第32話 面倒事の種はシュレッターに

「は〜マ〜ジで疲れた」


最寄りの駅に着いた見慣れた景色を見た瞬間思わず低い声でそう漏れてしまった。


「たった一日、いや半日でこうも疲弊するか。やっぱり体力が落ちて・・・違うなシンプルに精神的に参ってるだけか」


イベント続きで完全に参ってるやがる。

2年になってからアイツらの世話役になったり八重樫の家に呼ばれたり、まだ夏休みにもなってないのに忙しいはありゃしない。


「ただいま〜〜って誰もいないよな」


眠いけどシャワーぐらいは浴びた方がいいか。

その前に水分取るか。

そう思ってリビングの電気をつける。

冷蔵庫からお茶取って軽く直飲みして、そのままシャワーを浴びてベットに沈んだ。

こんな非日常な夜なのに明日普通に学校とかダリ〜な〜。



***



「どうですかこの写真のでき!私的にはこれが最推しです!」


いつも通り昼休みに姫の部屋に来たら二宮が机に大量の写真を並べてみんなに自慢した。


「あ、せ〜んぱ〜い。どうです、先輩的にはどれが、てか誰が好みですか!」


俺に気づいた二宮が写真を持って次々と押し付けてくる。


「急にどうした。なんだよこの写真・・・・・・ってこれ七姫試練あの時のやつかよ!?お前これマジでプリントしたのかよ!?」


二宮が自慢してた写真はあの時、めちゃくちゃいやらしい雰囲気で撮らされた写真だった。


「もちろんですよ!こんなに良い写真、コレクションしないでどうするんですか!」

「失礼します・・・貴方達何をしてるんですか?」

「あ、六倉せんぱ〜い。先輩はどれが欲しいですか?」

「なんですかそれ、って!?な、なな、ななななんですかこれは!?」


書類を持って入って来た六倉に写真を見せる二宮。

それを見た六倉は頬を赤く染め、思わず書類を落として声を荒げてしまった。


「見ての通り私たちのコスプレ写真ですよ。私的に六倉先輩には一条先輩のメイドコスです!どうです~?この上から目線メイドさん。Mな人はくるものがありますよ!」

「そ、そんなもの私が…」


いや、強がってるけど絶対効いてるよな?六倉は一条先輩を敬愛してるからな。欲しくないわけないよな。二宮もそれを知ってやってるだけどな。


「他にもありますよ~♪じゃじゃん!こちらチラ見せお誘いチャイナドレス一条先輩!強気な表情でベットの上でなんともギリギリ見えないこの優越感!これらの写真がなんと現在1枚1000円の格安セール中ですよ!これを逃す手はありませんよね~~」

「う、うう~~~」


二宮が両手をにぎにぎして怪しい商売人みたいなこと言ってる。

六倉は写真を取ろうとする手を何度も理性で押させつけて自分と格闘中。


「中々な出来じゃない」


六倉が自分と格闘中、スッと二宮が持っていた写真が手を抜けて持ち上がった。


「あれ、一条先輩まだいたんすか?今日はどっかに視察に行くとか言ってましたよね?」


写真を取り上げたのは一条先輩だった。


「今日の視察はなくなったわ。どうやら先方の方に今日どうやら急に予定が入ってしまったみたいなの」

「そうなんですか」


もしかしてそれっとあのじじいが早速なにか仕掛けてきたのか。

いやそれは流石に考えすぎか?


「ちなみにそれってどのような理由で?」

「なんでも先方の奥さんが産気づいたらしいの。あそこはもともと少数のお店だったからどうしても無理って。もちろん私もそこまでひどい人じゃないからちゃんと祝福してまた後日にってなったのよ」

「そうですか、それはおめでたいですね」


開はホッと胸を降ろす。

流石に考えすぎだったか。少しばかり考えが飛躍して機敏になってるな。


「それでこの写真のことなのだけど」

「二宮の写真ですよ」

「あの時のね。中々いい感じじゃない」

「ですよね!」


これチャンスと二宮が話に乗ってきた。

だがそんな簡単に乗せてくれる人ではない。


「でも流石にこれが出回ったら大変なことになりそうよね。そうとは思わないかしら三秋さん」


一条先輩は二宮の机の前で写真を見ていた三秋に話を振る。


「確かにちょっと嫌かも」

「そ、そうよね。例えモデルである三秋さんでもこんな写真恥ずかしいに決まって」

「いや、アタシは別に恥ずかしくもなんともないけど」


調子を戻した六倉がサラッと自分の意見に持っていこうとしたが三秋はあっさり違うと言った。


「でもこれ出回ると仕事にも影響ありそうだし。とりあえず廃棄ね」


そう言ってどこからから取り出したシュレッターに写真を放り込んでいく。


「ギャアアアアア!!!!!何するんですか!?」


突然の三秋の行動に声を荒げる二宮。何とかまだ無事の写真を守ろうと自分の机に向かう。


「五十嵐さん」

「ちょ、何するんですか五十嵐先輩!?お願いです離してください!!」

「ごめんね」


写真を守ろうとする二宮の両脇をガッチリとホールドする五十嵐。

そんな二人を無視してちゃっちゃと写真をシュレッターにかける三秋。


「いやーーーーーーー!!!!」


涙を溜め叫ぶ二宮の想いも虚しく机の上に置いてあった写真を全てシュレッターにかけられてしまった。それも油断なくもう一度屑になった紙をシュレッターにかけられた。それを見た二宮は完全に意気消沈してしまった。


「わ、私の…コレクションたちが……あ、ああ~~」


紙屑となってしまった写真を手に乗せ魂が口から出て行く二宮。


「思った以上に堪えたらしいな」

「そうは言ってもあれらが私たち以外の者の手に渡ったら私たちの弱点になりかねないもの。特に三秋さんと四乃原さん五十嵐さんはね。後私もね」

「まあそれはわかりますが」


名前の挙がった4人は学校外の活動での活動も有名だ。確かにあんな写真が出回ったら面倒事の種にしかならないな。

二宮には悪いがこれに関しては仕方がない。


「でも普通こういうのってバックアップとか取ってるのが普通じゃないですか?」

「確かに……」


六倉の指摘でそうだと思った。今の時代一度はPCかスマホにデータを移しているはず。

それを聞いていた二宮が体を震わせこちらを体を向ける。


「ふふ、ふふふ、バレてしまいましたか。ええ、その通り!写真のデータは既に保管済み!見つけ出せるものなら見つけ出して……!」

「五十嵐さん」

「ごめんね」

「え?」


元気を取り戻した二宮をもう一度五十嵐が押さえて、その隙に三秋が二宮の靴を脱がしていく。そのまま靴下も脱がすと、その中から複数のUSBメモリーが出てきた。


「え!?どうして!?」

「歩き方を見てればわかるに決まってるでしょ」

「流石は現役モデルね」


三秋の説明に関心する一条先輩。モデルだから二宮の歩き方の違和感に気づいたのか。てっきり昨日夜はっちゃけ過ぎただけかと思ってたわ。

そして無慈悲に三秋はハサミを取り出してUSBメモリーを一個一個壊していく。


「NOOOOOOOOOOO〜〜〜〜!?」


悲痛な叫びと共に最後のUSBメモリーが破壊された。


「これでよし」


一仕事終えた三秋、そして今度こそ完全に昇天した二宮であった。


「鷹宮君。今日の放課後、ちょっとここに残ってね」

「なんですか急に?いつも残ってるでしょ」

「それもそうね。とりあえず私が帰っていいと言うまで帰らないでね」


怪しい・・・まるで念を押すようなこの言い方怪しさ満点過ぎる。


「それって最終下校までには終わりますよね」

「そこは安心してね」

「分かりました」


なんともサラッと俺の居残りが確定した。



***


「やっとですか。流石に待たせすぎでは?」

「ごめんなさいね。他のみんなが中々終わらなくて」


時刻は18時、部活動に入っていない人間は最終下校時間で学校にいてはならない。

それなのに俺は一条先輩に言われた通りお呼びがかかるまで待たされ・・・・・みんな?


「でもようやく終わったから。それじゃあ連れてって」

「「かしこまりましたお嬢様」」

「え?」


姫の部屋にガタイの良い黒服の男二人が入ってきて俺を縄で全身グルグルに縛る。

そのまま正門に担がれて、正門の前に止まっている黒のリムジンに放り投げられた。

俺が放り投げられた後に一条先輩が入ってきた。


「それじゃあお願い」


一条先輩の掛け声と共にリムジンが出発する。

俺は縄を解く。


「なんですかこれ。急に縄で縛られてリムジンに放り込まれて。完全に拉致じゃないですか」

「そう言う割にサラッと縄解いてるじゃない」

「だって邪魔でしょう?」

「もしかして敢えて捕まってくれたの?」

「まぁそうですね」

「よく解こうと思わなかったわね」

「なんとなくあ、これそういう流れかって慣れました」

「じゃあ次はもっと固く縛るわね」

「だるいんでやめて下さい。それとなんで他のみんなもここに?」


リムジンの中を見渡すとかなり慣れた様子で四乃原先輩を除いた5人も乗っていた。


「言ったでしょう。みんなを待ってたって」

「それは」

「すぐにわかるわ」


そこで会話は終わり俺は終始リムジンを堪能した。


「さあ着いたわよ」


リムジンが止まるとみんなぞろぞろとリムジンを降りる。

俺もリムジンから降りると目の前には立派な庭付きの洋館があった。

門が開くと6人が開の方に身体を向け、一条が代表して言った。


「ようこそ、鳳媛ほうえん寮へ。今日からここが貴方の家よ」


マジで、今年になってから色々とおかしいんじゃないか・・・?

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