第5話 宿屋と黄昏

 パルネの宿屋は、なかなかどうして、立派だ。外観を見ただけで分かる。中に入ると、一階の部分は小さな食堂になっていた。席も満席状態で賑やかだ。いつの間にか、リポスの姿が見えないと思ったら、食堂のフロアに姿がある。どうやら、出来上がった料理を運んでいるようだ。へぇー。手伝っているんだな。まだ小さいのに感心だ。


「なかなかの繁盛ぶりだね」


「そうなのよ。だから、獅子女ししおんな の手も借りたいくらいなのよ。ちょっと待っててね」


「なるほど……」


 獣人族でも獅子の女性は、夫の代わりに働く事が多い。だから、働き者とされているからな。その手を借りる位となると、凄い忙しさと言う言い伝えの言葉だもんな。


 

 食堂の奥を眺めていると、カウンターの外から厨房の中に話しかけるパルネ。すると、男性が出て来た。その男性は、僕の方を眺めて、また厨房へ引っ込んだ。見た感じで判断すると、パルネの親父おやじ さんだろうな。まさか、彼女の趣味が、歳の差の離れたダンディー好きだったりして。すると旦那さん? そして、僕が浮気相手と間違われて、肉切り包丁でブスリと……。ないない。

 前世のトラウマかな。つい変な妄想をしてしまった。




 *****


 親父さんの了承を得たと言うパルネによって、二階部分の客室の中へと案内された。さっき変な妄想をした事に反省している。パルネも親父さんも良い人だもんな。


「この部屋を使用してね。食事は後で、リポスが運んでくるから」


「ありがとう。えっと、話しがあるんだけど……」


「何?」


「僕は、獣人族の者なんだ」


「やっぱりそうだよね。噂に聞く獣人とは違うけど。私、見ちゃった事があるの。変身する所を……」


 何処で見られたのだろうか? たまに気分転換で変身する事もあったな。考えても心当たりを思い出せない……。あれ? パルネの顔が、ほのかに赤いような。見つめたら、うつむ いた。あっ、変身する時は、産まれたままの姿だからな。見られちゃったかぁー。まぁ、減るもんじゃないからいいか。

 それからは、この街に来た理由をパルネに語った。


「あと、僕が獣人族というのは、内緒にして欲しいんだ」


「うん。わかった。もっと話したいけど、母さんが病気で店に出れなくて忙しいから。その捜している男の人の情報を、お客さん達が知っているかも? だから話しを聞いといてあげるね」


「すまない。たのむよ」


「じゃあ、ゆっくりくつろ いでね」

 

 パルネが部屋から出て行った。

 静かな部屋で窓の外を見てみる。そこからは、黄昏たそがれ の美しい街の景色が有った。その景色を、じっと何時までも眺める。ただ、そうしていたかったんだ。

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