両片思い幼馴染の尊さ致死量のバレンタインは2月13日にはじまる
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本編
「そういえば穂乃果。バレンタインは陽平くんにちゃんと渡した?」
2月15日、高校の帰り道。
茜は友人の七村穂乃果に問いかけた。
陽平とは穂乃果の幼馴染、奥寺陽平のことである。
「陽平に? ううん、今年は渡さなかったよー」
トレードマークのまっすぐロングヘアを揺らしながら穂乃果が答えた。
「はあ!? 嘘でしょ!?」
茜は声を荒げた。
だって、穂乃果が陽平にチョコを渡さないなどありえない。
この二人は超ド級の激甘幼馴染だ。何が激甘って、人前で手作り弁当を渡して「今日はタコさんウインナーだよー♪」とかやっときながら「付き合う? ないない、ただの幼馴染だよー」とかいう砂糖も溶けそうなベタベタな二人なのだ。
おかしい。
絶対に何か事情があるに違いない!
「ど、どうしたの? 何かケンカでもしたとか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
穂乃果はきょろきょろとあたりを見回す。
誰もいないことを確認してから。
「茜、これは他のみんなには言わないでね?」
「うん。秘密は守るわ、絶対に」
「実はね――」
と、穂乃果は茜に幼馴染とのバレンタインのことを話しはじめたのだった――。
* * *
時は遡って。
2月12日、バレンタインの前々日のことだ。
奥寺陽平はいつものように穂乃果のつくった朝ごはんを食べていた。
「もぐもぐ……あ、この目玉焼きうまい」
「でしょー? ちょっとだけ油を足すのがポイントなんだよ」
にこにこ笑って答える穂乃果を見ながら陽平は思っていた。
「(こいつ、完璧すぎるよなあ……)」
外見はかわいくて、料理がうまくて、成績も良くて、運動もできて、優しい。どこの完璧超人だよと言いたくなる。とんでもない幼馴染だ。そんな完璧すぎる子が、こうして毎日朝飯まで作ってくれるのだ。
幸せだった。
大好きだった。
でもあまりにも不釣り合いだな、とも思うのだ。
「(朝飯を作ってくれるのも、可哀想だからって言ってたしな)」
穂乃果は優しい。
早くして死んだ陽平の両親の代わりにメシを作ってくれているのだ。
恋愛的な意味では、俺のことなどまったく眼中にないだろう。
「あ。ごはんおかわりいる?」
「頼む。中盛りで」
「はーい♪」
でも――こうしてごはんをよそってくれる穂乃果を見ると諦めきれない。
こいつが誰かの彼女になるなんて、正直考えたくない。
「(……そういえば)」
陽平はカレンダーを見た。
明後日にはバレンタインがある。
去年は義理だったけど。今年はひょっとしたら――
とか期待をかけたそのときだった。
「あ、そういえば陽平、もうすぐバレンタインだね」
「お!? お、おう」
「あのね、今年はね」
ちょっと考えてから穂乃果は言った。
「バレンタインに陽平にチョコ渡すのやめようと思うの」
天地が崩壊した(比喩表現)。
陽平にとってはそのようなものだった。
「!!!!!!!」
白目を剥きそうな陽平。気付かぬ様子で穂乃果は続けた。
「あのね、昨年チョコ渡した時みんなに見つかっちゃって、ほら色々言われたし。あのあと1ヶ月以上続いたよね。みんなに、こ……恋人だって、誤解されちゃって……だからやめたほうがいいのかなって……」
「こっ!!」
こっちは誤解されても構わないんだよ!!
などと言える根性が陽平にあればとっくに告白していた。
だから陽平は。
「そ――そう、か」
死んだ目とゾンビめいた声でそう言うしかないのだった。
らーらーららーらーららー。脳内レクイエムが流れはじめた。
「え、陽平どうしたの、死んだお魚さんみたいな目だよ!?」
「ふ、ふふ……なんでもないぜ……そうか、今年はチョコくれないのか……」
「え……」
明らかに落ち込む陽平に、穂乃果はびっくりした様子で。
「え……陽平」
きゅっと手を口元で握って。
「えと……まさか、わ、わたしのチョコ、ほしかったの?」
どくん。
一気に陽平の胸が高鳴った。
ほしい。
そう正直に言いたい、言いたいが――!
言葉が喉から出てこない。
「――」
穂乃果はしばらく頬をちょっと染めて陽平を見ていたが。
やがて、はっと気付いた様子で。
「あ――そ、そっかなるほど!」
「……?」
「あれだよね。わたしのチョコがそんなに美味しかったんだよね!」
「え」
「もー。陽平は食いしん坊さんなんだから。太るよー?」
などとのたまった。
どうやら何か誤解されたようだ。
いや別に味はどうでもよくてチョコ自体が――とも当然言えない。
陽平はヘタレだった。
だから穂乃果はそのまま言葉を続けた。
「でも、だったら安心だよ! ちゃんと食べさせてあげるから!」
「え。何が?」
「あのね。チョコはちゃんと渡すから」
「はあ? さっき渡さないって」
「バレンタインにはチョコは渡さないよ。『バレンタインには』ね」
カレンダーを指さして穂乃果は言った。
「代わりに、2月13日に渡すの」
などと。
よくわからないことを言いはじめた。
「…………は?」
陽平は間抜けに口を開けた。
「だから2月13日。前日。それならみんなに誤解されないだろうし」
穂乃果はそう言ってにっこりと笑った。
「楽しみにしててね。がんばっておいしいの作るから!」
「…………」
えーと。
これは一体どう解釈すればいいのだ?
みんなに誤解されるのは嫌。でも俺にチョコは渡したい。
ふむ――。
「(そっか。穂乃果は優しいからな)」
陽平はそう解釈した。いきなり今年からチョコはあげません、なんて真似は流石に傷つく。だから前日にこっそり渡すことにするのだ。なるほど穂乃果らしい手間ヒマのかけ方だと思う。
「ああ。わかった。13日にチョコ期待しておくぜ!」
とびきりの笑顔で陽平は答えた。
陽平はちょっと、ほっとした。
少なくとも嫌われたわけではなさそうだ。
恋人に誤解されるのが嫌、と言われたのは残念だけど――。
たとえ義理だろうと前日だろうと、好きな人からチョコをもらえる。
それほど嬉しいことは、他にないのだ。
* * *
「(えへへ。我ながら名案だったよ!)」
陽平の家からの帰り道、穂乃果は思っていた。
13日にこっそり渡す。
これならチョコを「陽平の迷惑にならずに」渡せる。
「(陽平、最近モテるもんね。わたしが周りをウロチョロしちゃダメだよ)」
なぜか陽平は最近、勉強にスポーツにと頑張り始めていて――実のところ穂乃果と少しでも釣り合いが取れる男になりたいからなのだが――ちょっと注目されてる。去年みたいにわたしがチョコを渡し、恋人だって誤解されるわけにはいかない。
もちろん、ほんとは。
本当は誤解されたって全然かまわないのだけど。
「(……陽平にとっては、迷惑だもん)」
陽平にとって自分はただの幼馴染なのだ。
中学校のときは邪険にされて。いまは持ち直したけれど。
ずっとずっと、陽平にとって穂乃果はそういう存在なのだ。
それは嬉しいけれど、さみしい事実だ。
――少なくとも穂乃果はそう思っていた。
「(ちょ、チョコが欲しそうにしてたときは……ちょっとびっくりしたけど)」
一瞬、もしや、とは思った。
自分からの本命チョコが欲しかったのか――とか。
ものすごいドキドキした。
でも、そんなの絶対にありえない。
「(陽平、単にチョコが食べたかったんだね)」
彼はそーゆーやつだ。
穂乃果はお菓子作りには自信がある。それに毎年チョコは――特に陽平向けのチョコは――気合を入れて準備している。だからきっと、おいしいチョコが食べられなくて残念がっていたのだ。
そうに違いない。
「よーし。気合い入れて作るぞー!」
ふぁいと、と笑顔をつくる穂乃果だった。
うれしかった。
たとえ当日でなくても、大好きな人が自分のつくったチョコを食べてくれる。
それほど嬉しいことはほかにないのだから。
* * *
そして2月13日、放課後。
陽平の家のリビング。
「えへへ。ばばーん、どうだー!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおう!?」
穂乃果が自慢げに差し出したチョコに、陽平はぶったまげていた。
「チョコレートケーキじゃねーか!?」
「えへへー。がんばったよ!」
それはホールケーキだった。
ケーキ屋さんに置いていても全くおかしくない。というかこれほど豪華なチョコレートケーキは見たことがない。大きさは二人分程度ではあるが、ビーンズでの飾りつけもクリームでの装飾も、細かさはとんでもない。
「き、気合入れすぎじゃないか!?」
陽平は穂乃果を見た。
ここ一年で見たことないぐらいニコニコ笑顔だ。
「前日ならみんなに誤解されないし、全力で作っても大丈夫かなって!」
「そ、そうか」
ごくりと息を飲む。
「(うわ。やばい。嬉しい)
陽平はとんでもない嬉しさを感じていた。
当然だ。
好きな人がこれだけ力を入れてケーキを作ってくれたのだから。
「(た、例え義理でも……うん、すげえ……)」
例え『いきなりチョコを渡さないのは可哀想』という同情から来るチョコだったとしてもこんな豪華なケーキを作ってくれるなら、例え義理チョコだったとしても――とか考えたところで。
陽平は『それ』に気が付いた。
「……な、なあ穂乃果」
「なあに?」
「その……このケーキの、その、模様が」
「ん?」
陽平は指さした。
生クリームで丹念に描かれた模様。
最初は気が付かなかったが、よく見ると小さな装飾はすべて同じ形をしていた。
ハートマークだった。
「…………」
穂乃果はしばらくそれを見て固まっていた。
自分で作ったケーキのはずなのに、あっけにとられた様子だった。
「…………」
やがて、ぼんっ!
頬を赤く爆発させて。
「ちっ! ちちちち、ちがっ! これは、このハートは違うのっ!」
などと言い訳をしはじめたのだった。
「えとねあのねそのね!」
どきどきどきどき。
え、なに、どういうことなの。なにが違うの。
俺にはどう見てもハートはラブ的な意味にしか――っ!
「そうっ! 練習! ハートは本番の練習だったのっ!」
「れ、練習?」
「そうなの!!!」
力説。
「そ、そうか練習か……いや待て、ってことは!?」
陽平はその結論を導き出してしまう。
俺に渡したハート型チョコが練習ということは――。
ハート型の本番があるということで――。
「……」
それが意味するところを悟ってしまう。
陽平は背が震えた。怖い。聞くのが怖い。
――だけど今聞かなかったら、一生聞けない。
だから陽平は決意した。
「穂乃果……おまえ」
ごくりと息を呑んで。
「す……好きな人、いるのか?」
「――っ!」
* * *
穂乃果は。
『そんなのいないよ』
そう嘘をつこうとした。
だけど無理だった。
言葉が口から出なかった。
「(言えないよ――)」
だって。目の前にその人が、大好きな人がいるのだ。他のどんな嘘をつくことができたって、それだけは、その嘘だけは、ついてしまったら何かが終わってしまう気がするのだ。
だから――だから――。
「――い」
だから穂乃果は勇気を振り絞るように言うのだった。
「いる、よ」
* * *
すーっと。
陽平はなぜか静かな心でその言葉を聞いていた。
そうか。いるんだ。
穂乃果には『俺の他に好きな人が』いるんだ。
「(……誤解されたら困るって、そういうことだしな)」
好きな人がいないわけがないのだ。
「それは……その人と、つ、付き合ってる、のか?」
「……」
穂乃果はごくんとまた唾を飲み込んで。
視線を伏せて。
「う……ううん。わ、わたしの片思い……だけど……」
「……そっか。片思いか」
俺と同じだ、と陽平は思った。
そのまま沈黙の時間が流れた。
やがてケーキの甘い匂いが漂ってきた。
「(……応援、しなきゃな)」
陽平は思った。
大好きな幼馴染の恋だ。応援しなければならない。こんなにも豪華なチョコレートケーキを練習で作る相手だ。きっと大好きな人なのだろう。この自分をずっと支えてくれた、自分の大好きな人が、大好きな人なのだろう。
つらいけれど。
叫びたくなるほど胸が痛いけれど。
それでも。
大好きな人の恋を応援できない最低な人間にはなりたくない。
「あ……あの」
と、そのときだった。
「陽平……は?」
「え」
「陽平の方は……す、すっ」
すうーっと息を吸って、穂乃果は言った。
「好きな人……いるの?」
陽平は『いないよ』と一瞬、嘘をつこうとした。
だが無理だった。
目の前に大好きな幼馴染がいるのだ。
自分に大切なことを告白してくれた幼馴染が。
他のどんな嘘をつくことができても、これだけは無理なのだ。
「俺も」
だから陽平は言った。
「好きな人、いるよ。片思いだ」
* * *
そっか。
やっぱり――いるんだ。
「(泣かない、よ)」
何度となく想像していたから。
陽平には本当は『わたしじゃない』好きな人がいるって。
それは自分の中では確実に、絶対に、起きることだって確信していた。
だから。
「――そっか」
涙をこらえて穂乃果は続けた。
「……わたしたち、おんなじだったんだ」
「……ああ。同じだな」
ふふっと二人で笑いあった。
わたしも陽平も好きな人がいて二人とも片思いなんだ。
なぜか、笑いあってしまう。
「ふふ、そっかあ」
穂乃果は笑った。
どこか晴れ晴れとした気分だった。
たった今失恋したというのに――それでもなぜか晴れ晴れとしていた。
「そっか。陽平も好きな人いたんだね」
「……うん」
「どんな人なの?」
ちょっと時間があってから陽平は続けた。
「優しくて。料理が上手で。めちゃくちゃかわいくて」
「えっ」
「成績もよくて。運動もできて。スタイルよくて。超完璧な女の子で」
「ええっ」
すごい人もいるものだなあ、と穂乃果は驚く。
と同時に今度は不安が襲ってくる。
「えと……それ、だいじょうぶなの? その恋ホントに叶う?」
最近、陽平はたしかに頑張っているけど。
そんなにも完璧な女の子が相手だったとは。
「ははは。全然大丈夫じゃないな。絶対に叶わない恋だ」
乾いた笑いで陽平は答えた。
この表情は知ってる。本当の本気で悲しんでる。
「そそそ、そんなことないよ! 絶対叶うよ!」
「無理だよ」
「無理じゃない! 叶う! わたしが叶えて見せる!」
自分が失恋したばかりだというのに。
このうえ幼馴染まで失恋させるわけにはいかない!
「えーとえと、そうだ!」
穂乃果はぱんっと手を叩いた。
「あのね、わたしで練習すれば!?」
「は? 練習?」
「うん! ほら、陽平もわたしのチョコの練習に付き合ってくれたわけだし。お互いに練習すればいいんだよ。陽平、ちゃんとやればちょっとかっこいいんだから、練習すればきっと恋もうまくいくよ! 絶対!」
すごい勢いで穂乃果が言うと、陽平は頬を赤らめて引いた感じだった。
「そ、そうかあ?」
「そうだよ! えーとえーと、とりあえず何からはじめようかなあ……」
穂乃果はきょろきょろとあたりを見回す。
するとテーブルの上のおっきなチョコケーキが目についた。
「あ、そうだっ! ねえねえ、デートの練習しよ!」
「で、デートの練習?」
「うん。やっぱり恋はデートから! ちょうどここにケーキがあるからさ、彼女さんと一緒にスイーツ屋さんに行ったことを想定してね。それで練習するの。陽平はかっこいい行動をとること!」
「はあ? か、かっこいい行動ってなんだよ」
「うーん」
穂乃果は腕組みをしてケーキをにらんだ。
「やっぱりここは『あーん』かな?」
「あーんって……食べさせてもらうってことか? ケーキを?」
「そう!」
自信満々で穂乃果は言った。
「ちゃんとかっこよく食べさせてもらうの。下品に食べちゃだめだよ」
陽平はちょっと考えてから。
「待て待て。『あーん』してもらえる時点で既に彼女なのでは?」
「そんなことないよ。わたしだって陽平によくするし」
「……そ、そういえばそうだが」
「そうそう」
穂乃果はにっこり笑ってフォークでケーキを切り分ける。
さくっと食べやすい一片を取り分ける。
そして陽平に差し出すと。
「あーん♪」
陽平は頬をぼんっと赤らめた。
その顔を見て、穂乃果も。
「(……あ、あう)」
まずい。
これちょっとまずい。
なんだか恋人みたいだ……!
「(う、ううん、恋人みたいでいいんだよ! 練習だもん!)」
だからこれで何もおかしくない。これでいいのだ。
ちょっと嬉しいけど。
それはまあ、ただの役得なのだ!
「う……」
陽平のほっぺたは真っ赤だ。
あ、照れてる。
でも自分のほっぺもすごく熱くなってるのを感じる。
おんなじだ……おんなじなことに、嬉しさを感じてしまう。
「ほ、ほら、食べて?」
穂乃果が促して、陽平はようやく。
ぱくっと。
ハートマークのついたチョコケーキを一口で食べた。
もぐもぐ。もぐもぐ。
「ど……どう? おいしい?」
大好きな人が自分のチョコを『あーん』で食べてる。
その姿にこみ上げる嬉しさを感じつつ、穂乃果は問いかける。
すると。
「……甘い」
陽平は泣きそうな笑顔でそう言った。
「めちゃくちゃ甘くて……めちゃくちゃ、おいしい」
じわり。じわあああ。
嬉しさが穂乃果の全身に広がっていく。
そっか。わたしのチョコ、そんなに味わってくれたんだ。
うれしい――。
「えへ。えへへ。まだまだあるから。どんどん食べてね」
「……うん」
「ちょっと食べ終わったら、今度はわたしに『あーん』してね」
「お、俺もやるのか!?」
「とーぜんだよー! デートの鉄板でしょ! 照れない照れない!」
頬を赤くして、でもなぜかちょっと嬉しそうな陽平。
その表情を見て、穂乃果はもう一度笑った。
と、ハッとその笑顔を抑える。
「(い、いけない。ただの練習。これはただの練習なんだもん!)」
恋人みたいな気分になっちゃってたけど。
ほんとは違うのだ。
彼はわたしじゃない女の子に片思いをしていて、だから恋人みたいに『あーん』をしあうのは、ただの練習に過ぎないのだ。穂乃果はそう自分に言い聞かせる。ドキドキする胸を抑えて。
「(……でも)」
もぐもぐと幸せそうに頬張る陽平。
それを見て穂乃果は自分がにやけていくのを感じた。
「(えへ。えへへ)」
大好きな人が自分のチョコケーキを幸せそうに頬張ってくれる。
たとえ練習であっても。
「(ずっと練習、続けたいな……)」
こんなにも嬉しくて、心が溶けていく感じになることなど、他にないのだ。
* * *
「……バレンタインはそんな感じだったんだよ。えへ、わたし、失恋しちゃった」
時は2月15日の帰り道。
バレンタイン前日の一部始終を語った穂乃果。
話を終えて穂乃果が友人の茜に振り返ると、路上に突っ伏して死んでいた。
「ぐふっ!」
茜は死んでいた(重要なことなので二回目)。
「きゃあああああああ!? 茜、茜、どうしたのー!?」
享年十六歳。
死因は尊死。
友人のバレンタインのあまりの甘酸っぱさが許容量を超えて彼女は死んだのだ。その後十秒後に復活した。茜は抹茶をごくごく飲んで、砂糖成分でおかしくなった脳をなんとか起動させた。
「あのなあ!」
そして血走った目で叫んだのだった。
「てめえら今すぐ結婚しろおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「えええっ!?」
――2月13日は、両片思い幼馴染のバレンタインデー。
その威力は、人を殺し即座に復活させるほどである。
両片思い幼馴染の尊さ致死量のバレンタインは2月13日にはじまる ZAP @zap-88
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