第2話 初冒険の朝

 鳥の鳴き声がする。もう朝なのね。


「ありがとう。起こしてくれて。ふぁー」


 あくびしてる場合じゃない。そうだ。今日から、いよいよ冒険に出かけるんだわ。緊張きんちょう するなぁ。だって、サムさんとの初の冒険だもん……。


「うー。嬉しいよぉー」


  思わず嬉し過ぎて声に出しちゃうよぁ――い、いけない。私、はしゃぎすぎだよ。遊びに行くんじゃないんだもんね。真面目まじめ に、気持ちを引きめて。ロタノーラさんもいるんだし。早く朝ごはん食べて、集合場所に急がなくちゃ。



*****


 あっ。サムさんだ。もう来てる。よし、ここは、私も急いでけ足だよね。


「はぁ。はぁ。おはようございます!」


「おはよう、チェリル。そんなにあわてなくても大丈夫だよ。今日が初めての冒険なんだよね。緊張してるんじゃない? 睡眠すいみん はとれたかな?」


「それが、あまり寝れなかったんです。なかなか寝付けなくって……」


「ははは。僕にも覚えがあるよ。そういうものさ。冒険の初体験の時というものは」


「はっ、初体験! サムさんとの初体験ですね」


 ああ、初体験かぁ。私、違うこと想像そうぞうしちゃうよぅ。サムさんと、あんな事や、こんな事を……。なんだか顔が火照ほてってきちゃったな。


「チェリル? 大丈夫かい? 顔が赤いよ。ぼぉーっとしてるし。熱でもあるのかな?」


「あっ。だ、大丈夫です。多分これは、走ったからです」


 いけない。いけない。変な想像してるの知られると嫌われちゃう。私は、どうかしてるよ。平常心に戻さなくちゃ。少し目を閉じて、深呼吸しんこきゅうしよう。


「あっ」


 驚きの余り思わず声が出た。サムさん? どうしたの? 私を急に抱きしめてくるなんて。大胆だいたんだな。もしかして、私が目を閉じたのを口づけを求めたと思ったの? 向こうも乗り気だね。もう、身をゆだねるしかないな……。


「サムさん。し、してもいいですよ」


「あっあの。サムじゃないよ。あたいだよ」


「えっ? あっ! ロ、ロタノーラさん。おはようございます」


 私って、馬鹿ばかだな。サムさんが突然に抱き着くわけないよね。ロタノーラさんだったんだ。恥ずかしさが込み上げて来る。キスの催促さいそくと気づかれてないよね。


「おはよう、チェリル。ペロペロペロ」


「な、何で、顔を舐めるんですか?」


「こ、これが、あたいとチェリルとの挨拶なの」


「……」


 もう、好きにしてくださーい……。でも、くせ になりそうな私が怖いよぉ。


「おーい。二人ちょっといいかな」


 ふう。サムさんが、ぺろぺろをめてくれそう。ほっとしたよ。やめる気配が無いんだもん。私、溶けちゃいそう。


「あっ、ロタノーラさん! サムさんが呼んでますよー。残念でしたね」


「えっ。何で? 楽しくなってきたのに」


 あきれた口調で言ってしまった。ロタノーラさん。ごめんなさい。


「えっとだな。これから仲間を呼ぶ時だけど、呼び捨てにしよう。戦闘中に呼ぶのに時間を短縮した方がいい。でもって、敬語も無しだ。まぁ、ロタノーラは、言う必要ないけど。チェリルは、そうして」


「はい……。う、うん。了解よ」


「その調子だよ。チェリル」


「うん。サム」


 サムって呼び捨てしちゃったよぅ。男性を名前で呼び捨てなんて何年振りかなぁ。子供の頃は、友達にいたけど。

 最近まで魔導士の師匠の所での修行の毎日だったからなぁ。男っけ無しの日々だったもん。

 ふああ。なんだか、恋人を呼ぶ気分になっちゃう。なんだか、む、胸がキュンとする……。もう一回呼んじゃおうっと。


「サム」


「なんだい。チェリル」


「あ、あの。少し不安なの」


「大丈夫だよ。僕が付いてる」


 ああ。サムの優しい言葉。私の目を見つめてくれてる。


「ちょっと、二人とも。見つめ合っちゃって。今からデートに行くみたい。あたいもいるのに! 真面目でなきゃ! チェリル分かったの? プンプンだよ!」


 ええっ。ロタノーラが、それ言うんだなぁ。なんか怒らしちゃったな……。でも確かに私もサムの名前を呼ぶだけで舞い上がるなんて、駄目だよね。反省しなくちゃ。


「そうだな。ロタノーラの言うとおりだ。僕がしっかりしなきゃだな」


「ほんと。しっかりしてよ、サム!」


 たはは。私と違ってロタノーラは、呼びなれてるなぁ……。

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