第3話 高村先輩

さて、肝心の話の中身を考えよう。


モチベーションとしては、「自分に都合の良いBL」を書くことだ。

それを忘れてはいけない。


と、いうことは、自分が主人公か、好きなカップリングを書くということになる。



パッと思いついたのは、ほのぼの日常系だ。

仲良し男子が、楽しく毎日を過ごす。

一緒に暮らしてるのがいいな。

だとしたら、大学生のルームシェアか、社会人でもうカップルか。


女の影はあって欲しくない……。

楽しく毎日を過ごしていたところに、相方が結婚とか……辛すぎる。

いや、そんな結末のBLなんて、まずないんだけど……。

そんなことしたら、読者の失望激しいよ。

うん。

創作上だけでも幸せになりたい。



そうなると、永遠に二人で暮らす……のがいいよね。

ってことは、互いにゲイで、両思いじゃないと。


ま、最初は告白無しでも、仲が良ければ……。


ん、ダメか。

そんな状態じゃイチャイチャできない。

少なくてもキスはできない。

キスはしたい。


あれ?

もう感覚的には、自分が主人公って感じ?


まあ……自分が主人公なら……

「好きだよ」って言ってほしいかな……



何言ってんだ俺。

頭、大丈夫かな。

小説書くって怖いな。

みんなこんな欲望をさらけ出して書いてるの?



一旦休憩。



ベッドで抱き枕を抱きしめると落ち着く。

こんな風に抱きしめたい……んだか、抱きしめられたいんだか。


そうなると、やっぱり相手は女の子じゃないんだな……。


自分の都合のいい相手を考えるのは楽そうだ。

でも逆に、相手が俺を好きな理由ってなんだろう……


……

…………

………………


無いな!

女以上に俺を選ぶ理由が!


くそ……取り柄の無さが創作にまで及ぶとは……


いっそ、俺を美形扱いにして、顔が好みだとか。

そんな人間性の相方でいいの?


ちょっと大人にして、飲んだ勢いで関係が深まり、情で付き合い始めるとか。

……そんな人間性の相方でいいの?


はたまた、旧友が転がりこんでくるとか。

……人間性ぇ……



俺は、もっと、大人で、安心感のある包み込んでくれるようなお兄ちゃんみたいな相手がいいんだ……。



♢♢♢



結局、お兄ちゃんキャラとの出会いが思い浮かばず、一行も書けなかった。



翌日は、会社の仲のいい上司や同僚との、少人数の飲み会だった。

働き方はブラックだが、人間関係が良かったのは幸いだった。


例の、イケメンだけど彼女無しの高村先輩(37)ももちろんいる。


飲み会は、高村先輩にはなぜ彼女がいないのかで盛り上がった。



「高村君はさ、頭良すぎて隙がないんだよ。時々俺、見下されてるな、って視線で感じるもん」


課長が言った。

デキる課長だから、見下すうんぬんは、からかって言ってるだけだ。


「何言ってんスか。目つきの悪さは元からですよ、失礼な」


「頭の良さはね、隠せって言っても逆になかなかできないから、そこが高村君の可哀想なところなんだけど。なんていうのかな、優しいんだけど、優しいって伝わり辛いんだよね女の子に」


「じゃあ課長がもっと俺が優しい奴だって、周りに言ってくださいよ」


「そうだね、他の職員を守るためにクレーマーを言いくるめたとか、本社からの無理難題にブチキレて社長に直電入れたとか。優しいよね」


「それ、微妙に伝えたい優しさと違いません?」


「そうなんだよ。高村君の逸話は武勇伝が多くてね。優しさ100%のエピソードがないんだよね。ま、バファリンですら優しさは半分だからさ、高村君の優しさが2%だとしてもいい方だと思うよ、俺は」


「2%……低すぎません?」



その後、高村先輩に似合う女子は誰かという話になった。

姉さん女房、妹キャラ、男まさりさばさば女子。



「あー……姉さん女房か、さばさばお姉さんあたり楽そうっスね」


「甘えられるのダメなんだね」


「んー……なんか、不器用だとイライラするんで」


「高村、そういうとこだぞ」


課長がたしなめた。


「いや、仕事だからうまくできない人がいても我慢できますけどね、プライベートでモタモタしてるのとかホント無理」


高村先輩からしたら、俺もモタモタ系だ。

きっとイライラさせてただろう。

ちょっと胸が痛んだ。



♢♢♢



二次会、三次会となり、人数の減りと反比例して酒の量は増えていった。


「高村ちゃんはさ、彼女いなくてどうしてんの、結局」


課長が言う。


「え。まあ当然、お金をちゃんと払って、然るべきサービスを受けてるんですよ」


「それとこれとは、似て非なるものじゃん? ホントに、彼女ほしいの?」


「あー……欲しいんですけど、ピークは過ぎましたね……。いなきゃ寂しいみたいのは無くて」


「いや、ホント、若者がそれじゃ不憫だよね。俺よりいい男なんだから、本来いなきゃおかしいよ。もうあれだ、次モテ期が来たら、絶対結婚しろ。結婚なんて、誰としても同じだから」


「暴論じゃないスかwww」



そんな会話を聞いて、他人事ではなかった。

高村先輩は、なんだかんだで本気出せば彼女はできそうだ。

それに比べて、俺の可能性の低さ……。


はぁ……

カクヨムを始めようとしたときは、多少ウキウキ感があったが、それがなんだと言うのだろう。

そんな趣味が自分を変えるわけがないし、まして人に言えることではない。


ちょっと悲しくなってしまった。



「ゲンちゃん。これからもう一軒付き合ってくんない? 微妙に飲み足りなくて」


高村先輩に耳打ちされた。


「あ、はい。いいですけど」


もしかして盛り上げ役だったから、あまり飲めなかっただろうか?


解散したので、高村先輩について後を歩いた。

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