第47話 ダイエット会議からのプロジェクトスタート

「それではこれより六倉先輩ダイエット対策会議を始めます。よろしくお願いします」


薄暗い空き部屋の一角で今朝の被害者全員が体調不良による欠席を理由に学校を休み、その貴重な時間を使って重要な会議をしていた。


「議長はこの二宮雫が務めさせていただきます。それではまず議題の提示を、先輩お願いします」

「りょうかい。今回の議題は六倉のダイエットをどれだけ早く終わらせるかです」


鷹宮がそう言うと四乃原が無言で手を挙げた。


「はい。四乃原先輩」

「会議の前に一つ確認なんだけど。どうして彩花がいないの?」

「そういえば見てませんね一条先輩」

「先輩なら昨日の夜旅行に行ってくるって出掛けて行きましたよ」

『・・・・・・・・・』


五十嵐のぶっ込みで3人は地蔵のように固まる。


「なるほど。だから昨日私の所に来たのか」

「それはどういうことなの?」

「昨日彩花が私の部屋に来てお勧めの観光場所を聞きにきた。最初はわからなかったがそういうことか」

『そういう大事なことは早く言え(って下さい)(いいなさいよ)ーーーーー!!!』


五十嵐と七星の話を聞いて3人は二人を叱る。


「とにかく彩花はボク達を置いて逃げたってことだね」

「流石一条先輩ですね」

「一条先輩と六倉は妙に関係が深そうだからな。こうなることを予感してんだろう」

「そんなことよりこの問題をどう片付けるんだよ!このままじゃボク達はあのゲロまずドリンクだけで当分過ごすことになるよ」

「あたしアレだけ過ごすなんて無理だよ!」

「私も同意。あれは拷問」

「私も流石にきつ過ぎです~」


みんなあれで腹を満たすのは無理と嘆く。それは俺も同じことだ。味がないならまだマシだがまずいとなると誰もが拒否したがる。更にそれが触感も悪いし臭いもきついとなると誰だって嘆きたくなる。


「愚痴たってしょうがない。解決方法は最初から一つしかない。六倉のダイエット成功。これ以外ないだろ」

「鷹宮の言う通りボク達の出来ることは楓のダイエットをサポートして一刻も早くこの地獄の期間を終わらせることだ」

「でもどうやってやるんですか?」


二宮が四乃原に問う。

それに四乃原は自信満々に答える。


「それは簡単さ。ボク達の才能を活かすのさ」

「私たちの才能ですか?」

「そう。というわけでよく聞いといてね」


このようにして俺たちは六倉のダイエットを手伝うことになった。


***


「さあ二人とももっと気合だしていきましょう!!」

「五十嵐さんもう少しペースを」

「まだまだこんなものではお腹についた脂肪は落ちませんよ?」

「む……分かりました」

「そうこなくっちゃ!」


俺たちはそれぞれ担当別に分かれて六倉のダイエットをサポートすることにした。

まず朝のランニングは五十嵐が担当。この寮に住んでいる中で運動と言ったら彼女なのは間違いない。


「運動後は筋肉の鎮静化」


朝のランニング後は寮のジムに備え付けてあったデカい機械に六倉を入れる。


「これってプロが使うアイシングのやつだろ?」

「うん!一条先輩が置いてくれたんだ!」


そんな当たり前かのように置いてあるようなものじゃないけどな。ただでさえ本体設置代と金がかかるのに液体窒素もそれなりに量がいるので金がかかる。改めて一条先輩が金持ちなのか理解させられる。


「じゃあその間に俺たちはこっちでやりましょうか」

「分かったわ」


俺は三秋を連れてキッチンに向かう。俺の役割は三秋と一緒にまともに食えるダイエット飯の研究だ。これが他の4人に念を押されたことだ。なお三秋には一人でサポートするにも限界があるだろうから一緒に分担してやろうとみんなで言ってこのポジにつけさせた。


「今はネットも普及してるから調べれば美味いダイエット飯ぐらい結構でてくるだろ。俺たちはそれを今からマスターすることからだ」

「なんでアタシが料理なんて……」

「こないだ俺が出かけてた時お前に夕飯任せただろ?その残りもん食ったが結構美味かった。お前、ここに来る前結構料理やってだろう?」

「たまたまよ……」

「ならそういうことにしとく」


俺たちネットにあるレシピを元に準備した材料で料理を始める。


「ねえ……」

「なんだ?」


下処理をしている時三秋が心配そうに話しかけて来た。


「例の件なんだけど……」

「それなら心配するな。順調だ」


それに鷹宮は真顔で答えた。


「そう……やっぱりアタシも手伝った方が……」

「やめとけ。危険すぎる」


三秋が心配そうにそう言うが鷹宮はそれを静かに強く拒否した。


「でも、もとはと言えばアタシが原因なんだし」


しかし三秋も引かない。彼女は俯きながらも自分に責任があると主張する。だがそんなの主張鷹宮からしたら割とどうでも良い事。


「その原因がお前にあったところで、今のお前に何ができる?勝手について来て、突っ走って一人で犯人と会うのか?やめとけ、それこそ余計に事がこじれるだけだ」


鷹宮の厳しい言葉に三秋は黙り込む。だが鷹宮とて厳しく言うのは三秋の為であるのだ。そして三秋がここまでいうのは責任を感じているからである。故にどちらが悪いとは言えない。


「……じゃあアンタが一緒なら行っていいの」

「なに……?」


下を向きながら小声でそう言う三秋。

聞き間違いかと鷹宮は怪訝な声をあげた。


「アンタがいればアタシは安全だしょ。どうせアンタが犯人と会うならアタシも連れてって!」


三秋がバッと顔を上げ真剣な眼差しで鷹宮を見つめる。


「俺が一緒だからと言っても絶対に安全だとは限らない」

「それでもアタシが一人で勝手について行くよりマシでしょ?」


鷹宮は三秋にことの危険さを主張するが開き直ってしまった三秋そんなの存ぜぬと話を通していく。


「どうしても行くつもりか」

「どうしてもよ」

「なぜだ?」

「それがアタシなりのケジメだから」


なんども確認するが話が通じない。

こいつ、どう言ったてついてくる気か……。

鷹宮は三秋の言葉と目を見てそう確信した。

付いてくるという行動が一緒ならあらかじめ連れて行った方がいいか……?予想外の動きをされるとなるとそれしかないか。あ〜ほんと、面倒な姫様だ。

今回折れたのは鷹宮だった。


「……分かった。ただし俺のそばから絶対に離れないこと。俺が逃げろと言ったら俺を盾にしてでも必ず逃げること。俺の命令には従うこと。それを約束できるならいい」

「分かった。約束するわ」


力強い返事で覚悟を示す。

鷹宮は溜め息を吐き、作業を続ける。


「いつも適当そうな癖に無駄に責任感は強いとか勘弁してもらいたい」

「知らないわよ」


どういう訳か知らないが本人は外に出ている自分を捨てきれないらしい。一緒に暮らしているというのに。もう既にその仮面が偽りの自分だと知っているのにそれでも尚自分を隠そうとするのか。


「だが、責任を取ろうとするのは親御さんの教育が行き届いてる証拠か」


鷹宮は小さくそう呟いた。


「・・・・・・ふ」


その小さな呟きが薄っすらと聞こえた三秋は小さく微笑んだ。もちろんそのことは鷹宮には知る由もない。


***


鷹宮と三秋がせっせと調理をしている頃、六倉はと言うと。


「歩いだせ、誰も知らない明日へと、あなたの待つ世界へと~~♪」


新しく四乃原と七星によって作られたカラオケで熱唱していた。


「すっごいですね六倉先輩!先輩って歌も上手だったんですか!」


感情に乗せて、まるでその世界の人が歌っているかのように思いの籠った歌にべた褒めする二宮。


「そこまでではありません。ですが最低限の能力はあると自負はしています」


先ほどまでとは打って変わり淡々と自分の能力について客観的事実を述べる。


「私、少し飲み物を取ってきたます」


そのまま六倉は部屋を出て飲み物を取りに行った。


「で、私たちはずっとこのまま歌い続けるだけでいいんですか?」

「いいんだよ」


六倉がいなくなったことで二宮が四乃原に今の自分たちの行動は正しいのか聞く。それに四乃原は自信を持って肯定する。

それを横から出て来た七星が補足する。


「人の脂肪は良く燃焼させることが重要」


七星はついでに取り付けたプロジェクターを使って人の脂肪の燃焼について解説する。


「だけどそれは文字通り受け取るべきじゃない。暑いところに行けば痩せると思っているのは考え足らずのバカだけ。脂肪の燃焼とは食事によって得たエネルギーを思考、動作などの運動エネルギーなどに変換すること。言うならば食事とは充電であり脂肪とはモバ充ということ。脂肪が増えれば常に大量のモバ充を持ち歩かなくちゃいけない。だから適切な数が重要。このモバ充はやっかいなことに使いきらないと減らないと言う性質がある。つまりスマホをなるべく充電せずモバ充で充電するべきだと言うこと。そこで重要なのは酸素である。この場合酸素はコードの役割を果たす。呼吸によって得た酸素が脂肪と反応して燃焼しそれによって足りないエネルギーを溜めていた予備のバッテリーで補う。これが脂肪燃焼の仕組み」


これでお終いとプロジェクターを切り、暗くした明かりを元に戻す。


「そういうことだからボクたちは楓にたくさん歌ってもらってたくさんエネルギーを使ってもらって、ついでに呼吸をたくさんしてもらって脂肪を燃焼してもらうのが仕事ってこと」

「はぁ〜〜そういうことなんですね」


二宮はまるで授業で偶々聞いた内容が興味深いと言うような反応をする。


「そういうことだからボクたちの食事の為に頑張っていこうか」

「うん」

「おーーです!」


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