第10話 キャンプと猫と異世界生活
「「いただきま~す!」」
出来上がったスープをお椀によそうと、ルーナと2人で手を合わせる。
日も暮れてきて、インテリアとしてテーブルの上に置いていたロウソクも周囲を照らす立派な役割を果たしていた。
恐る恐る、スープにスプーンを差し込んで口に運ぶ。
(……美味しい!)
スープは澄んでいながらも濃厚な深みを感じさせ、一口すするたびに体全体が温かく包み込まれるような感覚が広がる。
キノコの独特な食感と、それぞれが持つ異なる旨味に自然とルーナと顔を見合わせて笑みがこぼれる。
「すごい! すごいよ! いつも食べるよりも断然美味しい!」
「いつもはどうやって食べてるの?」
「もちろん、丸かじり!」
「ワ、ワイルドだね……だから野菜も苦手なのかな」
「やっぱり、エノアは天才だよ! こんなに美味しい物が作れちゃうなんてさ!」
「僕のお陰じゃないよ、スキルのお陰」
僕がそういうと、ルーナは不思議そうに首を傾げる
「それってつまり……エノアのお陰じゃないの?」
「えっと……そういうことになるのかな?」
「そりゃそうだよ! エノアのスキルなんだから!」
何故か、ルーナの方がフフンと誇らしげな顔をする。
キノコ鍋を食べ終わった俺とルーナは焚火を囲んでいた。
パチパチと燃える火を見て、自分と向き合う時間ができたような気がした。
この世界の食材を料理して食べた時に分かった。
俺がキャンプをしたかった本当の理由。
実感したかったんだ、『自分が生きている』ということを。
今まではひたすら忙しく働かされて……
人にこき使われたり、裏切られて捨てられることに慣れてしまって……
自分の命が誰の物なのか分からなかった。
だから、簡単に命を投げ出せてしまったんだろう。
(それと、もう一つの発見)
俺は焚火に照らされる端整な顔立ちの猫耳少女をチラリと見る。
ルーナは俺が作った料理を食べて、満足そうに尻尾をユラユラと動かしていた。
(人と一緒に食べるご飯がこんなに美味しいなんて思わなかった)
同じ物を一緒に味わう。
ただそれだけなのに、心が通じ合ったようで嬉しかった。
それに、幸せそうな顔をしているルーナを見た時も。
猫を飼うと生活が全て猫中心になるっていうけれど、こういうことなのかもしれないな。
俺がそんな事を考えていると、ルーナが俺を見て笑う。
「エノア、ようやく良い顔するようになったね」
「俺、そんなに酷い顔してた?」
「うん、まるで『いつ死んでも良い』みたいな表情。悪い意味でね。せっかくの可愛い顔が台無しだったよ」
「そっか……」
でも、生きると決めたんだ。
異世界でのこれからの人生について考えなくちゃならない。
俺はルーナに尋ねる。
「ねぇ、ルーナはどうして生きてるの?」
「私はねー……生きるのが楽しいから!」
「ぶふっ! あははっ!」
ルーナらしい答えに思わず笑ってしまう。
しかし、ルーナは人差し指をフリフリと動かして自論を述べる。
「人生の目的は楽しむことなの! なのに、みんな難しいことばっかり考えてそんなことも忘れちゃうんだよね~。仕事がどうだとか、他の人がどうだとか!」
ルーナの意見は凄く短絡的で、
実直で、素直で、幼稚で、愚かで、
そして――俺の心を打っていた。
「だからさ、エノアもいっぱい食べて、冒険して、思い出そうよ! 生きる楽しさを!」
ルーナの笑顔は、それだけで俺が生きる理由になりそうなくらいに綺麗だった。
こうして俺は、異世界でルーナと気ままにスローライフを楽しむことに決めた。
ただ、俺のSSランクの最強スキルがそれをさせてくれないことはこれから知ることとなる……。
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