第7話 聖獣と契約を結びました


 ヴァリス王国から4キロほど離れた平野。


 しばらく、なすがままにルーナの胸に顔をうずめさせられ頭を撫でられながら――

 俺は不意にハッと我に返る。


「も、もう大丈夫ですからっ! ありがとうございました!」

「えー、もうちょっとくっついてようよ。君、凄く良い匂いがするんだよね」

「離してください! それに――!」


 俺は飼い主のハグを嫌がる猫のように離れると、落ち着いて諭し始めた。


「話した通り、俺は見た目こそ10歳の子供ですけど中身はもう良い大人なんです」

「えーどこが? まだ30歳? とかだったよね? 私、200歳だからまだまだ子供じゃん」

「…………」

「ちなみに、私も聖獣の中では全然子供だよ」


 流石は聖獣、スケールが違った。


「ということで、神妙にせい」

「ひぃぃ……」


 ルーナは両手をワキワキと動かしてジリジリと俺との距離を詰めてくる。

 この歳であんな風に甘やかされるのは嬉しさよりも気恥ずかしさが勝る。


「お、恩人を困らせるのは良くないんじゃないですかっ?」

「それを言われると弱いなぁ……」

「俺が助けた猫さん、そんなに凄いお方だったんですか?」

「猫神様は、猫族全ての始祖に当たる方だから。しかも自分の命と引き換えに護ってくれたんだよね……エノア、徳を積みすぎだよ」

「そ、そうなんですか。ひとまず、僕を抱きしめて撫でるのは無しでお願いします」

「いじわる……」


 ルーナは頬を膨らませて拗ねてしまう。


「じゃあ、私からも一つお願いして良い?」

「俺にできることでしたら……」

「私を飼ってよ」

「……へ?」


 聞き間違いだと思うので、俺は聞き返す。


「すみません、もう一度――」

「私のご主人様になって」


 食い気味でさらに困惑する言葉に言い換えられる。


「あの……聖獣って飼われたりしても良いんですかね」

「前代未聞だろうね」

「ですよね」

「恩返しだけにしようと思ってたんだけど、エノアのこと凄く気に入っちゃった! 美味しいご飯も作ってくれるしね~」


 聖獣が食べ物に釣られて良いんだろうか?

 なんて思いながらも、俺は別の提案をする。


「あの、ペットっていうのはやめませんか? 例えば、『仲間』とか」

「それでも良いけどさ、私はペットが良いな」

「ど、どうしてですか?」

「エノアに可愛がって欲しいから!」


 あまりにも真っすぐな瞳でそんなことを言う。

 せめて虎の姿だったら分かるけど、女の子の姿で言われるとあらぬ誤解を受けそうだ。


「……分かりました。俺と一緒に居たいなら、特に問題はありませんし」

「よし、じゃあ契約を結ぼっか!」

「契約?」

「うん、私がいつでもエノアを守れるように。だって君――」


 ルーナはとんでもない速度で俺を押し倒して、首元に先ほどのステーキナイフを突きつけた。


「隙だらけなんだもん。この世界じゃすぐに殺されちゃうよ」

「ス、スキルを発動する暇もなかった……」

「でしょ? 凄いスキルがあってもまだまだ使いこなせてない。だから、私が守りやすいように契約を結ぶの。私が悪い魔物だったら君はもうゲームオーバーだったからね」


 そう言って、ルーナは立ち上がって俺にステーキナイフを返す。

 1本見つからないと思ってたらルーナが隠し持っていたのか。


「じゃあ、契約の儀をするね。私の前に立って」

「はい」

「右手を前に出して」

「えっと、こうですか?」


 ルーナは俺の手の前で膝まづく。

 そうすると、ルーナの身体と俺の身体が発光した。


「よし、これで契約完了!」

「俺は立ったままで良かったんですか?」


 ルーナにだけ地面に膝をつかせてなんだか申し訳ない気持ちだ。

 そんな俺にルーナは何てことないように言う。


「うん、だって従属契約だから」

「え?」

「これでエノアは私を使い魔として使役できるよ! やったね!」


 ……こうして俺は、(半ば騙されて)聖獣使いになってしまった。


――――――――――――――

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 <(_ _)>ペコッ

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