第46話 ダイエット開始

「うう……うそでしょ……」


脱衣所でタオル一枚巻いた状態の六倉が体重計に乗って苦虫を嚙み潰したような顔をする。

六倉は周りをきょろきょろと見回した後。

何度か体重計の上で変なポーズをする。

しかし依然とその顔色は優れない。


「うそでしょ……どうして」

「六倉太ったね」

「え、六倉ちゃん太ったの!?」

「キャーーーーーー!!」


ドンガラガッシャンと後ろで屈みながら六倉の体重計の結果を見ていた七星と五十嵐に驚き横に倒れる。そしてその拍子に巻いていたタオルがはだけてしまった。


「なんだ!今凄い叫び声g!?」

「こっち見ないでください!!!」


叫び声を聞いて慌てて来た鷹宮だが六倉が投げた歯ブラシを固定する用の小さい硬い石のオブジェが顔面にクリーンヒットして脱衣所の前で伸びた。


「明日から……いえ、今日からダイエットよ!!」



***


「おいおい、マジで食わねえのかよ?」

「そんな高カロリーなもの食べれません。それよりこれからランニングに行ってきます」

「おい!せめて一口ぐらい……!行っちまった……」


夕食時、みんなで夕食を食べようとした途端、六倉はジャージ姿で外に出かけてしまった。


「せっかく特売で良い肉手に入ったのに……」


鷹宮は手に持つロースカツを見て残念そうにつぶやいた。


「しかたない。六倉は真面目だから」


がぶがぶとロースカツを食いながら七星が言った。


「真面目だからって飯を抜くのは違うだろう」

「六倉は古臭い考えを持ってるから多分痩せるまでほとんど食べないと思う。お代わり」

「マジかよ……。はいじゃあ六倉の分」

「うん」


手元にあった六倉の分のロースカツを七星に渡す。


「それで一体何キロデブッタんだ?」

「確か1.5キロぐらいかな?」


五十嵐がおぼろげながらもそう答えた。


「たった1.5キロかよ。そんぐらい誤差だろ」

「ノンノンノンですよ先輩。女の子にとってその小さな誤差がのちに大きな致命傷になるんですよ!」


二宮が身振り手振りを使ってその1.5キロの重さを説明する。


「そうですよね!」


そして同じ女の子である五十嵐と七星に賛同を求める。


「ごめん、あたしほら、運動してるから」

「体質」

「振る相手ミスりましたーーーー!」


まあ普通に考えてこの中で太るに程遠い存在がこの二人だわな。


「ちょっと、夜なんだから少しは静かにしなさいよ」

「三秋センパ~イ!」

「ちょっといきなりなんなの!?」


仕事終わりにちょうど帰って来た三秋にナイスタイミングと二宮が抱き着く。


「ちょっと説明しなさいよ!さっき六倉が走って行ったけど何があったのよ!」


戸惑う三秋に今あったことの経緯を説明した。


「そういうこと」

「だけど1.5キロなんてそんなに」

「重要よ!モデルとして、体型管理のプロとして女性の1.5は重いのよ!」


急に三秋も六倉並みに熱が入り始めた。

嫌な予感がする。


「ならここはアタシがコーチとして彼女のサポートをするわ!アンタたちも協力しなさい!」


やばい、これは完全にやばい流れだ。


「何やら面白いことになってるみたいだね」

「いつの間に」


さりげなく俺の隣に立つ四乃原先輩。


「一応今は作家に専念するって決めたからね。面白そうなところに来るのは当然でしょ?」

「面白そうですか?俺からしたら面倒事の予感しかしませんよ」


こうして六倉と三秋によるダイエット期間が始まったのだ。


「明日の朝食は全員これでお願いね」

「え?」


深夜の仕込み時間、三秋から謎のレシピを渡され、当の本人は部屋に戻ってしまった。

とりあえず渡されたレシピを読み込む鷹宮。


「全員分これって本気かよ……」


不安な気持ちを抱えながらそのレシピに従って朝食の準備をする。


***


翌朝、朝食の時間。


「これなに?」


今日の朝食のテーブルの上には謎のドリンクが人数分置いてあった。それを見て真っ先に声を上げたのは七星だ。


「大豆やら野菜やら鶏肉やら卵やらその他もろもろをミキサーにぶっこんでかきまぜた特製ドリンクらしい」

「特製ドリンク……?」

「カレーは飲み物だと言うだろ。その親子丼版だとでも思え」

「断固としてそれは認めない」


明らかに不満そうに繰り返す七星。


「待ってよ。これボク達もなの!?」


しれっと自分たちも巻き込まれていてその理由を鷹宮に問う四乃原。


「なんでもダイエットは団体戦らしくてな。周りがカロリー気にしないで飯食ってると精神が不安定になって悪影響があるからって」

「もしかしてあたしたちの朝食ってこれだけ?」

「ああ、しかもそれ一杯だけだ」

「ほんとに!?あたしこれだけじゃ満足できないんだけど!!」


思いっきり抗議する五十嵐。


「うっん!?」


そしらぬ間に一口飲んだ二宮が口押させてトイレへ猛ダッシュした。

それを見てここにいる誰もが躊躇い手を出さずテーブルに置いてあるドリンクを眺めるだけ。


「鷹宮、君が飲んでよ」

「はぁ!?なんで俺なんすか!?」


静寂の中突然四乃原から名指しされた鷹宮。だが鷹宮だって決して飲みたいとは思ってはいない。当然のこと抗議する。


「だってこれを作ったのは君だろ?なら味見はしないとな」

「右に同じ」

「四乃原先輩に賛成!」


黙っていた七星と五十嵐が四乃原先輩の味方をした。


「いやいや俺関係なくない!?」

「それはボク達もだ!」

「その通り。だからまともな朝食を要求する」

「あたしも!」


それから絶対に飲みたくない鷹宮と鷹宮に飲ませたい3人の攻防が続いた。

だがそれはすぐに終わった。

朝のランニングを終えた六倉と三秋がダイニングに入ってきてテーブルに置いてあった特製ドリンクを一気飲みした。

二人とも一瞬苦しそうな顔をするが完全に飲み干した。

飲み干した後二人はこっちを見てくる。

多分飲めってことだ。

4人は息を呑んで恐る恐るコップを手に取る。

お互いに顔を合わせて深呼吸して覚悟を決め同時に一気に飲む。

それが喉を通った瞬間凄まじい嗚咽感が襲ってきた。胃が、腹が外に押し返そうと腹筋を使って筋肉運動を始めた。

4人全員眼をガン開いて飲み込もうと頑張る。


「うんうん!?」


最初に脱落したのは七星だった。首を左右に振ってキッチンに走って行った。

次に襲ったのは鼻の穴を通る強烈な生モノの臭い。息を鼻から息を吐くたび生臭い異臭が神経に伝わる。それに耐えきれなくなり五十嵐が涙を流して外に走って行った。

残ったのは俺と四乃原先輩の二人だけ。

最後にこの異物を胃に流し込む。神経全体が吐き出せ、取り込むなと警報を鳴らす。だがそれを拒絶し一気に流し込んだ。


「ぶっっっは~~~!」


精神的にかなり疲労したが何とか耐えた。横目で四乃原先輩を見ると四乃原先輩もなんとか飲み切ったようだ。

それを見て満足そうに首を振って二人とも今度はジムに向かって行った。

それを見て安堵する。


「よく耐えましたね、四乃原先ぱ!?」

「ごめん……」


声を掛けるとさっきまで全然とまでは行かなくてもそこそこ平気そうだった四乃原先輩だが今は頬をぐちゅぐちゅさせ、決壊寸前だった。

四乃原先輩はそのままゴミ捨て場に走って行った。


「これは……ぶう!?……一度会議をする必要があるな」


なおその日は一条先輩、三秋、六倉を除いた5人は体調不良の為欠席となった。



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