ここに帰るということ

かにかま

思い返す。18歳

よくある無人駅、ただそれだけ。

何かある訳でも無い訳でもない普通の街。


「壁が蔦で覆われた家がついに取り壊されたらしい」

「あの服屋が無くなるらしい」

「あの空き地にまた薬局ができるらしい」

そんなことはよくあることだが僕にとってそれは少しばかりの寂しさを感じさせる出来事だった。

小学校の頃、つまりは10年ほど前から見ていた景色。

その欠片がどこかへ落ちていく。


何か思い出す。休みの日の深夜に橋の下で友人と歌ったこととか、よく飲み歩いた公園。朝、駅の近くにある人が微妙に通れるくらいの家の隙間とか。

いつかなくなるというのに。この街は呪いをかけてくる。僕をここに置いて鍵をかけた。


駅の裏側には何も無かった。

去年の冬から毎日のように訪れては煙を眺め、たまにあの子がいる。それだけのことで他に何も無かった。他に何もいらなかった。

この駅は0:40分に明かりが消える。踏切の音は鈍かったがたまに月明かりは眩しくて、夜とは思えない輝きと手を繋いでいた。


冬は寒かった。星は綺麗だった。

夕焼けは建物で見えなかった。君は笑っていた。

雨はずっと止まなかった。冬は終わっていく。

そしてまた春が来た。君はいなくなる。



死なずにいた日々。

僕は生きた。


18


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