第11話 美少女と一緒に寝ます
自由奔放、天真爛漫を体現したようなルーナを見ていて、俺はつい呟く。
「ルーナは凄いや……。俺も見習わないと」
生前の俺は本当に我慢しかしていなかった。
良かった事と言えば、死ぬ間際にあのモフモフの猫を触る事が出来たことくらいか。
まさか、神様だなんて思わなかったけど……。
ルーナの言う通り、生前の俺は仕事やお金のことで頭がいっぱいで『好きに生きる』なんて発想がなかったんだ。
せっかくの2週目の人生だ、今度こそは勇気を出してこの世界を冒険したい。
「…………」
内心でルーナの生き方に憧れていると、俺の表情を見てルーナは急に耳をペタンと倒す。
そして、少し悲し気に呟いた。
「……私もさ、エノアと同じだったんだ。少し前までは生きる理由を見失ってた」
「――えっ、ルーナが!?」
「うん……。エノアが自分の事を話してくれたから、私も話すね」
そう言うと、ルーナは焚火の前で膝を抱えて背中を丸める。
「私が生まれた時、もうお父さんは居なかったんだけどお母さんが居たんだ。すっごく優しくて、強くて……いつも私の事を守ってくれる大好きなお母さんが……」
懐かしそうな表情で、ルーナは話を続ける。
「だからね、エノアの話を聞いた時にすっごく腹が立ったの! 子供を自分の利益の為に利用しようと考えるなんて、酷いよ!」
ルーナは大きく息を吐いて怒りを鎮める。
俺の為だったら何度でも怒ってくれそうなルーナに呆れつつも内心は凄く嬉しかった。
「――それでね、100年くらい前に魔王っていうのが現れてお母さんをダンジョンの奥深くに封印しちゃったの……きっと、聖獣として人間を守ってたから目を付けられたんだろうね」
「えっ!? そ、そんなことがあったんだ……」
俺もウィシュタル家の書物を読んで魔王の話は知っている。
100年に一度、魔王と呼ばれる存在が復活して魔物たちが活気づく。
ダンジョンの難易度も上がって、魔物たちが今まで以上に国や町を襲い始める。
その魔王を倒す使命を与えられたかのように、100年度に特別なスキルを持った強い人間が誕生する。
このスキルを持つ者が、いわゆる『勇者』という存在なのだろう。
今回、ウィシュタル家の妾の子であるトレシアが前回の勇者と同じ『魔剣士』を引き当てたと言われていた。
つまり、魔王の復活も近いのか――あるいは、既にこの世界のどこかに……。
「封印される前、お母さんは『私に何があっても、ルーナは気にせず好きに生きなさい!』って言ってくれたの。自分がこれから封印されるって感じ取っていたみたいに」
そう言うと、ルーナは俺を見てにっこりと笑う。
「お母さんが居なくなって、ずっと落ち込んでたんだけどエノアのご飯を食べたら凄く元気になっちゃった! 会わせてくれた猫神様に感謝だね!」
「――ルーナのお母さん、どうにか助け出せないのっ!?」
たまらず、俺が尋ねるとルーナは首を横に振る。
「お母さんが封印されたダンジョンは『深淵の迷宮』っていう……とんでもなく難しいダンジョンの最深部なんだ。私も聖獣だけど、まだまだ力が足りなくてダンジョンに挑むことすらできないんだよ」
「ル、ルーナでもダメなんだ……」
ルーナのAAAというランク。
それに、さっきの素早い身のこなしを見ても強い事は確かなんだけど……。
そう思っているとルーナが説明してくれた。
「聖獣って800歳くらいでようやく大人になるんだ。人間みたいに急激に成長できるわけじゃなくて、長い年月をかけてゆっくりと神聖を帯びて強くなっていくの。……だから、お母さんは私にあんなことを言ったんだと思う。私が無謀にダンジョンに挑んで助けに行かないように」
ルーナはそう言うと、取り繕うように笑いながら頭をかく。
「もちろん、いつかは助けに行きたいけどさ……残念ながらまだまだ子供の私が成長するまで、あと数百年は経たないと……」
「他の冒険者たちはその『深淵の迷宮』を攻略できないの?」
「うん、凄く難易度が高いからまだまだ未踏破のダンジョンなんだ。冒険者ギルドでは『禁域(きんいき)級ダンジョン?』とか呼ばれてたよ」
禁域……禁じられてるなら確かに今後も攻略はされないかもしれない。
ルーナはため息を吐きながら話を続ける。
「それに、ダンジョンって出てくる魔物が強いだけじゃないんだ。凄く過酷な環境だったり、冒険者を落とし入れる為の罠も用意されてるの。私みたいなお馬鹿が考え無しに挑んだらすぐに自滅しちゃうよ」
「そ、そうなんだ……」
「うん、どんな過酷な環境でも生き抜けるような能力が必要なんだ」
どんな過酷な環境でも生き延びる能力……。
それって、俺のスキル『キャンプ』がまさにそうなんじゃないか?
ひょっとしたら、猫神様は俺を助ける為にルーナを呼んでくれただけじゃない。
ルーナの事も自分と同じように助けてあげて欲しいから俺と引き合わせたんじゃないか?
真意はどちらにせよ、俺の心はもう決まっていた。
「よし、ルーナ。一緒にダンジョン探索をしよう! そうすれば、ルーナのお母さんもいつか救い出せるでしょ?」
俺がそう言うと、ルーナは大慌てした様子で両手の平をブンブンと振る。
「えぇ!? む、無理だよ! エノアの気持ちは凄く嬉しいけどさ!」
「ごめん、ルーナ。返事は聞いてない。俺、異世界では好きに生きるって決めたから」
そして、ニッコリと笑いかける。
「ダンジョン探索って凄くワクワクするんだ! 俺は男の子だから、これは仕方がないことなんだよ。それに、ダンジョンで獲れる食材って少し興味がない?」
「……へ?」
そんなことを言うと、ルーナは呆けた表情をする。
俺は立ち上がって、ルーナに手を差し出す。
「そんなのが理由でも良いでしょ? だって、人生の目的は楽しむことなんだから!」
「――エノアっ! うん、そうだね! それって凄く楽しそう!」
ルーナは瞳に少し涙を浮かべて、俺の手を取り立ち上がった。
「ルーナ、これからもよろしくね!」
「うん、エノア! やっぱり、エノアは最高のご主人様だよ!」
「だから、御主人さまって呼び方は――」
その瞬間、俺は一瞬意識を失ってそのままルーナの身体に倒れ込んでしまう。
「わわっ!? ようやくエノアの方から来てくれたねっ! よーし――」
「ち、違うよ……眠くなっちゃったみたい……今日は色々とあったから」
俺はどうしても落ちてしまう
身体はまだ十歳の子供だ。
肉体的にも、精神的にも限界だった。
ぼんやりとした頭で力を振り絞る。
「テ、テント……寝袋……」
コックリコックリと船を漕ぎながら、俺はキャンプスキルで野営の道具を作り出す。
「ほほぅ、これはこれは。雨風が凌げそうな良い道具だね」
「も……限界……」
「うんうん、よく頑張ったね。後は使い魔の私に任せてご主人様はお休みして良いよ」
「だから……俺は……ご主人様じゃ……ない」
心地よい睡魔に誘われて、俺の記憶は途切れた。
◇◇◇
懐かしい夢を見た。
俺が動物好きになったキッカケの出来事だ。
小学生だった俺は、夕飯を買いに行く途中で白い子猫が段ボールに捨てられているのを見つけた。
白い毛並みが綺麗で、お腹に三日月みたいな紋様がある可愛らしい猫だった。
どうしても放って置けなくて……
俺は自分の分の晩飯代でその子猫に猫の缶詰とミルクを買ってあげた。
子猫は美味しそうに食べ終えると、小さくゲップをした。
俺のお腹がぐぅぅと鳴ったけど、そんなことよりも子猫が幸せそうで嬉しかった。
そして、その白猫は愛おしそうに俺の手に頬を擦り付けたんだ。
スリスリ……
そうそうこんな感じで――
「はぁ~、エノアは手も柔らかいな~」
目を開くと、俺の手に頬ずりをしている幸せそうなルーナがいた。
驚いて距離を取ろうとするが、逃げられない。
どうやらテントの中、一緒の寝袋で寝ているらしい。
しかも、脚でしっかりとホールドされている。
俺はまたたびの木の枝のように、ルーナになすがまま身体をこすりつけられていた。
「あっ、エノアが起きた!」
「ルーナ、どうして同じ寝袋に入ってるの?」
「人間って寒さに弱いでしょ? だから温めないとって思って!」
「ありがとう。とはいえ、流石に暑苦しいと思うんだけど……」
「えーでもすっごく快適だったよ? 私たち、身体の相性が良いんじゃないかな?」
確かに、凄く快眠できたような気がした。
今だって、全く眠気を感じない。
俺は寝袋に『鑑定』を使った。
【魔法寝袋「エバースリープ」】
効果:
・休息時のHP・MP回復速度 +50%
・睡眠中のステータス異常回復
・環境適応: 温度、湿度、風から完全防護
・ストレス軽減効果: 精神安定 +20%
概要:
「エバースリープ」は、キャンプスキルで出現させることができる高性能な魔法寝袋。柔らかな素材で作られており、使用者を包み込むと、まるで雲の中にいるかのような感覚を与える。内側には魔法の織りが施されており、どんな過酷な環境でも快適な睡眠を提供する。極寒の雪山でも灼熱の砂漠でも、寝袋内の温度は常に理想的な状態に保たれ、外部からの風や湿気、寒さなどの影響を完全にシャットアウトする。
さらに、睡眠中に自然にHPやMPの回復速度が大幅に向上し、戦闘や長時間の探索で疲弊した体を迅速に回復させる。特に、ステータス異常(毒、麻痺、眠りなど)の回復が可能で、戦いの中で受けたダメージを次の日には残さない。また、心を安定させる効果もあり、長時間の冒険で積み重なる精神的な疲労やストレスも和らげてくれる。
この寝袋は冒険者たちにとって夢のアイテムであり、安全な睡眠環境を提供するだけでなく、翌日の戦闘や探索に万全の体調で臨めるようサポートしてくれる。
(……やっぱりこの寝袋の効果か)
若干呆れつつあるけれど、多分こんなモノじゃない。
これ以外のキャンプ道具もとんでもない効果なんだと思う。
「ルーナ、寝袋から出たいから離してくれる?」
「……もう少し寝てない?」
「ルーナは寝てていいよ、俺は朝ごはんを作るから」
「それじゃ意味ないんだって~! でも、エノアの朝ごはんが食べられるなら出してあげる!」
ルーナとの交渉も上手くいって、俺は何とか寝袋から脱出した。
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