第9話 小説
その死にそうな老人を一番近くで見届けたのは私だっだ。小説の始まりをその老人のことにしようと、一番この小説と関係のない話で始めようと、今、そう、思う。ただ、これは私の言葉であり、嘘であり、抽象である。その老人の最後の月は夢のようだった。老人の体は冷たいながらも熱くなった、濡れていながらも乾いていた、浸されてから乾かされた、喉で何かを飲み込み、腹が痛くなると顔をしかめた。全ては印象だった。事件、現象、前と後ではなく、印象だっだ。どんな印象?:その老人が経なければならない、経験されて、経ている間の感覚。何一つ残らない清らかな痙攣の衝突が続いていた。その老人は考えなかった。両目は開けていたが、そこに指示とか思い出の跡は一切なかった。老人は荒れた呼吸を重ねてから顔をしかめた。死の直前、老人は顔をひどくしかめた。それから排泄物が溢れ出た。老人は夢を見ていることも知らずに夢を見終えた。ここまでがこの小説の一番最初に出てくる文だ。
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