第4話 お前だけの騎士になる

 ダルの人生をやり直す為の大事な日。戦士ギルドのミッションを遂行する為に出発する約束の朝がやって来た。動きやすさを重視してダルは、レザーアーマーを着用し、剣を持つ装備だった。


「朝の俺のソードちゃんも元気だったし。さてと、行くか」


 そう呟くと、ダルは、玄関のドアを開けた。空は、あいにくの曇り空。ミッションの出発の日くらいは、晴れやがれとダルは、心で愚痴ぐちを言う。晴れの天気で、清々すがすがしい気持ちでミッションに出かけたかったのだ。験担げんかつぎも含めて。



 *****


 戦士ギルドの前には、ギルド長のカフェオが見えた。空に向かって、何か言っている。しかしダルには聞こえずに、何を言っているのか分からなかった。ダルは、カフェオに近づいた。そして、カフェオに何を言っていたのかを聞いてみた。見られていたことが恥ずかしかったのか、カフェオは、照れた表情になった。


「ん? ダルか。おはよう。さ、さっきのは、ギルドを開ける前の朝の習慣だ。鳩に挨拶をな……。そうだ、お前もやってみるか? 鳩君、おはよう!」


「やらねぇよ!」


 ダルが思いっきり大声で断ると、カフェオは残念そうな顔をして、そそくさとギルドの建物の中へ入っていった。ダルは気を取り直して待つことにした……。

 ギルシー達は、直ぐには来なかった。色々と準備もあるだろう等と、まだ来ない理由を考えてみるダル。


 しばらくすると、ダルは、自分を見ている十歳位の少女が居るのに気づいた。最初は気にも留めなかったが、少女が彼の様子を見ている気がしたのだ。ダルも少女を凝視する。目が合うと少女は意を決したのか、ダルに駆け寄って来る。そしてダルの目の前で立ち止まった。


「ダル。私よ。ギルシーよ。魔法で子供にされたの。ミッション中止よ。えっと、お金も取られたの」


 ギルシーに似ても似つかない少女は、棒読みのセリフでそう言った。なんだ? まさか? 混乱するダルの心。不安が怒りの感情に変わる。大声で少女の嘘をいさめて、誰かと怒鳴る声で尋ねるダル。その態度に少女は、ムッとした表情になった。


「もう、やっぱり怒られた。はした金で雇われて、割りが合わないわ。はい、これ手紙よ。渡したわよ。じゃあね、おじさん」


 愚痴りながら一枚の紙をダルにさっと渡すと、少女は、そそくさと走って去って行った。

 怒りのせいなのか、はたまた不安のせいか、手を震わせながら手紙を読んでみると『私は、こんな悪い女なの。ごめんね、ダル。私を捜さないでね。ギルシーより』と書かれてあった。その手紙を握りつぶすと、その場にへたり込み項垂うなだれた。何故だ? 否、俺が馬鹿だったんだ。自分を責めてしまうダル。

 彼女が亡き妻に似ていただけに、その分に悲しみは、強かった。心は枯れて、涙さえ出なかった。そんなダルの代わりに天が泣いたのであろうか。雨が降り出した。それからダルは、立ち上がったが、雨に打たれても慌てる様子もなく、そのままフラフラと歩き出した。

 

 その光景の一部始終を静かに見ていた男が一人。


「何をやっているんだ。アイツは……」


 ギルドの中のカウンターから窓越しに、ダルの後ろ姿を見ながらカフェオが呟く。そのカウンターには、珈琲カップが二つあり、湯気が上がっていた……。



 *****


 プリンダは、酒場の開店に向けて、いつものように掃除をしていた。すると、店の入口のドアで、何やら物音が聞こえた。何かと不思議に思った彼女は、確かめるべく、急いでドアを開けて見る。そこには雨で、ずぶ濡れの男性が、うつ伏せになって倒れていた。男性の顔を見たプリンダは、驚きの余り気が動転した。


「ダル! どうしたんだい? こんなにも雨に濡れて。しっかりして。立てる?」


「ああ、なんとかな。アソコは、無理だが……」


「冗談が言えるなら、死にはしないよ。さあ、中に入って」


 プリンダは、少し安心した様子でフラフラと立ち上がったダルを店の中に入れて、濡れた服を脱がさすと、自分のバスローブを持ってきて着せた。そして、店の二階の寝室のベッドで横になるように、ダルに指示した。

 今日は店の営業中止を決めると、店の入口のドアに本日休業と書かれた小さな板をぶら下げるプリンダであった。



 *****


「うーん……ここは何処だ? そうか、俺はプリンダのベッドで寝たんだった。まったく、迷惑をかけっぱなしだな」

 

 睡眠を十分にとったダルは、朝の気配を感じて自然に目を覚ました後、プリンダへの感謝と反省の思いが溢れる。

 上半身をベッドから起こすと、その眼には椅子に座って寝ているプリンダの姿が映った。その寝顔は、意外に可愛く思う。ダルは、プリンダの寝顔に心を奪われて、見とれた。

 プリンダは、視線を感じたのか、目を覚ました。するとダルに近づくと、自分の顔をダルの顔に接近させた。

 ま、まさか。モーニングキスをするのか? そう思ったダルは、柄にもなく照れた。しかし、プリンダは、自分のひたいをダルの額にくっつけただけだった。

 

「熱は、無いようね。でも、少し顔が赤いかな?」


 ダルは、自分の新たに芽生えたプリンダへの感情を悟られまいと、勢いよくベッドから出る。


「いや、もう大丈夫だ。すまないなプリンダ。お前が正しかった。俺は、騙されたんだ。だが、借りた金は、かならず返す。今度は、マンティコアでも何でも戦ってやるぜ」


 そう言いながら、寝室を出て行こうとするプリンダは、ダルの手を掴んだ。ダルは、思わず振り向く。するとプリンダは、ダルの胸に飛び込み抱き着いてきた。


「マンティコアなんて戦わないで。ダルが死んじゃう。もう、ギルドのミッションには行かないで。この店で私と一緒に働いて……。私の人生のパートナーになって」


「プ、プリンダ。でも、俺とは、したくなかったんじゃないのか? 何故だ?」


 ダルは、プリンダの気持ちが嬉しかったが、同時に身体の関係を断られた事が頭をよぎって冷静にさせた。

 プリンダは、ダルの顔を見つめる。そして、その訳を話した。身体だけの関係になるのが嫌であり、心で愛し合う真剣な恋人になりたかったのだと。その言葉を聞いたダルは、プリンダを強く抱きしめた。プリンダもそれに答えるように強くダルを抱きしめる。


「プリンダ……これからは、お前を守る男になる。お前だけの騎士になる」


「約束よ。ダル」

 

 そう言い終えた後、二人は、口づけを交わした。そして、寝室の窓からは、雨が上がり、晴れた朝の太陽の光が、優しくて二人を照らしていた。



 *****

 

「朝食を持ってきたぞ。食べようぜ」


 エプロン姿のダルが、朝食を乗せたトレー二つをキッチンのテーブルに置いた。プリンダは、椅子に腰掛けてダルを眺めていた。


「そうだ。珈琲を忘れた。取ってくるぜ」


 そう言ったアルは、後ろを向いた。すると、プリンダの眼には裸のダルの背中と尻が飛び込んだ。なんと、ダルは、裸の上にエプロン姿だったのだ。


「もぉ、やっぱりチャランポランだね。私の騎士さんは……」

 

 そう言ったプリンダは、幸せそうな顔で微笑んでいた。

                     

                              おわり

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ちゃらんぽらん戦士 零式菩薩改 @reisiki-b-kai

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