第45話 四の姫のあらすじ 後編
「先輩あなたも」
「ええ……ええそうよ!」
四乃原はやけくそになりながら自分の本心をさらけ出した。
「分かる…自分が必死こいて登って来た高見にたどりついたと言うのに結果は散々!相手にとっては他人事?ええそうよ!でもね、だからってネタにしていいわけじゃない、だからって軽んじていいの!?それに悪意がないのが尚更気味が悪いの!」
大人にとっては他人事だ。ただ自分の知らない子供が小さいコンテストで優勝しただけ。それを話題の種にするただのネタになるだけ。そして他のコンテストの優勝者と比べて軽んじることもまるで他人事。それもそうさ、他人なんだから。
もう止まることはできない。吐き出したこの気持ちをもう今しまいこむなんてできない。
無様、そんな言葉が今のボクにはお似合いだ。どう思った、こんなボクを見て。憐れむか?蔑むか?気持ち悪いと思うか?それとも同情するか?
そんな想像をしながら見上げる。
「……ッ!?」
だがそこにあったのはそんなものではなかった。そこにあったのは無、まるで足元のアリを踏むことを気にしないように、そもそも気づかないような無があった。
分からない…なにその顔……何よその眼は……そんな眼、ボクは知らない……わからない……君が何を思っているのか
「なんだその眼はという表情ですね。憐れむとでも思いましたか?同情でもしてくれるとでも期待しましたか?それとも見限るとでも思いました?」
理解させられる。今までは自分が覗き見て見透かしていた。だが今は違う見透かすなんて生温いものじゃない。これは食われる立場だと。
聞こえない。音としてとらえることはできても言葉として聞き取れない。
「残念ですが、俺はそんなモブキャラじゃありませんよ」
これが…これが彼の本性?これが彼の素顔……想像していたよりもずっと深くて、暗い!
四乃原の中で小さな恐怖が少しずつ、だが確実に広がっていった。それは罵りへの恐怖か?否、それは捨てられる恐怖か?否、それは笑われる恐怖か?否。
それは未知への恐怖だった。
開は四乃原の前に立ち、彼女と同じ視線になるように屈み彼女を見る。
見たくない、見たくない、そう思いながらも見てしまう。吸い込まれるような彼の眼から離れないず瞳を震わせ彼の目を見つめる。
「俺はアンタらメインキャラの世話をするメインキャラの一人。だから俺がそのメインキャラと言えることは一つ」
ポン
「え……」
開は優しく四乃原の頭を撫でる。そして軽く笑い言った。
「おもろかったすっよ先輩の話。挫折や苦節、それらがあってこその人生だ。そこで止まってしまう、投げ出してしまってもよかったはずだ。それでも先輩はここまで来た。だからこそ面白かった。一度も地に落ちない
サラ……小さい涙粒が頬をつたる。だけど彼女はそれに気づかない。彼の言葉に耳を傾けることに意識が全て持って行かれている。
「今が一度堕ち、流れに身を任せる時なら支えますよ。あなたが望むエンディングに行くために。なにせ俺はあなた達の世話役ですから」
同情や憐れみを感じない。彼女にはそれが分かるんだ。数多のキャラを作り上げてきた、それは形にしてきた彼女にはなんとなく
だからこそ分かる。彼はそんな感情を持っていない。ただ客観的な事実を述べているだけ。だからこそ彼女にはより染み込んでしまったのだ。
四乃原は涙を流しながら力のない両手で彼の胸倉を掴み、彼の胸に頭を擦り続けた。
そうだ、ボクは本当に怖かったのは彼に過去を知られて馬鹿にされることじゃない。自分自身に嘘をついて、嫌いだった大人たちと一緒になったこと。そのことを認めることが怖かったんだ。だからボクは求めていたんだ。一人だったら壊れてしまっていたからそんなボクを支えてくれる人を。
「だからその代わりと言っちゃなんですか、生きてる内に読ませてくださいよ。先輩の物語。例え世に出なくても。だから今を楽しんで下さい。最高の物語を描く為に」
涙で、悔しさでぐちゃぐちゃになった、そんな顔に面白いと思った笑顔が加わった。
(ほんと、なんで彼はこんなにもボクの心を見透かしてくるんだ。悔しいな・・・悔しいな・・・嬉しいな)
「仕方ないな。特別だから。だから最後まで付き合ってよね。例え、ボクがまた、堕ちてしまっても」
鷹宮の胸に顔をうずめ嗚咽音と共に笑いながら四乃原は応えた。それを聞いて笑顔で返事をする鷹宮。
「ええ、最後までお付き合いします」
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