第44話 四の姫のあらすじ 中編
それからボクは約束通り荒川理事長の学園に入学した。
そこはボクが思っていたより面白い場所だった。特に彩花と会えたのはその最もたる例だろう。彼女は噂に違わぬその実力で周りからの信頼が厚かった。他にも何人か面白い人はいた。
「普通の高校に行くぐらいなら一応当たりかな」
だけど彼女はボクが求めていた人物ではなかった。
彼女はボクの物語に必要な人物ではあったけど別に絶対ではなかった。言い方は悪いが彼女は所詮物語の質を上げる要因に過ぎない。ボクが求めている。ボクと肩を並べられるこの物語のキーパーソン。今のボクを助けてくれる
それから2年経っていつしか七人の姫の一人と呼ばれてきた頃、
最初彼は見た時はいままでの
おだてるのか?それとも褒めるのか?ボクはそう思った、だけど返ってきた言葉は全くもって違っていた。強い批判と嫌悪的な答えだった。その答えを聞いた時、ボクは少しイラついて思わず見てしまった。彼が何は考えているのか、ほんとは何を思っているのか。だけどそうはいかなかった。
(見えない……?うそ……どうして……色が、リズムが、形が……まったくもって見えない)
こんなこと初めてだった。だから余計に彼のことが気になった。もしかしたら彼がボクの求めていたキャラかもしれないと微かな希望を抱いて。そしてその希望は叶った。こんな形になるとは思っていなかったけど。
彼が正式にボクたちの世話役になってもボクの生活は基本的に変わっていない。
いつものように週に2,3回登校してそれ以外の時間はコンテストとか締め切りの準備をして一日中部屋で過ごした。
今日もいつものようにぐっすりと寝ていたら部屋の外から低い声色のうるさい音が聞こえた。
開だ。彼が起こしに来たんだ。
「うるさい……」
どうせ彩花に言われて来たんだ。
ちょっとうるさいから静かにしてもらう。
対侵入者用撃退装置、通称ハカイ君を起動させる。
うるさい、気絶しなかったか。これは予想外だ。
普通の人間なら楽して気絶するはずなんだけどな。もしかして設計ミス?それか開がおかしいだけなのか。
そう思ってたらいい感じに開が電流対策をしてもう一度来た。
ならこれはどうだろう。
次はいろいろと生理的に嫌な方面に攻めた内容だ。
ローションと木屑の組み合わせはシンプルに誰だって嫌だろう。
気が付けば四乃原は完全に起き、ベットの上でスクリーンを見ながら開が困る姿を見て楽しんでいた。
「ふん…痛がるだけなんだ。あの感じ折れてはないか?これはあれだな開がおかしいんだ」
四乃原はそう確信を持った。
「前から普通じゃないと思ってたけど、ほんと彼はなんなんだ?」
彼の感情を見れなかった時から疑問に思っていた、彼はどんな人生を歩んで生きて来たのか?どんな
ボクの分かる彼の情報を基に想像してみたが、正直微妙だった。だがそれは彼の過去がっていう訳じゃなくてボクの完成度が微妙だったということだ。ここ2,3年のことは想像できるのにそれ以降の過去を想像できない。これもボクにとっては予想外のことだった。だけど一つだけ分かったことがある。
彼は人の命に、もしかしたら自分の命にすら興味が無いのではないのか?薄っすらと纏う平凡さに隠れた異常性、それがボクにそう想像させた。特にボク達が課した試練を突破した直後の彼からは異様な色と音を感じた。もしかしたらその時に何かあったのかも。
その後結局彼は最後の罠を突破してボクの部屋に入って来た。彼の目的は想像通り彩花の指示でボクを登校させる為だった。
ボクはもう少し彼のことを知ろうとボクの描いた彼のストーリーをチラ見せしながら彼と会話した。
そういえば彼とこうしてちゃんと会話するのは初めてだっけ?まあそんなことはいいや。
そんな会話を通して彼もボクのことを知ろうとしていると知った。だからこそ確信が深まった。彼がただのモブではなく彼女たちと同じそれなりに役割のあるキャラだと。
それにしてもあのまるでボクを見透かすよな目、何様のつもり?
そんな事を思っていたら風向きが変わった。
終始ボクの掌の上の流れだったのに。このまま彼に自分の過去を告白させようとした局面。
彼の一言で流れが変わった。
「よく自分の黒歴史を公の場に公開出来ましたね」
それを聞いたときボクは彼の言葉を疑った。
気付いたのか、本当に、とそんな疑惑で頭が一杯になった。
そんなことを困惑と焦燥感が迫る中思った。
ありえない、彼にそれを勘付かせる要素は最大でもあの試練の時だけ。
否定する、心臓の音がする。呼吸が荒くなる。
四乃原の言う試練の時とは自分の書いた本を開に読ませた時だ。
まさかと思ったがよくよく考えればあの時の彼の回答から考えるとボクには及ばなくともかなりの理解力、もしくは読心術に近いもの身に付けている可能性も・・・・・・
多少ぶっ飛んだ発想に飛びやすいのはある種作家の性だ。それに加え、四乃原は知らないが当たらずも遠からずなのが余計にタチが悪い。
「あの時の答え合わせといきましょう。四乃原先輩。確信しました。似ている、多少脚色されようがその本質は一緒だった」
四乃原の視界が狭くなる。焦点が合わない。体に力が入らない。視界がぼやけて見えなくなっていくはずなのに彼の眼を見つめてしまう。
理解させられる。彼は知った、理解していしまった。ボクの過去を、気が付いてしまったのだと、あの物語がボク自身だと。
四乃原は後悔する。自分自身の少しの好奇心と心の乱れで自分の過去を知られてしまうヒントを与えてしまったことに。
(あれ…?なんでボクは……こんなに苦しいんだ?だってボクは知って欲しかったはずだ……ボクの過去を…なのになんで……?)
自分の感情の矛盾に気づく四乃原。知って欲しかったはず、自分と一緒にこの記憶を認めてくれる人物に会いたかったはず。なのにそれを拒絶する。
しかしこれは決して間違っているわけではない。
人間誰であろうとその心に矛盾を抱える。
ある種の小さい別人格と言い換えても良いだろう。
今四乃原の中には二つの人格がせめぎ合っている。
自分の過去を知ってなお己自身を認めて欲しいという自分と過去を知られたくない、それは自分にとっての見せてはならない黒歴史、決して開けてはならないブラックボックスだと主張する二つの人格が彼女の心の中で戦っているのだ。
「あの作品がなにを伝えたいのか」
彼女は心の中で懇願したそれ以上は言わないでくれと。
「それは、見て欲しい、認めて欲しい、共感して欲しい、肯定して欲しい、そんな自己欲求の塊のような」
心の中の焦燥感が加速する。
だがそれは無理に等しかった。
「作者の懇願だ」
それを聞いた瞬間、まるでその回答がどうかと示すように四乃原は倒れ込んだ。
「どうして……わかったの……どうして…理解できたの……」
分かってはいる。自分がヒントを与えたのだと分かってはいるのだ。だけど聞かずにはいられない。どうしてなのかと。
そして開はすらすらとその頼みに答えていった。
だがきっかけは彼女の思い描いていたところとは違った。
(まさかあの質問の時だなんて……まったく考えていなかった)
半ば反射的に答えた、ある意味建前も思惑もない本心ともいえる答え。開はそこからこの答えを導きだしたのだ。
それを聞いて四乃原は唇を噛む。
自分自身でも気が付かなかったことを言い当てられたことを。自分の中の矛盾があったことを、言われてからしっかりと意識してしまった。そしてそれを否定することはできなく、彼女は悔しいと思った。
そしてトドメとばかり鷹宮は口を開いた。
「あなたは他の誰を思っていないと思っていたも心の中では誰かと自分を重ね合わせていたのでは?」
四乃原の力は完全になくなった。
******
遅れてしまったので明日の0時に後編を投稿いたします。
それにて一度四乃原のお話は終わりとなります。
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