第3話 聖獣は腹ぺこです


「――っ! 『着火』!」


 白虎のあまりの美しさに一瞬見とれてしまったが、俺は即座に自分のそばに火柱を作った。

 これだけ大きな火を焚けば……!

 しかし、白虎は恐れることなく美しい瞳で俺をじっと見ながら近づいてくる。


 このままじゃ、この腹ぺこホワイトタイガーに食べられてしまう……!


「け、獣避けを……!」


 俺がスキルで出そうとすると、その白虎は俺に言葉を話した。


「怖がらなくていいよ、君は善い人だね」

「……へ?」

「その大きな炎で私を燃やすこともできたんでしょ? でももう手遅れだよ、この距離なら君の首を一瞬で嚙み千切れるから」


 恐ろしい事を言いながら、白虎はスンスンと鼻を動かして俺の匂いを嗅ぐ。


「自分の命すら危ないのに、最後まで私を攻撃しなかったのは何で?」


 白虎の問いに、俺は考える。


 トラは俺が大好きなネコ科だから、とかじゃない。

 ネコ科でも襲われたらさすがに炎で撃退してたと思うし。

 そうなるとやっぱり……理由はこれしかない。


「君が凄く綺麗だから、傷つけたくなかった……」

「……え?」

「毛並みがモフモフで、可愛いしカッコ良くて、その瞳も――」

「わぁー! まってまって! ストップ! もう十分だってば!」


 白虎は綺麗な肉球を見せながら両前足でアワアワと慌てる。


「全く、聖獣たる私に『可愛い』だなんて不敬な。う、嬉しいけどさ……。でも、やっぱり"猫神様"を助けただけのことはあるね」


「……猫神様?」


「うん、君でしょ? 別世界に居る猫の神を救ったのは」


 もしかしなくても、俺が最後に命を賭して救ったあのノラ猫だろう。

 神の遣いどころか、神そのものだとは思わなかった。


「……多分、そうです」

「さっきも光り輝いてたもんね! その光を追って見つけたんだよ!」

「あれはただのランタンの光で、俺が光ってたワケじゃ――」

「とにかくっ! 猫神様を救った君には恩を返さなくちゃいけないの! 聖獣としてはさ!」

「そんなこと言われても……俺は別に恩返しなんて――」


 ――ぐぅぅ~。


 話の途中で、白虎のお腹が再び鳴き声を上げる。


「とりあえず、腹ごしらえしたいな~」

「もしかして、あちらで気絶してる山賊とか食べるおつもりですか?」

「食べないよ、人間の肉って不味いらしいし」

「そ、そうなんだ……」

「……君のお肉は柔らかくて凄く美味しそうだけどね」


 そう言って、また俺の近くで鼻をスンスンと動かす。

 食べないでください……。


「そうだ! じゃあ俺がお料理を作りましょうか? 俺もまだご飯を食べてないんです」

「えっ、お料理作れるの!? ぜひぜひ! 食べさせて!」

「あっ、猫だからタマネギとか色々とダメですか?」

「ふふん、君~。私は聖獣だよ? ピーマン以外は食べられるよ」

「ピーマンは食べられないんですね……?」

「そうと決まれば、開けた場所に移動しよう! ほら、私の背中に乗って!」


 そう言うと、白虎は俺の前で伏せをした。

 俺は恐る恐る、その背中に乗らせてもらう。

 こ、これは――!


(凄いモフモフだ!)


 白虎の毛並みはまるで絹糸の織物のように滑らかだった。

 ふわりとした感触が広がり、風にそよぐ雲のよう。

 触れる度に、毛先が優しくしなり、手のひらにぬくもりを伝えながら、しっとりと包み込むような感覚が残る。

 どこまでも柔らかく、触れるたびに心が落ち着いていく。


 俺がとろけそうな気持ちになっていると、白虎は脚にググッと力を込める。


「しっかり捕まっててね!」

「え!? は、はいっ!」


 そして、白虎はとんでもない速度で疾走した。


――――――――――――――

《助けてください》

今回短くてすみません、作者です。

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