ついにM1本番

 結論から云うと、青空ライオンはM1はあっけなく落ちてしまった。

 現実はそう甘くない。


「なんでなの」


 帰り際、二人で歩いているところ、杏樹が心の声が漏れた。


「絶対、面白いのに」


「仕方ないよ」


 勉は敗因をはっきりとわかっていた。

 ネタが一次通過できるほどの質ではなかったのだ。


「ごめん、杏樹の魅力を引き出せなくて。俺がつまらないばっかりに」


 それに杏樹が噛んでから、終始空気が冷たかった雰囲気のせいもある。

 二人にとって、救いがあったとしたら、くすっという笑い声が少し聞こえたことと終わったあと、一部からささやかな拍手をされたことぐらいだ。

 身内受けしかしない。

 クラスのいくらかは笑ってくれたりはするから、きっと自分たちのネタは面白いと思い、内心調子に乗っていたが、夢が叶うのは厳しいという意見を証明する形となってしまった。


「ちがう、ちがう、ちがう、そんなんじゃない」


 勉の顔を見ず、うつむいたまま、杏樹は大声をあげる。


「こんなつまんないネタしか書けない俺なんかじゃあ、杏樹の役に立てねぇんだよ」


 なだめようと、笑ってごまかそうとした。

 勉は自分が本当につまらない男であることに申し訳なさを感じていた。

 そんな勉の様子に杏樹は頬を膨らませて、余計に不満そうな様子を見せる。


「どうして、そんなひどいことを言うの! ばかっ」


 杏樹が涙目でいきなり勉へビンタをかましてくる。


「もう、青空ライオンは解散」


「おいっ、ちょっと」


 杏樹が走り去ってしまう。


「悪いことをしちまった、ちくしょう」


 勉は衝動的に言ったことに反省の意を隠せない。

 自分がつまらないという劣等感を根本から抜けないゆえに、自信を持てないから、いつもネタを面白いということについてまで杏樹の思いまで否定してしまった。


 杏樹にすぐにでも謝りたいと思い、しばらく追いかけた。

 気づいた時には俺も追いかけるが、もう見えなくなってしまった。


 勉はきょろきょろと見渡し、必死で探す。

 辺りを走り回って、普段知らない人に話しかけるのも苦手だが、そんなことを忘れるぐらい手当たり次第に人に聞きまわって、一面中探す。


「杏樹―」


 名前を呼び、必死に叫ぶも聞こえるのは風の切る音ばかり。

 息が切れるまで走り、公園、学校、杏樹の自宅まで行った。

 警察にも訪ねたが、場所は当然わからなかった。

 ずっと探し回り、気が付けば、日が暮れてしまっていた。

 あらゆるところを探したが、思い当たるところが一か所だけあるのをふと思い出した。

 杏樹が落ち込んだ場所によく行く場所である。

 そこに行ってみることにした。

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