第15話 エラスムス山で朝食を

 俺は早速、完成した料理を3人分の盛り付けてテーブルに並べていった。


 スープはスープ皿に、パンは平たいお皿に乗せて黄金色のジャムをそばに添える。

 飾りつけのロウソクは……ロマリアが嫌な事を思い出しちゃうかもしれないので代わりに星の模様を映し出すランタンを置く。

 最後に、森で採集したミカンに似た果物をジューサーに入れてスイッチオン。

 道具の効果だろう、一瞬で冷えたジュースになって、しかもコップに注いでも量がほとんど減らない。

 テーブルのセッティングが終わると、俺はロマリアに笑いかける。


「ロマリア、これは君の分」

「えぇ!? わ、私も頂いてよろしいのでしょうか!?」

「もちろん、ロマリアの為に作ったんだよ。スープだから食べやすいと思うんだけど……食べられなかったら、無理はしないでね」

「エノアの作るお料理は絶品だよ!」

「あ、ああ! ありがとうございますっ!」


 ロマリアは地面に頭を擦り付けて感謝してしまった。


「ほら、顔を上げて! 一緒に食べよう!」

「で、ですが……私と一緒には食べない方が良いと思います」

「どうして~?」

「あの、わ、私の顔も……身体も……醜い傷跡だらけなので、同席すると2人のお食事が不味くなってしまうと思います」


 あっ、これはマズい。

 何となく、ルーナの地雷を踏んでしまった気がした。

 案の定、ルーナの嘘偽りない言葉とハグがロマリアを襲う。


「そんなことないよ! ロマリアと一緒に食べた方が美味しいに決まってるでしょ!」

「うん、ルーナの言う通り。みんなで一緒に食べた方が美味しいよ」

「で、ですが……エノア様にこんな痛々しい顔をお見せするのは……」

「分かった、一緒に食べるかはロマリアが決めて。ただ、俺はロマリアと一緒に食べたいな」

「はい! はい! 私も!」

「うぅ……そ、そんな……。ありがとうございます」


 そう言うと、ロマリアは遠慮がちに席についてくれた。

 きっと、ルーナの言葉が本心だとすぐに感じ取れたからだろう。

 流石は聖獣。俺1人だったら、もっと手間取ってたかも。


「「いただきまーす!」」

「ちょ、頂戴いたします……」


 先にルーナと俺がスープにスプーンですくって味をみる。


「凄い! 昨日と全然違う味! 美味しい!」

「今回は味噌を少し入れたんだ。魔物の肉からも旨味が出てるね」

「うん、ホッとする味というか! 身体に染みるよ!」

「ほら、ロマリアもどうぞ」


 俺が促すと、ロマリアは緊張した様子でスプーンを握る。

 しかし、スプーンが指から抜けてテーブルに落としてしまった。

 ロマリアはそれだけで顔を真っ青にする。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

「大丈夫だから、ゆっくり食べて」

「どうしたの~?」

「食器、使うの久しぶりで……いつもは床に置かれたお皿から手を使わずに食べなければならなかったので」

「あ、(白虎の時の)私と同じだー!」

「えっ、ルーナ様も奴隷を……?」

「ルーナ、ややこしくなるからその話はまた後でね。スプーンを使うのが難しかったら器に直接口をつけて飲むと良いよ。マナーなんか気にしないで」


 ロマリアは恐る恐る、器に口を付けた。

 ゆっくりと、まるでまだ本当に食べて良いのか迷っているみたいに。

 喉がコクリと動くと、土気色だった頬がみるみるうちに赤く染まっていった。


「……はぁ~」


 大きくため息を吐いて器を下げるロマリアの表情を見るだけで分かった。

 どうやら美味しく頂いてくれたみたいだ。

 まるで、夢見心地のように瞳の焦点が合っていない。


 呆けた様子のロマリアが器を落としてしまわないように俺が持って支えるけど、ロマリアはまだそのことにすらも気が付いていないようだった。


――――――――――――――

【業務連絡】

 涼しくなってきましたね。

 皆様、体調にはお気を付けください。

 私は風邪をひいてしまいました…が、毎日投稿頑張っていきます!

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