異世界グルメで成り上がり無双~山に追放されたので、のんびりキャンプを楽しんでいたらいつの間にか強くなっていて、王侯貴族や実力者たちが俺を放っておいてくれません。一方、俺を追放した貴族達は破滅が始まる~
夜桜ユノ【書籍・コミック発売中!】
第1話 転生したら、山に追放されました
俺、
生前の俺はブラック企業勤めで身も心も疲れ切っていた。
深夜、その日も過労死寸前で帰宅する途中。
車に轢かれそうになっている、ドジな小汚いノラ猫を目撃した。
俺は映画を観ていても「人はいくらでも死んで良いから犬や猫だけは絶対死なないでくれ」と願うくらいにはアニマル好きだ。
気が付いたら車の前にダイブ。
小汚い猫を突き飛ばして救出し、代わりに俺が轢かれて死んでしまった。
悔いはない、クソみたいな人生だったし。
失踪した親に多額の借金を押し付けられ、
そしてずっと借金返済の為だけに生きてきた。
独り身で30歳、悲しむ人も居ない。
死ねばもう出勤しなくて済む。
どうせ転生するなら子供とか救えよって思うけど、俺程度じゃノラ猫一匹が精一杯。
まぁ、そういう訳で無事に(?)死んで異世界転生することになった。
◇◇◇
前世の記憶を持ったまま赤子として生まれた瞬間、困惑よりも先に俺は天井の綺麗なシャンデリアに魅了された。
「おめでとうございます! ウィシュタル家の第一子が生まれました!」
産婆の声を聞き、俺は自分が転生したことを知る。
しかも、どうやらかなり良い家柄らしい。
俺は、エノア・ウィシュタルとの名前を与えられた。
そして予想通り、この家は貴族の名家だった。
前世がひどすぎる人生だったお詫びなのか、
それとも、俺が助けた猫が神の遣いか何かだったのか。
知る由もないけど、貴族様の生まれだ。
きっと、この異世界では俺みたいな奴でも生きていけるだろう。
その後は特に何事もなくスクスクと育てられた。
家の庭から外には一切出してもらえず、軟禁状態だったことを除いては……だが。
自由はないが、働かないでひたすら寝てても良い環境というのは俺にとって天国のようだった。
鏡に映った自分の姿は男とも女とも見分けのつかない美少年ショタっ子で、自分の姿なのに見るたびに緊張してしまう。
息を荒くしたメイドに襲われそうになった事も少なくないくらいだ。
異世界の貴族なら剣術の稽古や魔法の訓練なんかをするんじゃないかと思っていた。
しかし、どうやら貴族としての活躍が見込まれるのは十歳の時に受けるスキル鑑定の儀の後のようだ。
天より与えられたスキルによってその人間の能力が決まる。
国を守る騎士として名声を得る為、このウィシュタル家でも戦闘系のスキルが有望視されていた。
――そして、ついにスキル鑑定の日。
教会で、ウィシュタル家の関係者たちが一堂に会していた。
100名くらいの期待の視線を俺は一身に受ける。
「大丈夫だ、エノア! お前ならきっと、最上級であるAランクの戦闘系スキルを発現させる! 期待しているぞ!」
俺のお父様、アラン・ウィシュタルはそう言って俺の肩を叩く。
どうやら、このスキルというのは人の性質によってある程度決まるらしい。
ウィシュタル家は戦闘系スキルを多く発現させるので血の気が多いということだろうか?
中身の俺は争いを好まないので、すでに嫌な予感はしていた。
「では、スキルを鑑定いたします。『アノローラ』!」
神父さんが俺の頭に手をかざして呪文を唱えると、空中にステータスウィンドウが現れた。
そして、そこのスキル欄には……『キャンプ』という貴族らしからぬスキルが書かれていた。
(心当たりはある……)
俺は生前のブラック企業勤めだった頃からずっと自由を求めていた。
山や河原で好きに生きてみたい、そう、キャンプだ。
転生してからも一歩も外には出してもらえず、俺には自由など無かった。
だから、その願望でスキルがキャンプなんてシロモノになってしまったのだろう。
ランクは"SS"と表示されている。
日常系のスキルとはいえ、Sのさらに上だ。
しかし、俺の父アランは血相を変えた。
「な、何たることだっ! 戦闘には役立たないゴミスキルの上にSSだと!? Aランクのスキルじゃないのか!?」
神父さんも狼狽える。
「み、見た事のない表示です……一度ちゃんと確認してから――」
「確認などいるか! 落ちこぼれに決まっておろう!」
どうやら、この世界では"A"が最上だと思われているらしい。
実際、アルファベットを振る時、AからZまでの順番はこの世界でも変わらない。
だけど、こういうステータス標記の時は大抵SがAの上だ。
知らないと、勘違いするのも無理はないだろう。
この世界にはテレビゲームなんて無いしな。
俺の価値を分かっていない父、アランは激高する。
「Sなどスキル鑑定では見たこともないほど下位の表示、しかもそれが2つも!」
「お、落ち着いてください、アラン様!」
「落ち着いてなどいられるか! ええい、このウィシュタル家の面汚しめ!」
神父さんは父をなだめながら、必死に提案した。
「そ、そうだ! 今日はもう一人スキル判定をする予定の者がいるではありませんか! ひとまず、もう一人の者も鑑定いたしましょう!」
「……、分かった。エノア、お前の処遇については考えておく」
父はそう言って、怒りに震えながら椅子に座った。
「もう一人の者は……トレシアか」
「……はい」
トレシアは父の
母が俺を産んですぐ亡くなったのを良い事に、メイドとの間に産んでいた子を同じ屋敷で育てていた。
もちろん、正当な血筋ではないので俺よりも扱いは低かった。
不憫に感じた俺はちょくちょくトレシアの為にこっそり良い食事を持って行ったり面倒を見てやっていたのだが……。
神父が再びスキル鑑定の呪文を唱えるとトレシアの頭上にスキルとステータスが表示された。
スキル名:魔剣士
ランク:A
「――っ! で、出ましたっ! Aランクスキルです! し、しかも先代の勇者と同じ『魔剣士!』」
「おぉ!!」
父は興奮して立ち上がり、教会内は歓喜の声で盛り上がる。
トレシアは俺を見て笑った。
「エノア様。大変申し訳ございません、どうやら私の方がエノア様よりも凄いみたいですね」
トレシアの態度に俺は唖然とした。
「……へ?」
「私、常々思っていたんですよ。エノア様はウィシュタル家の当主にはふさわしくないって」
父は俺を突き飛ばして、トレシアの肩を掴んだ。
「お前こそが、私の子だ! 我がウィシュタル家を継ぐのはお前しかいない!」
「ありがとうございます。ですが、エノア様はどうされるのですか?」
トレシアの言葉で気が付いたように、父は床に尻もちをついている俺を見る。
とても、冷たい瞳で。
「エノア、お前をウィシュタル家より追放する! この役に立たないゴミクズめ!」
父の決定に異を唱える者はその場に誰一人いなかった。
それどころか、全員が俺をゴミを見るような目で見ている。
それだけ、与えられたスキルの価値というのは大きいのだろう。
ここで俺は「いやいや、違うんですよ」とは言わなかった。
だって、我が子のランクが低いからって追放するような親だよ?
この10年間だって父が俺を見る目は愛情ではなく、『貴族』としての権威を期待する瞳だけだったし。
こんなのが親だっていうのもガッカリしたし、早く家を出て自立したかった。
貴方が俺を『利用価値があるかどうか』で判断するなら、こちらだって同じだ……。
俺にとっては価値のない親なので、よろこんでこの家を捨てさせていただきます!
◇◇◇
そんなこんなで雑に追放された俺は『エラスムスの霊峰』と呼ばれる山へと馬車で運ばれて捨てられた。
自分の手を汚さずに魔物に食わせようというところも卑怯極まりない。
しかし、俺は全く悲観していない。
上の者たちに自分の能力や時間を搾取され続ける人生の虚しさを生前のブラック企業で十分に味わったからだ。
だったら自由に生きて死んだ方がまだマシだ。
それに、俺のスキルは『キャンプ』だ。
恐らく、一人でも生きて行けるようなスキルなのだろう。
前世からの俺の悲願だ、自然に囲まれてゆったりとスローライフを満喫してみたい。
スキルの説明は発現した瞬間に俺の頭に情報として入り込んでいる。
俺は野外で生き抜くためのあらゆる能力が使えるはずだ。
早速、俺は手をかざして能力を発動する。
「フライパン、お肉、お野菜、椅子、テント」
俺が頭の中で欲しい物を念じるだけで、それらは目の前に出現した。
本当に、俺が頭の中で想像した物が出て来てくれるみたいだ。
SSというスキルランクなのでお肉も見るからに最高級の牛肉、お野菜もツヤツヤしてるし、椅子やテントも頑丈そうだ。
もうすでにワクワクしてきた。
「さて、料理するなら次は火を起こさないとな。キャンプスキル、『着火』~」
初めてなので俺は加減をよく分かっていなかった。
指をパチンと鳴らしてスキルを発動した瞬間、10メートルほどの火柱が目の前に上がる。
それは子供の頃に見せてもらった一級魔導士が放つやけに詠唱が長い火炎魔法の火球の何倍も大きかった。
……この『キャンプ』ってスキル、もしかして予想以上にヤバい?
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