第31話 破天の晩餐会

「それでは今宵の晩餐会は私が仕切らせていただきます」


俺と同時に入ってきた荒隈は一徹じじいの隣に立ち晩餐会を進行する。


「まずは今宵の真様のお披露目パーティーは大成功に終わりました。当初の目的通り、多くの方の印象になったパーティーでした」


笑顔でそうは言うが俺と荒隈を除いて全員の顔が暗い。

絶対印象の趣旨を間違えてだろう。

昔から肝が据わってるとは思ってはいたがここまで来るとそもそも冷やす肝があるかすら疑わしくなってくる。


「ただ少しばかり破損したがありますが誤差の範囲でごさいます」


それが器物か人か分からんがその原因を作った本人がよくもまぁいけしゃしゃと語れるもんだ。


「なお、今回の晩餐会に関しましては重要なゲストと致しまして開様にお越し頂きました」


その発言と同時にこの部屋からガラスにヒビが入るような幻聴が聞こえた。

マジかこいつ、この状況で、この場で、それをするとか正気か?


「荒隈、そこは流石に訂正してもらう。俺は八重樫じゃなくだ」

「不本意だがその通りだ。こやつが八重樫を名乗るなどあってはならぬ!」


じじいと意見が一致するのはほんと〜にほんと〜に嫌だがその通りだ。

荒隈はやれやれと言いたい表情で受け入れる。


「それと荒隈、貴様には聞きたいことがある」

「なんでしょうか」

「何故こやつをこの場に呼んだ」


じじいは俺を睨みながらそう言う。

だが荒隈は至って真面目に答える。


「私は旦那様のお申し付け通り行動したまでです」

「確かにワシは晩餐会に参加する者たちの選定の一部を貴様に任せた。だが・・・だが・・・何故それであやつを招くに至った!!」

「開様がこの晩餐会に招くに値する人物であると判断したまでです」

「こやつは八重樫家から破門された、我が家の汚点そのものだぞ!」

「それは旦那様と開様個人の問題です。この晩餐会はあくまで八重樫に関係する中で重要な方々を招き八重樫の未来を話し合う場。未だに八重樫の継承権を持つ開様をお招きするのになんの問題があるのですか?」

『・・・・!?』


荒隈の発言にその場にいた全員が驚く。


「八重樫の・・・継承権・・・?」


そうだ。もう無関係だと割り切ってすっかり忘れていた。認めたくはないが俺はこの家で産まれた。

つまり俺にもこの八重樫家を継承する権利がある。

向こうも俺の存在をないとしていたことから抜けていたんだろう。俺が現れなければそのまま真がこの家を継ぐのは確定だった。だが俺というイレギュラーが戻ったことでそれが僅かではあるが覆る可能性が出来たしまった。

冗談じゃない!せっかく気楽な一般生活を手に入れたってのに!バチクソめんどいことに巻き込まれるとかクソが!!


「荒隈、貴様、八重樫の中に混乱を招くつまりか!」


じじいは荒隈に明確な怒声を言い放つ。

それはそうだ。完璧を重んじるこの家の当主がこんなこと許すはずない。

だが荒隈はどこ吹く風かはっきりと答える。


「勘違いしないで頂きたい。私は八重樫家の発展を願っております」

「ならば何故こんなことを!」

「それは私が開様がこの八重樫に継ぐに値する方と判断したからです」

「はぁ!?」

「なんじゃと!?」

「勘違いしないで頂きたい。私はあくまでもその資格があると判断しただけです。推薦する訳ではありません」


まさかの発言に驚いたがその後の説明で胸を撫で下ろす。

紛らわしんだよ!・・・だがそれでも問題なのは変わらない。


「荒隈!話が違うんじゃねぇか?俺はそんなこと一切聞かされてねぇ!いや、そもそもテメェの誘いに乗ったのが間違いだった」


俺は立ち上がり真っ直ぐと奥へ歩き出す。


「もう俺は懲り懲りだ!こんなくだらねぇお家問題はもう沢山だ!家柄?家訓?伝統?もう知ったこっちゃねぇ!この家もグループも真の真面目バカが継げはいい!」


俺は下から荒隈を睨み付け言い放った。


「それに俺は衰退する家の当主にはなりたくねぇ」


俺は目だけ隣に座っているじじいを見ながらそう言った。


「こんなくだらねぇことで時間を無駄にしてたらそれは衰退するのもそうか。伝統や家訓を、家柄を守り大事にするのは別に悪いことじゃねえ。だがそんなことに縛られてるから


この晩餐会に参加している奴らが悔しさと怒りで拳を握りしめる。

だが立ち上がることは許されない。

この場においてそれはこの八重樫を侮辱する行為だ。

逆に堂々とそんなことしてる開は完全な敵対行為と言えよう。


「やっぱり来たのは大きな間違いだった。俺は帰る!」

「開様、まだ晩餐会は始まったばかりですが」

「そんなのテメェら勝手にやってろ!」


荒隈の言葉を無視して、開は気を立たせながら部屋を出て行った。



***


クソ、割と必死こいて京都に来たっつうのにこれかよ!あの時、どんな手を使っても荒隈を返しとくべきだった!

だが今更悔やんでも仕方がない。

その前に対策を練っとく必要がある。


「もうお帰りになるのですか」


門をくぐろうとした時、後ろから女性の声がした。

振り向くとそこには綺麗な赤髪の赤玲がいた。


「お前こそ、御当主様の護衛はいいのか?」

「ここは本邸です。警備は万全です」

「そうかよ」

「待って下さい」


門をくぐろうとする俺を呼び止める赤玲。


「なんだ?まだなにか」

「私と手合わせをお願いできませんか」

「手合わせだと?」


この状況で俺と手合わせ?赤玲の奴、何を考えて・・・


「悪いが俺がその申し出を受けるメリットがない」

「そこをどうかこの通り」


赤玲は頭を下げお願いする。

だが開はそれを一蹴する。


「お前も変わったな。昔はその力は大切なものを守るための力とか言っといてこれか」

「私は昔も今も変わっておりません」

「ならば俺に頭を下げるな。今のお前の護衛対象は真だろ。ならあいつを守ることに全力をつくせ。お前がどんな理由で俺に手合わせを申し出たかは知らんが迂闊なマネは今後控えろ」


もしこの一部始終を誰かに見られたら話の内容を知ってるかどうか関係なく赤玲の立場が悪くなるのは必至。

それに気づいた赤玲は頭を上げる。


「確かにその通りです」

「分かればいい。それともし真に何かあれば俺を殺しに来てもいいぜ」

「・・・!開様、貴方様は・・・」

「アイツと顔を合わせたのは数える程度だがそれでも大切な弟だからな。それにあんな思い、俺だけで十分だ」


開はそれだけ言って、話は終わりと門をくぐり八重樫の本邸を去った。

そして深夜の都を眺め、京都を去った。

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