第14話 美味しいご飯を食べさせてみる


「えぇっ! 何その子! どこで拾ってきたの!?」

「ルーナ、ちゃんと服を着てね……」


 洞窟に戻ると、バスタオルを身体に巻いただけのルーナが俺とロマリアを見て驚いた。

 ロマリアはルーナの恰好を見て、顔を赤らめる。

 俺はそんなロマリアを腕から優しく下ろしてあげた。


「ルーナ、この子を守っててくれる? 俺は森に置いてきたリュックサックを回収してくるから」

「はーい! ねぇ、お名前教えてー!」

「ロ、ロマリアです。ルーナ様……」

「エノアが戻ってくるまでお話してよーよ! ロマリアの事知りたいな~」

「ルーナは俺が戻るまでにちゃんと服に着替えていてね」

「えーだって、洗濯しちゃったんだもん~」


 そう言ってルーナが指を指す先には木の枝に吊るされた衣服や下着があった。


「……分かった、じゃあ乾くまでこれを着てて」


 俺はキャンプスキルで出せる衣服をルーナに渡す。

 そして、早く乾くように洗濯物のそばで焚火をもう一つ作った。


「はーい!」

「――俺が出て行ってから着替えてね!」


 俺が忠告するよりも早く、ルーナはバスタオルをはだけさせていた。

 俺は慌てて目を逸らすと、ロマリアをルーナに任せて森に戻った。


(……あったあった)


 すぐに、山で摘み取った山菜やキノコを収納していたリュックサックを見つけた。

 危ない危ない、誰かに拾われていたら無限収納のぶっ壊れアイテムが世の中に出てしまうことになっていた。


 それと、ロマリアを襲っていた豚の魔物を丸焼きにしてたのを思い出したので、ついでにリュックサックに吸い込ませて洞窟に帰る。


「うんうん、一人で怖かったね……もう大丈夫だからね。すぐに美味しいご飯が食べられるからね」


 洞窟に戻ってくると、ルーナがロマリアを抱きしめて頭を撫でていた。

 ロマリアは困惑した表情で人形みたいに身体が固まってしまっている。

 俺はリュックサックを肩から下ろしながら尋ねた。


「ロマリア、体調はどう?」

「ば、万全です! すぐに使いただけます!」


 そう言って、俺の前に膝をつく。

 そっか、ロマリアはまだ俺のことをウィシュタル家の嫡子だと思っているんだ。

 早く、安心させてあげないと。


「ロマリア、俺はもうウィシュタル家の者じゃない。服従しなくて良いんだよ。追放されたんだ」

「……え? そんな、エノア様を追放するなんて……」

「俺のスキルは戦闘向きじゃなかったんだ、こうやって外で食事を作ったりする能力」


 俺は言いながら、朝ごはんを作るための焚火台や包丁とまな板を用意する。


「私は世界一素敵な能力だと思ってるよ!」

「ありがとう、ルーナ。そんなワケだから安心して良いよ」

「し、信じられません……アラン様はエノア様に大きな期待を寄せていました」

「あぁ、だからスキル鑑定の結果が出た時は思ったよ。『ざまぁみろ』って」

「あはは! エノア、それ最高っ!」


 ルーナが大笑いした。

 しかもアランは奴隷まで囲っていた最低な奴だってことが分かったんだ。

 本当にあの家から出れて清々する。

 ロマリアはまだ困惑した表情で俺の顔を見上げていた。


「とりあえず、朝ごはんを作っちゃうから少しだけ待ってて」

「はーい!」

「え、えと……その……私もお手伝いを……」

「ロマリアは身体を休めるのが仕事だよ」

「私の膝の上で休んでて!」

「は、はい! 仰せのままに!」


 俺はリュックサックから食材を出していった。

 今回は俺が集めたので、鑑定で美味しいキノコや野草だけでなく役立ちそうなモノも摘んでいる。

 ロマリアは身体中の傷が酷いし、とにかく体力回復だな。

 俺は栄養を取ること優先で食材を選ぶと調理を開始した。


 焚き火の上に鍋をセットする。

 材料を「トゥルーカット」で丁寧に切り分け昨日と同じように鍋に入れた。

 またキノコ鍋だが、今回は材料が少し違う。

 その鍋の横に、今度は一回り小さい鍋を置く。

 そちらには、さっきの収集で見つけた果物を小さく切って入れていく。

 そして、キャンプスキルで『マッシャー』を出した。

 じゃがいもなどを潰す道具だが……俺の目論見どおり、果物に触れた瞬間何の手ごたえもなく潰れていった。

 次にキャンプスキルで出した砂糖をたっぷりと加える。

 白い砂糖が果実の身を優しく覆いながら、徐々に溶けていく。

 火の熱が伝わり、果実が少しずつ煮え始める。

 果実の水分がにじみ出し、砂糖が溶けて艶やかなシロップ状に変わっていく。

 その香りは一層濃厚になり、甘酸っぱい香りが周囲に広がり、俺の鼻をくすぐる。

 木べらで鍋の中をゆっくりとかき混ぜながら、俺は火加減に気を配る。

 強すぎないように、果実が焦げないように。

 その間に茹ってきたキノコ鍋の方にロマリアを襲っていた豚の肉を細切れにして入れて、さらに味噌を加えた。

 ルーナは昨日もキノコ鍋を食べてるし、違う味の方が嬉しいだろう。

 再び、もう一つの小さい鍋に目を移すと鮮やかだった果実は、きらめく宝石のようなジャムに変化しつつあった。

 キノコ鍋の方も間もなく出来上がるので、俺はキャンプスキルで出したパンを網の上で軽くローストする。

 パチパチと良い音が鳴る焚火の上で、パンの表面がうっすらとキツネ色を帯びてきた。


「できたよ!」

「すっごく良い匂いだよ! 甘い匂いもする! エノア、早く食べさせて!」

「じ、地震が起きてます! き、危険です!」

「大丈夫、ロマリア。起きてないよ」


 ルーナがウキウキしていて、膝の上のロマリアがアトラクションのように揺らされていた。


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