第2話 戦士ギルド

「お前に達成できるミッションなど、あるものか」


 戦士ギルド長のカフェオは、ダルに冷たい言葉を浴びせた。自分は、温かいモーニング珈琲を飲みながら。

 戦士ギルドとは、傭兵ようへいの集まりのような組織だった。だが、戦争が無い時は、モンスター退治などの依頼を受ける所となっており、朝の戦士ギルドは、ミッションを探しに来た者で大変な賑わいである。


「俺は、金が必要なんだ。何かあるだろう?」


 ダルは、むきになり、受付カウンターのカフェオに向かって、噛みつくように言う。

 すると周りの他の者達が、ざわついた。それも無理もない。ギルド長に文句を言って、もし出入り禁止にでもなれば、戦士生命を絶たれる事になりかねないからだ。ただギルド長カフェオが冷静である事が救いだった。


「相変わらず威勢いせいだけは、いいな……。まぁ、掲示板を見るがいいさ。失敗して死んでも知らんからな。そうだ。死んでも泣く者もいないか」


「うるせぇ。余計なお世話だぜ」


 カフェオの警告を気にもせず、愚痴ぐちりながらダルは、ミッション依頼の載っている掲示板にフラフラと歩いて行った。


 掲示板の周辺も人だかりが出来ていた。ダルは気にせずにかき分けて、ミッション依頼の張り紙を見ようとする。割り込もうとする者の登場に周りの者達は、ムッとした表情に変わった。


「はいはい、ちょっと、ごめんなさいよ」


「何だ? このおっさんは? 割り込むなよ。うわっ。酒くせーぞ」


 ダルの強引な行動と酒臭さに呆れた者達は、文句を言いながらも掲示板から離れて行くのだった。ダルは、そんな事などを気に留めもしないで、色々と掲示板の張り紙を眺めて選び悩んでいた。


「うおっ! 物凄い成功報酬だな。何々、ブラックドラゴン退治だぁ? 無理無理。おしっこちびりそうになったぜ。次は……マンティー? のコアだと! いや、違った。マンティコア退治か……」


「これなんかどうかしら?」


 若い女性と感じる声がダルの横から聞こえてきた。ダルは、気怠けだるそうに声のした方に顔を向けた。すると、思わず息を呑んだ。カルミア? と心の中で亡くなった妻の名を呼んでいた。その女性は似ているが若い。ダルは、高鳴る心を頭で考えて落ち着かせようと必死である。

 声の主は、レザーアーマーを着て、腰に剣を装備した女戦士だった。張り紙を指さしたまま、ダルの様子を見て、不思議そうな顔をしている。


「おじさん、どうしたの? 私の顔に何か付いているのかしら?」


「ああ、何でもないさ。知り合いに似てたから、驚いただけだ」


 ダルの返答に納得をした女戦士は、微笑んでいる。その笑顔を見てダルは、すさんだ心が癒されたような気がしていた。

 女戦士は、掲示板の張り紙を引きはがすと手に取り、ダルの横で身体をくっつけて、一緒に見ようとした。

 年甲斐もなく、ダルの心は初恋をした少年の様にときめいた。顔を赤くしながら、張り紙を覗き込む。女戦士の長い髪から発せられる甘い香りがダルの鼻の細胞を刺激する。


「いいな。たまらんなぁ」


「そうなのよ。このゴブリンの群れの退治は、報酬がいいでしょう」


 思わず呟いたダルの言葉に女戦士が反応する。このミッションに興味があると勘違いをしたようである。ダルは、我に返り慌てた。それで彼女にゴブリンは、手ごろな獲物と思われがちだが、巣だと数も多い。油断すると命も危ない事などを語ったのだ。


「そうよね。だから私は、おじさんとやりたいの。あと、知り合いも二人位呼べば、大丈夫かな」


 私は、おじさんとやりたいの。その言葉がダルの頭を駆け巡った。俺も君とやりたい。あんな事やこんな事を。頭の中の妄想で女戦士の鎧や服を脱がすダルだった。


「俺も、直ぐにでもやりたい……」


 ダルの返事に女戦士は、満面の笑顔になった。まさか頭の中で全裸にされているとは知らずに。


「決まりね。私の名は、ギルシーよ。よろしくね」


「ああっ、俺は、ダルだ。よ、よろしくな」


 ダルと女戦士ギルシーは、握手を交わしていた。彼は、その小さな柔らかい手を握れて、幸せを感じていた……。

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