第4話 聖獣を餌付けする

 白虎の背中に乗せてもらいながら、俺は身体をブルブルと震わせて感動していた。 


(凄い速さだ! それに、頬を撫でる風が心地良い……)


 それに何といってもこのモフモフ具合。

 俺の小さな身体が白い毛に包まれて、きっと天国はこういう場所なのだと思った。


 しばらく走ると、森を抜けて草原に着く。

 はるか遠くにはお城とその城下町らしきモノがぼんやりと見える。

 俺を追放したウィシュタル家もあの中にあるのだろうか。


「ここで大丈夫です!」

「オッケー!」


 開けた場所で白虎に止まってもらう。

 白虎が居るおかげか、周囲の魔物たちは一目散に逃げて行った。

 ここなら安心して、お料理が作れそうだ。


「では……ステーキで良いですか?」

「お肉大好き!」


 俺はもういちど、リュックサックから先ほどの食材を取り出す。

 そして、スキルで焚き火台を出して火をつけた。

 これがコンロの役割を果たしてくれる。

 今度は火が大きくなりすぎないように……慎重に……。


「『着火』!」


 スキルを発動すると、100円ライターくらいの小さな火になった。

 まぁ、火種ならこれくらいで十分だ。

 焚き火台の着火燃料に火を移すと、立派な調理用の炎になった。

 その上にフライパンを載せる。

 俺がこうして準備をしている間も、白虎は興味深そうな瞳で見ている。


 間もなく、熱々に熱されたフライパンの上に厚みのあるステーキ肉をそっと置いた。

 ジュッという勢いのある音が辺りに響き渡る。

 その瞬間、肉が焼ける香ばしい香りが立ち上り、空気を一気に包み込む。

 白虎はキラキラとした瞳で心を躍らせている様子だ。


「うわー凄い! 凄い! もう待ちきれないよ!」

「すぐにお作りしますね」


 俺は生まれてからすぐに親に借金を押し付けられて、コキ使われて、働き漬けの日々だった。

 料理も小学生に入る前からさせられていたので、結構得意だ。

 お肉を焼くのにも少しだけコツがある。

 こんなに大きなお肉を焼いたことはないけどね。


 間もなく、肉の表面にじわりと焼き色がつき始めてきた。

 脂が溶け出し、鉄板の上で踊るように広がりながら黄金色に輝く薄い層を作っていく。

 じっくりと焼かれた肉は、少しずつ中から肉汁が浮かび上がり、滴り落ちる一滴一滴を見て白虎の口元からよだれが溢れんばかりだった。

 ひっくり返す瞬間、肉の端がカリッと音を立てる。

 反対側も、鉄板に触れると再びジュッと豪快な音を響かせ、焼き色が見事に付いた。

 焼けた肉にそっとバターを乗せると、すぐにバターは溶け出し、ステーキ全体を包み込むように滑らかに広がっていく。

 濃厚な香りが立ち上り、これまでの香ばしさにさらに深みを加える。


「お待たせしました!」

「もうできたの!? 早いくらいだよ! お料理って火を起こすところから凄い時間がかかるイメージだったから!」

「あはは、スキルのおかげですね」

「不思議なスキルだねー」


 焼きあがったステーキをキャンプスキルで出したお皿に移す。

 このスキルは、衣食住に関するモノなら問題なく出せそうだ。


 ナイフを入れると、外側のカリカリした音が心地よく響き、中から肉汁が溢れ出す。

 艶やかな赤身が美しく、柔らかい肉質が見て取れた。


(今からステーキソースを作っても良いけれど……)


 白虎はもう腹ペコみたいだし、良いお肉だからシンプルにお塩だけかけて提供しよう。

 俺はスキルで岩塩とサバイバルナイフを出すと、焼きあがったお肉の上からゴリゴリと粗削りで振りかけていった。


「これで完成です!」

「おぉ~!!」


 白虎はそんなお肉の姿に圧倒されつつ、ごくりと唾をのみ込む。


「こ、こんなに凄い物を出されちゃったら……私もちゃんと味わわないと! 姿で!」


「……こっちの姿?」


 直後、ポフンッと白虎の姿を隠すように煙が出た。


 その一瞬で、白虎は猫耳と尻尾を生やした銀髪の可愛らしい少女の姿に変化へんげしていた。


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