかは、分からない。先祖が原因なのだろうか? 改造手術で猫と融合された者がいるとか。それとも化け猫女と関係があり、その血が混じったのか……。漫画の読みすぎだな。

 まぁ、どうであれ俺は、運命を受け入れて、生きていくしかないのだ。これは、試練だな。



 *****


 俺は、頭の耳を両手で握られ、頭を上下左右に揺らされていた。家のリビングのソファーに座り、テレビ観賞を楽しんでいたのに、なぜ邪魔をする?


「ブーン。上に上がりまーす。おっと、敵機襲来! ミサイルを回避します!」


「こら、ペパミン!」


 敵機襲来の回避のため? どうか知らんけど、一層激しく頭を揺らされた俺は、たまらずに大声を出した。すると、弟のペパミンは慌てて両手を離した。

 弟は、まだ小学校低学年の、やんちゃ坊主だ。テレビゲームが大好きなのだが、今は俺がテレビを見ている。そういう時は、俺の猫耳を掴んで遊んで来る。たまったもんじゃない。


「俺の頭の耳は、ジョイスティックじゃないぞ」


「えっ? 違うの?」


「違うわ!」


 わざとらしく、とぼける弟に俺は、怒鳴った。すると、俺の横でテレビを見ていた妹が呆れたような顔をして、俺達の方を見た。


「ちょっと、テレビを見ているんだから静かにしてよ。これだから、猫又ねこまた は嫌いよ」


「……」


 中学生になってから、妹のミケは大人びた。兄である俺を軽蔑けいべつ する発言も度々たびたびするようになった。猫又と言われても、何も言い返せなかった。

 兄が猫であるのも、気にする年頃か? しかし、頭に猫耳のジェスチャーをした姿は、可愛いじゃないか……。いやいや、感心するところじゃないな。

 そう言えば、妹は自分の名前に劣等感コンプレックスを感じているふし があるな。猫の種類の名前だもんなぁ。猫好きの母親が、そう付けたのだろうか? 俺だけ猫の思いをさせない為の親の愛かもな。

 

「なぁ、ミケ。名前とかを気にしない方がいいぞ」


「何よ、急に」


「ほら、俺は、お前がコンプ、何だっけ……コンプレッサーを感じているなと」


「はぁ? 空気が読めない奴とでも言いたいの?」


 ミケは、むっとした様な顔をして、立ち上がった。そして、そのままリビングから出て行ってしまった。

 言い間違えて、へこんでいたが、俺の猫耳を握る手が回るのと、頭を容赦なく、指で押す感覚が、感情を悲しみから怒りに変える。


「ペパミン、俺の耳と頭で必殺技のコマンド入力の練習をするんじゃない!」


「だって、パパが男には、日々の鍛錬たんれんが必要だって言うんだもん」


「そのとうりだ。ペパミン、よく言った!」


 親父の叫び声が耳に飛び込んでくる。ペパミンの発言に反応しやがったな。そして、おふくろと寄り添って寄って来る。


「パパも夜は、ママのために、鍛錬を続けているのだ」


「まぁ、パパったら。夜は、けもの みたいに激しいんだから……」


「さぁ、ペパミンよ。ラキに負けずに続けるのだ!」


「うん! 僕、頑張る」


  ペパミンをたきつけると、親父は俺に体当たりしてきた。俺の身体は、ソファーに押さえつけられる。そして、頭は、ペパミンのおもちゃにされる。おふくろは、その光景を見て、微笑んでいた。

 その時、ふと思った。弟のペパミンという名前。ペパーミントから取ってるだろ! 俺を追い払う意味じゃないのか?

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