第2話 ガオリン村の族長

 窓から陽の光が差し込んでくる頃に、家のドアをノックする音がする。ドアを開けると、頭の上のライオンの耳が目に飛び込んだ。お尻は、尻尾をゆらしている。どちらも人間状態の僕には無いものだ。来訪者は、幼馴染おさななじみ のメルンだった。


「新年おめでとう。ガムナ」


「ああ、おめでとう。何か用事か?」


「ええっ! 今日の予定を忘れたの? 迎えに行くって言ったじゃない」


「ああ、そうだったかな」


 少し呆れ顔のメルン。でも来てくれて感謝だな……。

 ネコ科の獣人族じゅうじんぞく の村であるガオリンでは、新年に族長に挨拶にうかが うのが慣例かんれい になっているからな。


 幼い頃に両親を亡くして、孤児となった僕。それをメルンの親父おやじ さんの族長が親代わりになってくれた。一緒に暮らしていたけど、昨年に独立してから会ってないんだよな。

 多分、族長が心配してるんだ。新年の挨拶と言う理由をつけて、今日は僕を呼び出したのだろう。すっぽかしたりしないために、メルンが迎えに来る役目になっていたと思うんだ。


「ほら、行くよう」


「ああ」


 せかすメルンを追いかけるように家を出た。

 

 村の者で僕と同じタイプの獣人は存在していない。死んだ両親も村の獣人と同じだったんだ。

 村の獣人達に虐められた経験は無いし、追い出そうとされたことも無い。でも、親しく寄って来る事も無かったんだ。悪く言えば無視かもしれないけど……。まぁ、気を遣うよりは、一人でいる方が楽に暮らせるから別にいいんだけど。



 *****


「おお、来たか! 久方ぶりだな、ガムナ!」


 部屋に入るや否やの大声の歓迎だ。僕は圧倒されてしまう。それは、久しぶりの対面に僕を緊張させるのに十分だった。


「はい……。新年おめでとうございます、族長」


「おめでとう。族長とは堅苦しいな。父さんと呼んでいいのだぞ」


 そう言ってくれるのは嬉しい。でも、その昔。獅子の英雄と呼ばれ、ガオリン村を造った者の末裔まつえい を気軽に父と呼ぶのに遠慮があった。

 顎鬚あごひげ を触りながら、僕をジロジロと眺めている族長。何だろうな?


「変わり無かったか? 元気か?」


「はい」


「メルンは、ごまかせても俺の目は、ごまかせんぞ」


「えっ? 何? ガムナぁ、病気だったの?」


「……」


 心を見透かされた驚き。瞬間は、声が出せなかった。軽く新年の挨拶をして帰る予定だった。けど、父と呼んでもいいとまで言ってくれる族長の気持ちを邪険じゃけん にはできないな……。

 最近頻繁に見る前世であろう夢の事を族長に話した。


「なるほどな……。それは、お前の背負ったごう を夢で見せているのだろう。俺達と、お前の身体の違いがあるのも運命を背負っての生まれ。意味があるはずだ」


「僕は、どうすれば?」


「運命を受け入れ、自分の信じる正しい生き方をしろ」


「はい……。と、父さん」


「ガムナ、可哀想かわいそう 。メルンも応援するよぉ」


 族長とメルンに悩みを聞いてもらったら、心の曇りが晴れた感じだ。何よりも、メルンの無邪気な微笑みと、励ましが嬉しかったんだ。

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