第2話 美少年は襲われやすいらしい
「キ、キャンプスキルっ! 『水汲み』!」
慌てた俺がスキルを発動すると、今度は巨大なバケツが現れて火柱に水をかけて鎮火してくれた。
延焼しなくて良かった……山火事なんて起こしたら洒落にならない。
でも、周囲が水浸しになってしまったから流石に場所は変えたいな。
「リュックサック!」
俺が念じると、リュックサックが出てきた。
ただのリュックサックじゃない。
「収納!」
俺の一声で、さっき出した食材やらテントやらがリュックサックの中に吸い込まれていく。
リュック自体は俺の背中位のサイズだけど、容量はそれよりもずっと大きい。
とても便利な収納アイテムだ。
「よいしょっと……あっ、軽い!」
背負ってみると、重さをほとんど感じない。
流石はSSランクのスキルだ、中身の重さも無効にしてくれるらしい。
俺は見た目通りの非力ショタなので助かった。
「さて、俺は今山の中腹あたりにいると思うんだけど……」
これから山を上ろうか下ろうか……。
山奥の方が、凶悪な魔物がいそうだ。
というわけで、山を下っていくことにした。
そして、山を歩くには必要な物がある。
俺はソレを探して……良い物を見つけた。
「じゃーん! エクスカリバー!」
――と名付けた、ただの木の棒だ。
すまない、中身はいい歳した大人でも今は子供だし俺はどうしても男の子なんだ。
こういうのを振り回したくなるのは男の
誰にしているかも分からない言い訳をしながら、俺は木の棒をブンブン振って山を下る。
俺が見た目通りの10歳の子供ならこんな所で一人で心細いだろうけど……。
すでに一度死んだ身だし、気楽なもんだ。
死ぬよりも死んだように生きる方が辛い事を知っているしね。
俺は鼻歌を歌いながら気分を上げて山を下る。
すると、木の陰から2人組の小汚い男が現れた。
1人は腰に剣をさげ、1人はロープを持っている。
彼らは、ニタニタとゲスびた笑みを浮かべて俺に話しかけてきた。
「へっへっへっ、パパやママとはぐれたのかい?」
「いけねぇな、子供一人でこんなところを歩くなんてよぉ」
「これじゃ
(まずい、山賊だ)
そうか、山を下ると町が近いから山賊が出るのか。
魔物が出てきたらさっきの炎で焼いてしまおうと思っていたんだけど、人に襲われるのは想定外だ。
力加減を間違えて焼き殺してしまう可能性もあるし、どうにかお引き取り願いたい。
「俺は強いので、やめた方が良いですよ? 先ほど、火柱が上がるのが見えませんでしたか? あれは俺のスキルなんです」
一応、説得を試みるが2人とも信じるはずもなく……
「『俺』だと? なんだ、男かよ」
「へっ、こんだけ可愛けりゃ関係ねぇさ。高く売れる」
「そうだな、むしろ希少価値ってやつだ」
「趣味の悪い金持ちにせいぜい可愛がってもらいな」
既に俺をどうするかについて話し合っている。
顔が良いショタというのも困ったモノだ。
このままでは、俺の貞操が危ない。
童貞のまま、処女が奪われてしまう。
(仕方がない、もう一度さっきの火柱を出して驚かせるか……)
俺が
「『
「『みね打ち』!」
(まずい、スキルだ!)
そうか、貴族でなく山賊でも普通にスキルは使えるんだ。
甘く見過ぎていた、対応しないと……!
『
そして、もう一人の山賊の剣の『みね打ち』が俺の首に迫っていた。
俺は咄嗟にスキルを発動する。
「てっ、『テーブル』!」
――ガァン!
何とか俺と山賊の剣の間にキャンプテーブルを出して剣を弾く。
さすがはSSランクスキル、テーブルには傷一つ付いていない。
「な、なんだ!?」
「こいつ、どっからこんなもんを!」
(火柱はダメだ! こんなに近づかれると俺まで巻き込まれる!)
山賊はテーブルを蹴り飛ばすと、2人で俺を挟み込むように左右から跳び掛かってくる。
「大人しくしろぉ!」
「これで終いだぁ!」
俺はこの場を切り抜ける方法を必死に考える。
そして、次のキャンプ用品を出した。
「ランタン!」
真昼間の森では必要のないアイテム。
しかし、SSランクともなるとこのランタンの威力も限りなく高めることができるはずだ。
俺は目を瞑って顔を伏せた。
(
「――っ!? ぎゃああ!」
「な、なんだ眩しい! 何も見えねぇ!」
……俺は太陽の様に輝いているであろうランタンの光を消し、ゆっくりと目を開く。
そこには、ランタンの光を直接見て失明状態に陥っている2人の山賊が悶えていた。
さながら、閃光手榴弾だ。
スキルで手元にサバイバルナイフを出すと、俺は縛られている手のロープを自分で切断する。
「くそっ、剣を落とした! ど、どこだ!」
「あのガキ、何をしやがった! 何も見えねぇ!」
俺はそんな2人の様子を見て、自分の笑い声を聞かせてやった。
「ふふふっ、おじさんが落とした剣……少し重いけど俺でも十分に振れそうだね」
そう言って、ワザと耳元で素振りをしてみせた。
その音に山賊たちは恐怖ですくみ上がる。
必死に逃げようとするが、木にぶつかって尻もちをついた。
「ひぃぃ!? や、やめてくれ!」
「悪かった! 見逃してくれ!」
俺はクソガキボイスでさらに不安を煽りながら近づいていく。
「なんで~? 剣で斬りかかるってことは、斬られる覚悟もしてるってことでしょ~? もちろん、頭を剣で斬られて殺される覚悟も……ね?」
目が見えない山賊の片方の頭に向けて、俺は手に持っている物を振り下ろした。
「ぎゃあああ!」
「もう一人の方も同じ目に合わせなくちゃ♪」
「た、頼む! 助けてくれ!」
「……もう悪い事はしない?」
「あぁ、しない! これからは真っ当に生きる!」
「もし、また何か悪い事をしてるのを見かけたら今度こそ容赦しないからね」
「分かった! 見逃してくれるのか?」
「じゃあ、もう1人の方にもそう伝えておいて」
「――へ? あいつは、剣で殺されたんじゃ……?」
俺は振りかぶる。
「エクスカリバー!」
――ポカンっ! パシャ!
「ぎゃああああ!」
もう一人の山賊の頭にも同じように手に持っていた
そして、同時に『水汲み』スキルで生暖かい水を身体にかけてやった。
脳みそは単純なモンだ。
目が見えないコイツらにとっては、『頭を剣でかち割られて体中に血が飛び散った』と勘違いしてくれただろう。
案の定、二人とも泡を吹いて気絶してくれた。
俺はすかさず、キャンプスキルでロープを作り出して2人を木に縛り付ける。
「お仕置きはこれくらいで良いかな。おじさん達が魔物に食べられちゃったら、まぁ運が無かったってことで。疲れた~……!」
緊張の糸が切れた俺はその場でへたり込む。
全く、まだご飯も食べてないのにこんなことになるなんて。
「2人が目を覚ます前にここから逃げないと……この山も危険だな」
立ち上がると、背後から気配がした。
恐ろしさは感じない。
どこか神聖な感じだ……。
ゆっくりと振り向くと――。
背の高い草の茂みから、綺麗な白い毛並みの大きなトラが姿を現していた。
――ぐぅぅ~。
そしてその白虎の鳴き声は、何故かお腹から鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます