第5話 佐倉先輩

翌日は休みだったので、昼過ぎまで寝ていた。

目が覚めて、スマホを見ると先輩からメッセージが来ていた。

今日の夕飯を一緒に食べよう、との話だ。


前に遊んでいたときは、うちに来てタコパや鍋パをよくやっていたので、そのイメージだろう。

お好み焼きと焼肉で飲みませんか?と送ったら、イイネと来た。



忘れないうちに、昨日のことをスマホにメモしてみた。


”前に仲が良かった先輩と、酔った勢いで……”


酔った勢い?


一度、考えた設定だ。

その時は、相手の人間性を疑ったが、いざとなると酔いの勢いも大切なんだな、と思い直した。



さて、とりあえずメモはできた。

書きためるか、もう投稿してしまうか……


このまま書きためられるかは自信がなかった。


投稿してしまおう。


最悪、ネタが続かなかったら、”いい想い出がいっぱいできたけど遊ばれて終わりでした”でいいや。


うん、なんで俺が先輩に振られなきゃいけないのか。

ちょっとムカついたけど、投稿した。



『お世話になった先輩と久しぶりに飲んだら、突然告白されて付き合うことになった』


要約すると、そんな第1話だ。


誰も見ないだろう、こんな名もなきBLを。

あ、名もなきとは嘘だ。

タイトルは、『はじめての俺の彼氏』。

(仮)だ。

いいタイトルが思いついたら直そう。



ベッドに横になったまま、しばらくカクヨムの作品を眺めていた。

さて、と自分の画面に戻ったら、驚いたことにハートが一つついていた。


嬉しいどころじゃない。


大変だ。


あんななんの工夫も凝らされていない、日記同然のものを読まれてしまった。

本当に、自分の作品が他人の目にさらされてしまったのだとわかって急に怖くなってきた。


続きを……ちゃんと書かないと……。

まあ、面白くなければ、どうせ読まなくなるでしょう……。

完結は、無理矢理でもさせられるんだから、大丈夫。


そう自分に言い聞かせた。



ハートをつけてくれた人のアカウントを見に行くと、読み専の人で、BL好きだった。

こんな作品数の中で、よく見つけたな……。



……がんばろう……。

さっきは弱音を吐いたが、この母数からしたら奇跡の出会いだ。

その人の好みではなくなるかもしれないが、せめて自分が好きなBLを書こう。

それは、ど素人の自分ができる最低限のマナーのような気がした。



♢♢♢



急に電話が鳴った。


大学時代の先輩、佐倉からだった。


『あ、武田くん? お久しぶり。元気にしてた?』


「はい! お久しぶりです。どうしたんですか急に」


『あのね……すごい厚かましいお願いで悪いんだけど、今日、泊めてくれないかな……。俺、東京での仕事をやめて、そっちで就活してたんだ。明日午前に面接なんだよ。そしたらなぜかホテルが取れてなくて……』


「全然いいですよ。何時に来ますか?」


『それはそちらに合わせるよ』


「でも、明日の面接のこと考えたら……先輩の方が優先で、大丈夫ですよ」


『じゃあ、21:00でいいかな? ご飯は済ませて行くから』



そんな話をして電話を切った。


高村先輩には、佐倉先輩の話をして、今日はその辺りの時間までとメッセージを送った。



とりあえず、部屋の掃除だ。

洗濯も今なら間に合う。


ソファも背もたれを倒して簡易ベッドになるから、1日だけなら悪くはないだろう。



片付けていると、高村先輩から電話が来た。



『今日、大丈夫なの?』


「ご飯食べるくらいなら、時間ありますよ」


『どんな人なの、その人』


「ああ、大学時代、俺が1年の時の3年生で、勉強会が一緒だったんです。バイトも同じところだったんで、仲良くなって、結構遊んでました」


『そーなんだ……わかった。じゃあ、18:00くらいに行くから、そっから買い出ししよ』



電話を切って、片付けを続ける。


佐倉先輩に会えるのは楽しみだった。

佐倉先輩は優しくて、まさにお兄ちゃんみたいな人だ。

なぜか男友達は少なく、女の人によく囲まれていた。

彼女も切らしたことがないし、なんならうっすら被ってるらしかった。


佐倉先輩には、彼女待ち制度があり、本彼女ホンカノほぼ彼女ホボカノ三番で待ちサンカノ(以下番号順)と呼ばれていた。


佐倉先輩は積極的に浮気はしないが、ホボカノ以下のアプローチが凄いのだ。

かく言う俺も、この、種の闘争に巻き込まれる形で彼女ができた。


佐倉先輩がホンカノとデートするときに、なぜか俺も呼ばれることがある。

そこで俺の彼女になっていれば、その子はダブルデートに来て、佐倉先輩と仲良くなれるチャンスが増えるという作戦だ。

その子はサンカノだった。


結局、そのサンカノとは3ヶ月しか続かず、佐倉先輩もサンカノとは付き合わなかった。


自分は踏み台だったが、そうでもなければ交際なんて難しい。

サンカノには好きでもない自分と付き合ってくれて、感謝していた。

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