第47話 鈍感なエノア君

「エノアはと~っても疲れていますので! そのゴミを引き取って早くお帰りください! さぁさぁ!」


 不自然なほどの笑顔で、ルーナはレイナの肩をグイグイと押して俺から遠ざけようとする。


「おっと、それは申し訳ない。じゃあ、わっちはこれで失礼するよ」


  そう言うと、レイナは手下に失神したドミニクを運ばせ、笑顔で俺にヒラヒラと手を振って去って行った。

 ルーナは額の汗を手で拭って長いため息を吐く。


「悪い人じゃなさそうだけど、ちょっとは気を遣って欲しいよね。エノアは年頃の男の子なんだからさ~、あんなの目に毒だよ」


 ルーナがそう言うと、俺とロマリアとフェリの「お前が言うな」という視線がルーナに集中する。

 しかし、当の本人は全く無自覚な様子で首をかしげる。


(ともかく、これでようやくエルフ達が捕らえられている場所が分かったな……)


 フェリが俺の服の裾を引く。


「エノア……本当にありがとう……私の仲間の為にここまでしてくれて……」

「良いんだよ、俺がしたいだけだから」

「私もエノアの為だったら何だって協力できるから……いつでも頼って……」


 そんなフェリの言葉を聞いた直後だった。

 酷いめまいがして、身体の自由が利かず、俺はフェリにもたれかかってしまう。

 心臓が早く高鳴り、ハァハァと漏れ出る荒い吐息が誤魔化しきれなくなっていた。

 フェリは顔を真っ赤にする。


「エ、エノア……!? どうしたの……!?」

「ごめん、フェリ……もう我慢できない……」

「う、嬉しいけどここじゃ……ちょっと……」


 フェリは何かをゴニョゴニョと言っている。

 その小さい身体で身体を支えてもらいながら、俺は説明した。


「ドラゴンの心臓を食べた反動がきてる……平気なフリをしていたけど、本当はもう身体を動かせないんだ」

「……へ? 反動?」

「うん、でも安心して。しばらく安静にすれば元に戻るはずだから」

「な、なんだ……そっか……」


 フェリは大きくため息を吐いた。

 どうやら安心してくれたみたいだ。

 何だか残念そうな表情をしている気がするけど。


「ルーナには見抜かれちゃってたね、俺が疲れてるってこと。だからレイナさんを早く退出させてくれたんでしょ?」

「……そ、そうそう! 私にかかればエノアの様子がおかしいのなんて一目瞭然だからさ!」

「た、大変です! すぐに休ませて差し上げないと!」


 ルーナは何やら焦ったように腕を組んで得意げな表情をして、ロマリアは俺の身体を気遣ってくれた。


「それにしても、エノアはしばらく身体が動かせないのか~……」


 ルーナはそんなことを呟くと、舌なめずりをして悪い表情でニヤリと笑う。


「フェリ、エノアは私が運ぶよ! 任せて!」

「ダメだ、フェリ。ルーナは絶対にイタズラしてくる」


 俺がそう言うと、フェリは俺の頭を胸元に埋めてギュッと抱きかかえる。


「ルーナ……大丈夫。このまま私が運ぶ……エノアも『私が良い』って……」

「そうは言ってないけど……あと、苦しいよ」

「そ、そうです! ルーナ様、エノア様にイタズラはダメです!」

「え~、じゃあ2人もエノアに変なことしちゃダメだよ?」

「「…………」」

「何で返事がないのかな?」


 ルーナの言葉に、2人は顔をそむけた。


 もしかして、2人も俺が動けないのを良い事に俺に何か仕返ししたいくらい嫌な思いをしていたとか……?

 俺って何か無自覚にハラスメントをしていた……とか?


 中身は30歳超えのおっさんな俺は若者に嫌な思いをさせたくなく、そんな事ばかりビクビクしていた。


――――――――――――――

【業務連絡】

 タイトルが度々変わり、申し訳ございません。

 寒くなってきましたので、体調管理にはお気を付けください!

 引き続き、よろしくお願いいたします!

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