第3話 借金と晩餐
プリンダは、悲しい顔をして、自分に頭を下げるダルを見つめていた。店に来た時からダルは、いつもと雰囲気が違っていた。この自分の店で、この様なダルの姿を
「頼む、プリンダ。俺を男にさせてくれ! 頼めるのは、お前だけなんだ!」
「もうー。その言い方は、止めてよね。あんたは、とっくに大人の男でしょ。わかったわ。お金は、貸してあげるから。頭を上げて」
真剣な表情で頭を下げたままで叫んだダルを見ていると、騎士時代の面影が見えた気がするプリンダだった。
プリンダは店の奥に引っ込んだ。そして、しばらくすると、この国の通貨のテカル金貨の入った袋を持って出て来ると、それをダルに手渡した。
「ありがたい。今日、ギルドで相棒になったのが、仲間を呼ぶのに手付金がいると言うのでな。まぁ、ミッション達成で一攫千金よ。その相棒とは、運命の出会いを感じたんだ。借りた金は利子付けて返すぜ。あと、飲んだツケもな」
「大丈夫なの? 信用出来るの?」
自信満々に話すダルにプリンダは、不安げな表情を浮かべた。しかしダルは、成功を信じて疑わなかった。亡き妻のカルミアは、真面目で優しい女だった。きっとあの彼女もそうさ。俺は、人生をやり直せる。そう思い、ダルの心は、希望が溢れた。
プリンダの心配をよそに、意気揚々と店を出て行くダルだった。
*****
ダルは、ギルシーとミッションの事を話し合うために会う約束になっており、日が沈みかけた頃、テラダー亭と看板に書かれた酒場風の店で、軽く食事をしていた。
「美味しそうー」
ギルシーは、料理のソーセージにかぶりついた。フォークがとれて、口の動きだけで、ギルシーのピンク色の唇に吸い込まれていくソーセージ。ダルは、それをじっと見つめていた。
ダルもソーセージを注文していたのだが、ギルシーの食べる姿を見ているのに夢中で食事をする処では無いのだ。
そうしている間にギルシーは、食べ終わってしまった。すると彼女は、ダルの方の皿のソーセージを物欲しそうに見た。
「あれ? ダルは、食べないの? ダルのソーセージも食べたいな。欲しいの……ダルが口に入れて。あーん」
ソーセージを食べさして貰う催促をして、ギルシーは、小さな口を開いた。自分の料理のソーセージがギルシーの唇に! 何故か興奮するダル。ダルの心は、高鳴った。
「や、やさしくな」
フォークに刺したソーセージをギルシーの口に運びながら、ダルは意味不明な言葉を口走った。そして、ソーセージはギルシーの口に吸い込まれた。
「ソーセージで口の中がジュルジュルになっちゃったよぉ。凄く油っぽい」
ソーセージを食べ終えたギルシーは、満足げに微笑んだ。それとは逆にダルの心は、ひそかに欲求不満に陥った……。
食事を終えたギルシーは、ダルに礼を言ってから、テーブルの上のアルの手を握った。これは、ギルシーの誘いなのだろうか? 迷うダル。ダルから強引な誘いは、嫌われるかもしれないと考えていた。だが、ダルは、もう気持ちが抑えきれなくなった。店の上の宿屋での二人での宿泊を提案するダル。ギルシーは、嫌な顔はせずに微笑んだ。
「そうね。それは、ミッション達成のご褒美にね……。ところで、お金は用意できたの?」
ダルは、プリンダに借りたテカル金貨の入った袋をギルシーに手渡した。ギルシーは、喜び、ダルの頬にキスをした。ダルは、有頂天な気分になった。青春時代の気持ちを取り戻したようで満足していた。
明後日に戦士ギルドが開く時間にその前での集合をギルシーに告げられたダル。返事をすると、ギルシーは手を振り、ウインクをしながらテーブルを離れて行く。
その後ろ姿をダルは、愛おしい者を見る眼差しで、ずっと眺めているのだった……。
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