第53話 追放した奴らに復讐を!


 俺の話を聞いて、レイナはため息を吐く。


「坊や、潜入は難しい。不真面目な兵士たちとはいえ、見張りの数は多い。砦っていうだけあって高い壁に囲まれてるし、見つからずに侵入するのは至難よ」


 俺は首を横に振る。


「見つかっても良いんです。むしろ"関係者のフリ"をして砦の中に入れてもらいます」

「どうやってそんなことを……?」


 俺はキャンプスキルからリュックを取り出すと、中に入っていた上着を羽織った。

 ウィシュタル家の家紋が入った、俺が山に捨てられた時に着ていた服だ。


「レイナさん、失望させてすみません。俺は元ウィシュタル家の者なんです。役立たずだったので、追放されてエラスムス霊山に捨てられましたが……砦の兵士くらいならウィシュタル家の服で偽装できるはずです」


 俺が自分の身分を明かすと、レイナは目を丸くした。


「何だい、それは! 最高じゃないっ! 坊やは自分を捨てた、人さらいのクズ連中に一矢報いるわけだ!」

「えっと……まぁ、確かにそういうことになりますかね?」


 レイラは扇子で自分の口元を覆ってケラケラと笑う。


「失望だなんてとんでもない! ますます気にいっちまった! エラスムス霊山に捨てて殺したと思ってた奴が復讐に来るんだ、こんなに心躍る話はないよ! 奴らは恐怖に震えるだろうね」


 何故だか、好感触だ。

 やっぱり極道の世界は復讐とかが好まれるのかな。

 レイナさんは扇子を閉じると、それを俺の頬に添えてニッコリと微笑む。

 さっきまで胸に挟まれていた扇子がまだ生暖かいです……。


「私はもう坊やに惚れこんじまった。他にも何か手伝わせておくれよ」

「えっと、そうだレイナさん。じゃあ、俺たちが帰ってくるまでロマリアを安全な場所で匿っててくれませんか?」

「――え?」


 俺の言葉に、ロマリアがびくりと身体を動かす。

 これから行く東の砦はロマリアが奴隷として沢山酷いことをされた場所だ。

 連れて行く訳にはいかない。

 そう思ったけれど、ロマリアは強い瞳で俺の手を掴む。


「あ、あの……エノア様! 私なら砦の中をご案内できます! 連れまわされていたので、内部には詳しいです! お役に立てます!」

「いやでも……あの場所はロマリアにとっては……」

「私、エノア様のお役に立ちたいんです! お願いします、どうか私をご一緒に連れて行ってください!」


 そう言って、ロマリアは頭を下げる。


「私……エノア様に救って頂いたこのお命、エノア様の為にお使いしたいのです。少しでも、お役に立ちたいのです……」


 レイナさんはそんなロマリアの様子を見て、困ったような表情をする。


「坊や、この子は覚悟が決まっちまってる。坊やとしては安全な所に居て欲しいかもしれないけれど、この子にとっても坊やが危険に晒されるのをただ待ってるのが辛いんだ。私からも一緒に行かせてやって欲しいねぇ」

「で、でも……ロマリアは元奴隷なんです。もしあの砦でロマリアの事が分かる人が居たら……」


 正直、内部の構造に詳しいのはかなりの助けになる。

 エルフたちが捕らえられている場所もロマリアなら予想がつくだろうし、潜入するにあたってのアドリブもききやすい。

 でも、ロマリアも体中の傷が消えて昔とは見違えたけれど、ドミニクには正体がバレてしまった。

 なら、砦の関係者に元奴隷だとバレてしまう可能性がある。


 俺の話を聞いて、レイナさんは頷く。


「……要するに、その子だってバレなければ良いんだろ? わっちに任せな」

「――へ?」

「女なんて、いくらでも生まれ変われるのさ。ちょっと待ってな」


 そう言うと、レイナさんはロマリアの手を引いて部屋の外に出て行った。


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