第4話 人間の街メロヒ

 無数に並ぶ露店ろてん と、そこに並ぶ様々な商品。メロヒの街の市場いちば は盛況だ。

 武器や道具店では、興味をそそる珍しい商品に目を奪われ、また食べ物の店では、漂うこう ばしい匂いに食欲をそそられたんだ。何と言っても、この行き交う人間の多さときたら……。

 

 見るもの何もかもが新鮮な体験で、興奮してくる。僕は、この世界の人間の街を見るのは初めてだ。夢で見る街は、夢の世界。驚きは無かったけど。これは、夢じゃない体験なんだもんな。


「人間の住む街は、凄いなぁ……」


 ガオリン村の獣人達が人間の街に来ることは、まず無い。人間と獣人族の間に争いが有るわけではないけど、お互いが自然と敬遠している。

 しかし、欲の強さは、人間を動かすんだ。何でかと言うと、一人の人間の男が、ガオリン村の土地で取れる木の実や野菜。あと、宝石の原石に目を付けた。だから、人間の品物とを交換にやって来るようになったんだ。でも、それが最近は、とんとやって来ない。そこで、族長から調査を頼まれたんだけど……。

 せっかく来たんだから、ちょっと楽しんでもいいだろうな。もう少し見て回ることにした。



 *****


 もう、あらかたの店は、見て回ったか。さてと。これからどうしたものかなと、考えながら歩いていた。すると何やら騒がしい。若い男女が言い争っているようだが……。周辺を通る人々も無関心みたいだ。かかわらない方が無難だな。さっさと通り過ぎることにする。

 

「なあ! いいだろう、パルネ。俺と遊ぼうぜ」


「嫌よ。私は、買い物で忙しいの。何で、ろくでなしと呼ばれる男となんかと」


「なんだと!」


「きゃあー!」


 うわっ。女の悲鳴が周りの空気を緊張状態にに変えたぞ。男は凄く怒ってるなぁ。女の腕を掴んでるから、女が痛がってるじゃないか……。


「姉ちゃんから手を放せ!」

 

 何だ? 小さな男児が、人だかりから飛び出したぞ。


「なんだあ!? お前、パルネの弟だな」


「駄目よ、リポス!」


「大丈夫だい。おいらが、こうしてやる!」


 男児が男の手に噛みつこうとしたけど、払いのけられた。このままだとリポビタと呼んだ? が危なそうだ。


「うわー!」


 男に突き飛ばされて、叫びながら地面に倒れそうなリポビタ。僕は反射的に身体が動いて、それを受け止めた。


「大丈夫かい? リポビタ」


「う、うん。リポスなんですけど……」


 リポスを立たせた後、男に近寄った。そして、女の腕を掴んでいる男の、その腕を掴んだ。


「その手を放せ。彼女が迷惑めいわく してるだろ」


「何だと! てめぇ、俺に命令する気か!」


 素直に応じない反応だな。じゃあ、こうだ。腕を掴んでいる手に力を入れた。そしたら、男の顔が見る見るうちに苦痛の表情になったかと思うと、女の腕を放した。


「お、憶えてやがれ!」


「これからは、リポビタ達に、ちょっかいだすなよ」


「この兄ちゃん、絶対に憶えてないよ。と、おいら思う」

 

 男は、捨て台詞ぜりふ を吐いてから、すたこらと立ち去って行った。すると周りの見物人達が拍手をして、歓声を上げだした。なんだか照れるな。

 

「助けてくれて、ありがとう。私は、パルネというの」


「ああ。無事でなによりだ。ガムナだ」


「すげぇや、お兄ちゃん。おいらは、さっきも言ったけど、リポビタじゃなくて、リポス。リポスだからね。あと、将来は勇者になるんだい」


 パルネとリポスは、微笑ほほえ んで僕に感謝の言葉を述べてくれた。見て見ぬ振りをして、通り過ぎないで良かった。二人の笑顔を見ると気持ちが嬉しくなってくるなぁ。

 パルネは、助けた御礼に自宅で経営している宿屋に無料で招待したいと言ってくれた。せっかくの申し出だ。日帰りの予定だったけど……まぁ、宿屋で目的の調査が出来るかもしれないな等と思案していた。


「変身しなくても強いのね」


「なっ」


 予想外の耳打ちの内容に驚いてしまった。獣人族と知っているのか? 獣人の姿を見られた事があるのかな? これは、申し出を受けたほうが良さそうだと考えて、彼女達の宿屋へと向かったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る