第4話 創作のための体験
居酒屋に入ると個室に通され、向き合って座った。
二人向き合って終わりとなる狭さだ。
先輩は日本酒を頼んだ。
俺はビールを頼んだが、その後先輩から勧められて結構日本酒を飲んだ。
普段飲まない分、ペースがわからない。
飲んですぐは当然酔わないが、徐々に酔って来てるような感じがしてきた。
先輩と何を話していたかはよくわからないが、先輩は課長にからかってもらうのが好きだ、みたいな話だった。
自分なら、自分の結婚をあんだけ公でいじられたら恥ずかしいが、そのあけっぴろげなとこが高村先輩の好かれるとこなのだろう。
高村先輩がトイレに立った。
高村先輩は、俺が入社したときのトレーナーでずっと良くしてくれていた。
一時期よく遊んだが、会社が合併して雰囲気が変わってからは、遊ぶ暇が無くなってしまった。
思えば、あの時期は楽しかった。
若かったせいもあるが、飲んだり、旅行したり、バカ騒ぎをして、学生みたいだった。
BLで書きたい話はそれに近かった。
まあ、高村先輩はたしかにお兄ちゃんだけど、包み込むような優しさはないかな……
そう思っていたら、高村先輩が帰ってきた。
なぜか、俺の隣に座る。
「ここに二人は無理ですよ、先輩」
なんの冗談かと思っていたら、壁際に押されてそのままキスをされた。
もう、舐めまわされまくりだった。
先輩が満足(?)したところで、キスが終わった。
「……嫌がらないの……?」
「あ……もう、ここまで来たら……的な……」
嫌がって逃げられるようなスペース無いじゃん。
「いっそ、男ならどうだろうって思ってて。そんときゲンちゃんが思い浮かんだんだよ。で、試しにキスしたら、今、イケたね、うん」
先輩は妙に真顔で言った。
「俺、お前と遊んでた時が一番楽しくて、彼女ができるなら、あんな風に過ごせる人が理想なんだよ。でもなかなかいなくて。だったらゲンちゃんと付き合えばいいんじゃないかっていう……」
「論理的なのに、結論は論理的じゃないですね……」
「ま、友達じゃなくて、お付き合いするっていうのは、体の関係が伴うわけで、それをゲンちゃんとできるかだったんだけど、できた、ってところ」
「……そう……ですね」
「俺は……案外気持ち良かったんだけど、ゲンちゃんは?」
「え……と……。急なことでちょっと……」
キスなんて9年ぶりだ。
大学1年の時に、3ヶ月付き合った女の子とエッチを2回して俺の性体験は終了している。
キスも……片手で収まるかもしれない。
だから、正直言うと気持ち良かった。
酔ってるせいもあるが、とろけそうだった。
女の子の時には、キスが良かった印象がない。
きっと、緊張してただ唇をぶつけただけだったんだろう。
それに比べて、あんな風に弄ばれた日には……。
「嫌なら嫌って言ってよ……。気まずいじゃん……」
先輩もさすがに恥ずかしそうにしている。
「あの……ちょっと……考えさせてくれませんか……。男同士だし……先輩だし……」
小説のことが頭にあった。
あまりに恋愛経験が少ないので、このままじゃリアリティが無さそうだったのだ。
そんな理由で付き合うのもなんだけど……。
「じゃあ、お試しで3か月付き合うのはどう? どうせ、俺だって、男と付き合うのは初めてだから……付き合ってみないことには……ね……」
いい話に思えた。
先輩がいい人ならそのまま付き合えばいいし、合わなくても小説のためにはなる。
「わかりました。よろしくお願いします」
「意外と決断力あるね」
先輩は笑って、もう一回キスをしてくれた。
やっぱり気持ち良かった。
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