第49話 ご心配をおかけしました

 

 ――目を覚ますと、薄暗く、部屋の天井が見えた。

 額の上には濡れたタオルが置いてあり、冷たくて心地が良い。

 きっと、つい先ほど取り替えてくれたばかりなのだろう。


「――エノア様! お目覚めですか!」


 すぐにロマリアの弾むような声が聞こえた。

 動けるようになっていた俺は、上体を起こす。

 蝋燭の明かりに照らされたロマリアの綺麗な顔が俺を必死に見つめていた。


「おはよう、ロマリア。ずっと看病してくれたの?」

「はい……。良かったです、目を覚ましてくれて……」


 そして、ロマリアはポロポロと大粒の涙を流した。

 俺はロマリアの頭を撫でる。


「ごめん、心配かけちゃって」

「あ、謝らないでください! エノア様は私の為にこんなになるまで無茶をしてくれたんです……私の、せいなんですから……」

「ロマリアの為になってるならこんなの無茶でも何でもないよ。だから、できたら喜んで欲しいな」

「うぅ~……!!」


 ロマリアはグシグシと自分の涙を拭う。


「夜まで眠っちゃったんだね。ルーナとフェリは?」

「お2人とも、エノア様の状態を回復できる薬草を探しに町の外へとびだして行ってしまいました」

「そっか、随分とみんなに心配をかけちゃったね……」

「エ、エノア様っ!」


 ロマリアは突然、床に頭を付けて土下座した。


「お願いします! もう、ドラゴンの心臓は使わないでください!」

「ロマリア……」

「私、どんな痛みにも、苦しみにも耐えることができます! でも、エノア様が苦しむのだけはダメなんです! どうか……どうか……」

「……顔を上げて。分かった、もう使わないよ」


 俺は、ロマリアと約束をする。


「心配しなくてももう使えないんだ。あれは、まだ鼓動が動いているほどに新鮮な状態で口にしないと効果がない。『トゥルーカット』で心臓のみを切り離してからは状態を保ってたけど、直接心臓を切り分けたから、もうリュックの中にある分は効果がないんだ」


 ロマリアは大きく息を吐いた。


「そ、そうなんですか……安心しました」

「それに、こんな効果があるのはきっとエラスムスの心臓だけだと思う。実感して分かったけど、これは『呪い』に近い」

「呪い……! ほ、本当にご無事で良かったです!」

「ロマリアの看病のおかげだよ」


 そのまましばらくロマリアと話をしていると、廊下からドタドタと2人分の足音が聞こえてきた。

 そして、元気よく扉が開け放たれる。


「エノア! まだ生きてる!?」

「間に合った……?」


 大きな風呂敷を背負ったルーナとフェリが息を切らして部屋に入ってきた。

 頭には葉っぱが付いていて、服は土汚れだらけだ。


「おはよう、2人とも」

「エノア! 起きたんだ~! 良かった!」

「山に行ってたの?」

「そうだよ! ほら!」


 ルーナが背負っている風呂敷を広げると、色とりどりのキノコと野草がとびだした。

 変な煙を発しているキノコもあれば、もぞもぞとひとりでに動いている野草もある。

 足が生えた大根みたいなのが逃げ出して、それをルーナがすかさず掴んで俺に笑顔を向けた。


「エノアが元気になれそうな活きの良い野草やキノコをフェリと一緒に沢山採ってきたの!」

「これ食べればもっと元気になる……きっとエノアはバキバキになる……」

「た、確かに、何だか生命力に溢れてる気はするね……。俺の為にありがとう」


 若干嫌な予感を感じつつ、何故か自信満々なルーナとフェリが持ってきてくれた山菜たちに鑑定スキルを使った。


「……これ、全部に毒があるね」

「……え?」

「そんな……全部……? こんなにカラフルで綺麗なのに……」

「ちなみに、俺が鑑定できなかったらどうするつもりだったの?」

「みんなで、毒味して大丈夫だったらエノアに食べさせてみようかと」

「全員でベッドに寝込むところだったね……」


 手遅れになる前に、ちゃんと意識を取り戻して良かったと心から思った。


 ――――――――――――――

【おまけ話】

『ロマリアに全部お任せ!?』


 ――ルーナたちが突入して来る前のエノアとロマリアとの会話。


 エノア「それにしても、身体がすぐに動かせるようになって良かったよ。まだ歩くことはできないけれど……」


 ロマリア「そうですね! きっとそのままだったら凄くご不便だったと思います」


 エノア「何より、みんなに迷惑をかけちゃうからね。ご飯も自分じゃ食べられないから食べさせてもらわないとだし、身体を綺麗にしたくても自分じゃ拭けないし」


 ロマリア「か、身体を……! エノア様、大丈夫です! 私が全部! 責任を持ってエノア様のお世話させて頂きますので!」


 エノア「そ、そう……? でも、やっぱりそんなことまでさせちゃうのは――」


 ロマリア「いえ! 是非とも、私にお任せください! エノア様の玉のような身体には一切傷がつかないように、綺麗にさせていただきます! 例え、エノア様が今後一切身体が動かせなくなっても、おはようからお休みまで、全て私が管理してお世話させていただきます!」


 エノア「ロマリア……気持ちは嬉しいけど、ちょっと目が怖いよ……?」


 ロマリア「そうだ、エノア様! おトイレは大丈夫ですか? まだ歩けませんよね? 私が何とかいたしますっ!」


 エノア「だ、大丈夫だからっ! ロマリア、落ち着いて!」


 息を荒くして身を乗り出すロマリアを、何とかなだめるエノアだった。


【業務連絡】

 今日は書いた原稿が消えてしまったショックで投稿が少し遅れてしまいました……。

 今までオマケ話は近況ノートに載せていたのですが、そもそも読みに行くのが面倒かも? ということで、このまま本文に載せてみました!

(そのせいで読みにくかったらすみません! どちらの方が良いかコメントで教えて頂けると嬉しいです!)


 もう少しで☆評価が5000になります!

 貴方の評価で最後の一押しをいただけると大変嬉しいです!


 <(_ _)>ペコッ


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