第3話 トレーニングとゴブリン

 太陽の光を浴びていると気持ちがいいなぁ。なんか、生きてるって感じだよ。前世の夢で夜勤の最中で死んだんだよなぁ。夜の仕事だから、昼間は家で寝てたのを、何となく思い出した。だから、ぽかぽか陽気が嬉しく感じる。そんな事を思う。ある日の午後だった。

 僕は、村から離れた。そして、村から一番近くにある山を登ったんだ。登りきった場所は平らな面と、日の沈む方向に切り立った断崖だんがい のある場所になっていた。


此処ここ なら誰もいないか」


 一応、辺りを見回しても、何の気配もない事を確認。そして、服を脱いだ。所謂いわゆる スッポンポンと言う姿だ。でも、日光浴をするんじゃない。両手の拳を握りしめて、足を開いて、踏ん張る感じの体制。


「ぬおおおおおおおお!」


 気合を入れて、思いっきり雄叫おたけ びを上げるのだ……。身体が熱い。徐々に変化が始まった。と思ったら、あっと言う間に猛獣に変身っと。

 このチーターの姿だと、四つ足で立った状態でも不思議と苦にならないんだよね。

 

 よし、トレーニングの開始だ。右の前足で二回、地面を前から後ろにる。そして、ゆっくりと助走。徐々に徐々にスピードを上げていくのさ。


「最高速だ!」


 魔法を使う者を除いたら、陸上生物で僕より走るのが速いのに会った事がない。身体に当たる風が気持ちいいなぁ……。


「ふぅー。ここまでにしとくか」

 

 ある程度の満足するまでトレーニングの走り込みが出来たから、これで終了だ。人間の姿に戻り、服を着始める。ズボンを履き終えるやいなや、慌てて上着を抱えて、近くの岩陰に飛び込み隠れる。風の流れに乗って来る臭いを嗅いだからだ。

 息を殺し、臭いの流れて来る方の様子をうかがってみる。


「グヘッグヘッ」


 やがて、耳障みみざわ りな声をさせながら、緑色の身体をした生物が、右手に持つ棍棒を振りながら森の方から歩いて来る。


「ゴブリンか……」


 ゴブリンは、こちらに気づかずに断崖の方に真っ直ぐにあゆ んで行くようだ。


 崖のきわ に大人の背丈程の木々が生息している。滋養強壮じようきょうそう の実がなるパワチの木だ。ゴブリンの奴も、パワチの実が目当てだな。


「ブヒェーイ!」


 ゴブリンの奴、声を上げて喜んでるな。木の根元まで走り込んだ。その瞬間だ。ドガラガラ! と、物凄い音がした。一本の木の周りの土地とゴブリンが崩落ほうらく したのを見た。

 それは、トラップ? みたいだった……。

 

「プギャアアアアァァァァァァ……」


 ゴブリンの断末魔と臭いが遠くなる。少しの間は、唖然としていた。


「危なかった」

 

 ぞっとしていた。服を着た後でパワチの実を食べて、疲れをいや そうと考えていたから……。怖くなってきた。あと少し遅かったら、僕が断末魔を上げていただろうな。

 

 族長に報告して、ガオリン村から被害者が出ないように、しなければ! 僕は、難を逃れた命に使命を感じていた。

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