第7話 ストレス社会

「ここの設定って要件に沿った設定になってる?要件定義と合ってるかもう一度確認しといて」


「はい、要件定義書を確認し、それに合った機能を利用する記載としています。」


「あれ?ここの要件って変更になった気がするんだけど・・・?ちょっと確認して、変更になっていたら記載変更しておいて。」


「要件変わってるんですね・・・承知ました。確認してみます。」


「それと、ここの記載なんだけど、どうしてこの値にしているのか理由がわかるようにかいてもらえる?基本的に根拠が分かるように方式は記載するのが決まってるから、見直して」


「はい、承知ました。今回の作成範囲について見直しを実施します。」


樹雄澄は担当している案件で作成した、方式設計書について、上司のレビューを受けている。


レビューは基本的に印刷した資料を対面レビューしてもらう形式だ。

こういう時に大手企業の方が、印刷をしての対面レビューによる負荷が高いのだろう。

だから、方式設計書の内容に加えて印刷時の書式のズレや罫線などの細かい指摘も発生することとなる。

こうした資料作成やレビューの負荷が大きいことも稼働が上がってしまう原因なのだろう。しかし、大企業ほど企業文化を変えることは難しい。人数が増えれば増えるほど仕事も大きくできる反面、統率をとることも難しくなる。


オンラインが世界的に普及している世の中であっても、日本の企業、、、特に歴史が長く、特有の文化がある企業は変化が遅い。


「あと、参照先の図表番号と実際に参照してる先が違っているところがいくつかあるから、誤字脱字も含めて再度チェックしておいて・・・自己レビューちゃんとしてないと、品質が低いってお客さんからまた言われるから、ちゃんとやって」


「・・・すみません。修正いたします。」     


上司や周りの人間は知識も技術も優れているし、コミュニケーション能力も高い

―――要はしっかりしている。

だから樹雄澄は、自身が平凡であることを、より痛感させられるのだ。


資料のアウトライン作成や、経験に基づいたレビューの観点など、樹雄澄が今までやってきたことを十分に生かすことが苦手な反面、周りの人間は確実に経験した分だけ成長をしている。


実力がある人間は、仕事に対してポジティブに行動することができ、結果を残して上へ行くことができる。


樹雄澄のように能力が平凡で、代わりがいくらでもいるような人間は、成果主義になった途端に首を切られてしまうだろう。

コミュニケーション能力も高いとは言えないし、作成する資料の品質も毎回レビューでボコボコにされてしまう。


樹雄澄本人は、気を付けているつもりなのだが、どうしても他人の観点から見た時に穴がある資料となってしまう。そうした際に、反省して次はより良い資料を作成するために、独自のフローでも蓄積していけば、資料の品質も上がるのだろう。

これに関しては、実行できていない樹雄澄の問題でもある。


仕事に求められているレベルの高さに追いついていない自身の能力の低さを実感し、焦りは感じているが、打開しようとする気力がない。

どうして自分は、経験から反省をして、それを糧として満足に仕事ができないのだろうか、という自分自身に対する反発は抱えているが、改善できない。

反省を活かすこともできない点に関しては、悪い意味で非凡なのかもしれない。


今の仕事が嫌いなわけではない。しかし、どうしても詰めが甘くなってしまい、ミスをする。

そのミスを責められた時には反省もするが、時間が経つと同じミスを繰り返す。

樹雄澄は、30歳にもなってこの程度のレベルである自分自身が、社会不適合者なのではないかと思い始めた。


・・・オフィスでは、多くの人がそれぞれの仕事を黙々とこなしている。

楽しく仕事をしたい、やりがいのある仕事ができたら幸せなのだろう。

そういったことは、今の職場で実現することはなく、理想郷となってしまっている。


出来て当たり前、できなければ責められる。

そういった環境のプレッシャーに樹雄澄の心は、ゆっくりだが確実に押し潰されている。そうして萎縮し、負の連鎖に陥っていく。


そのことを自覚していながらも、会社を辞める勇気も自分自身を変えるための向上心もなく、日々の生活への不安からプレッシャーを受け続ける道しか見えていない。


―――ダメ人間――――


この烙印が大々的に力強く押される日もそう遠くはないだろう。


>社畜のスミオ

2024年10月22日

仕事の内容自体は嫌いじゃない

だけど、思うようにならないし、納期は迫ってくる

こういう時ってホントに嫌になるし、転職も考える

だけど時間が経つとこの時の反省や後悔も薄れていくからダメなんだろうな

社畜ツライ


そうしてSNSに投稿をして、携帯の画面を閉じた樹雄澄は、暗くなった画面をじっと見つめて深いため息をつくのだった。




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