第57話 セクハラにならないように

「ロマリアもサウナ、平気だったの~?」


 湯船に身体を沈めたまま、ルーナが尋ねる。


「は、はい! 私は大丈夫でした! えっと、これを何度か繰り返すんですよね?」

「次に入る時は50度も上がっちゃうんだ。俺は試しに入ってみるけど、多分すぐに出るしロマリアも無理はしなくて良いよ?」

「温度が凄く上がるんですか……それなら私でも……」


 ロマリアはそんな事を言いながら、ルーナが入っている湯船の横の床に置かれている物に気が付いた。


「あの、ルーナ様。それって……」

「……もしかしてルーナが着てたサウナウェア?」

「うん、邪魔だったからさ~。脱いじゃった! さてと、私はそろそろ上がろうかな~」


 そう言って、ルーナは一糸まとわぬ姿で無遠慮に湯船から立ち上がろうとする。


「待って、ルーナ! 今から外気浴の為に俺が外に出るから、それからお風呂を出てよ!」

「えぇ~、どうしよっかな~」


 ルーナは自分の胸を手で隠しながら俺に意地悪な視線を送る。

いつもは簡単に服を脱ぐクセに、レイナさんから『隠した方がエロい』ということを学んだな、この性獣――いや、聖獣。


 とはいえ、こういう時でも俺の方が非難されることを知っている。

 だてに30年も現世で生きてない。

 もし裸のルーナが目の前に出てきたとしても、それを見てしまったらロマリアもフェリも俺の方を卑下した瞳で見つめてくるだろう。

 男というのは生きづらい生物なのだ。

 とはいえ、やられてばかりもいられない。

 全世界の男性を代表して、俺がこの理不尽に抗わなければ。


「別に良いよ、俺は目をつむって外に行くから」


 少しムキになった俺は目を閉じたまま、水風呂から出る。

 そして、勘を頼りに外のテラスに出れる扉に向かった。

 しかし、ルーナが脱ぎ捨てていたサウナウェアが床に置かれているのを失念していた。

 俺はそれに躓いてしまったらしい。


「――あっ!」


 思わず瞳を開くと、硬そうな床が俺の目前に迫っていた。


 ――むにっ


 しかし、直後に柔らかい感触に支えられて俺は間一髪、床との激突を免れた。

 顔を上げると、安堵した表情のロマリアが俺を抱えてホッと息を吐いていた。


「お怪我はありませんか、エノア様」

「あ、ありがとうロマリア……そして、ごめん」

「……どうして謝るのですか?」

「いや……その、何て言うか……」


 俺の顔は思い切りロマリアの胸の中に収まっていた。

 サウナウェアは生地が薄いので感触が……

 気が付いたロマリアは顔を真っ赤にして慌てる。


「ご、ごめんなさい! と、咄嗟だったので! 不快な思いをさせてすみません!」

「いや、ありがとう! あっ、これは『助けてくれてありがとう』って意味で! 変な意味じゃなくてっ!」


 何とかセクハラ認定を逃れようとする俺と、奴隷だった頃のクセが抜けず何が何でも謝ろうとするロマリア。


 水風呂から上がったフェリは、ロマリアを何だか羨ましそうな目で見つつ、ルーナを少し睨んだ。


「ルーナ……イタズラはほどほどに……」

「えへへ、ごめんごめん~」


 本当に悪いと思っているのか分からない表情でルーナは自分の頭をコツンと叩いた。


――――――――――――――

【業務連絡】

 エノア君は今でこそ美少年ショタですが、自分はおじさんだという自覚を持っているので、気持ち悪がられないように自重しています。


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