第22話 七姫試練 五の試練 対等
四日目、今日は俺の要望で校内にある道場、その中でも床が畳の怪我に配慮した部屋に6人に来てもらった。
「道場に呼んだったてことは何か武術でもやるつもり?」
「そのつもりだけど?」
三秋が俺に耳打ちして言ってきた。
「言っとくけど彼女、格闘や剣道も結構やるみたいだから」
「え、マジ?」
「マジもマジよ。まったく。とにかくやるなら死なないようにね」
「気を付けます」
三秋はサッと5人がいる道場の壁に戻った。
「随分と仲良くなったんだ」
帰ってきた三秋に四乃原が話しかける。
「別にそういう訳じゃないです」
「そう。最初よりはマシに見えるけど」
「そ、それはまあ、そうですね」
最初は否定していた三秋だが少しだけ四乃原の意見を認める。
「それにしても四乃原先輩ってアタシたちのこと見てたんですね」
「意外?」
「意外も意外ですね。四乃原先輩ってアタシたちの中でも七星に並んで誰にも興味ないって印象だったんで」
「心外。これでもボクはある程度は観察してるよ」
そうは言うが三秋はちょっと納得がいっていない。
「準備できたよーー」
後から来た五十嵐の声で二人の話は終わった。五十嵐は道着を着て道場に入ってきた。
「ほんとにあれでよかったの?」
「ああ、俺の中で一番いけると思う種目だ」
五十嵐はちょっと不安そうにそう聞いてくるが開はなかなかの自信で答えた。
それを聞いて五十嵐は吹っ切る。
「分かった。じゃあ全力でいくから」
「ありがとう」
五十嵐は気合を入れる。今日の試練は五十嵐の担当で内容は五十嵐と何かしら一種目で勝負し五十嵐に勝つこと。ハンデとして種目は俺が選べるということだ。
そして俺が選んだのは格闘だ。スポーツとかメジャーなサッカーとかバスケは勝てるとは到底思えなかったので格闘を選んだ。
「一条先輩、審判よろしくお願いします」
「ええ。じゃあまずはルール説明から。ルールは単純、どちらかが負けを認める、もしくは私が続行不可能になった場合。そして私が危険だと判断した場合間に入るので忘れないように。それと鷹宮君、君はその格好でいいんだね?」
俺はブラザーを脱いでそれ以外は普通に制服姿だただネクタイは外している。
「ええ、これで大丈夫です」
「分かったわ。それではお互いに礼」
俺と五十嵐は互いに一礼をして距離を取りお互いに構える。
あれは、柔道の構えか。
五十嵐の構えに対して開は少し体をひねらせた独特な構え。五十嵐の様に柔道のような型にあった構えではなく、開は我流、どちらかと言うと喧嘩に近い戦闘スタイルなので違うのも当たり前だ。
「それでは……はじめ!!」
一条先輩の合図と共に試合が始まったが、二人とも動かない。
動かないか…向こうも警戒してるんだろうな。
ならこっちからいかせてもらおうか!!
俺は五十嵐との距離を縮める。
そして左足を前に身体を捻って右の拳で五十嵐の腹を狙う。
そして拳を捻り出す。
「んん・・・!!」
「やるな」
出した拳は見事に五十嵐に止められた。
「割と力入れたつもりなんだがな」
「確かに強いけどあたしだって強い、から!」
「なっ・・・・!?」
五十嵐は俺の右拳を受け止めていた左手を滑り込ませて俺の右腕を掴む。そしてそれと同時に空いていた右手で俺の襟元を掴み、一歩下がると同時に俺を掴んでいる両手で上に引っ張り、低い体勢をとっていた俺を無理矢理立たせた。
「マジっ・・・!?」
「はぁぁーー!!」
五十嵐が足をかけて俺の懐に入り込む。
これは背負い投げか!
開は急いで受け身の準備をしてあえて五十嵐に素直に投げられる。
そしてそのまま五十嵐が抑え込みの体勢に入る。
袈裟固めか!
「クッ・・・・・・!?」
「鷹宮っち降参したら?」
「い、嫌だね」
そう言うと五十嵐が右腕を更に引っ張る。
「早く降参して。これ以上痛めつけたくない」
それは彼女の本心なのだろう。そして俺の為に彼女は手を抜かないだろう。
だけどこっちも負ける訳にはいかねぇんだよ!
「もう一度言う。嫌だね!!い・・・!?」
「ちょっ・・・!?・・・・・・えっ!?」
俺は思いっきり肩を引っ張って右肩を脱臼させた。
それに驚いた、いや怖がった五十嵐は俺の腕を持つ力が完全に抜けた。
その隙をついて俺は彼女の抑え込みから抜け出す。
そして距離を取る。
「ゔっ・・・!」
俺は無理矢理右肩の脱臼を直した。
やっぱイテェな・・・,
息を整えながら一条先輩に確認する。
一条先輩は少し考える素振りを見せるが小さく頷き続行の意を示した。
「いくぞ」
俺はもう一度五十嵐の腹目掛けて拳を突き出すが寸前のところで止めた。
「そこまで、勝者鷹宮君」
俺が拳を止めたところで一条先輩が判定を下した。
「彩花、それに開も急にどうした?」
四乃原と三秋が一条に詰める。
「私は説明通りに試合を進めただけよ」
「それがどういうことか聞きたいんです。なんで鷹宮君も突然動きが止まったんですか?」
「それなら彼女を見れば分かるわよ」
「五十嵐さんを?」
二人が五十嵐を見ると彼女は震えていた。息も乱れ到底まともな状況ではないのは二人も理解した。
「私はこれを続行不可能と判断した。よって今回の試合は鷹宮君の勝利。それでいいわよね」
誰も異存はない。誰の目が見ても到底五十嵐が正常な状態とは言えない。
「楓さん、五十嵐さんを保健室に」
「分かりました」
「それなら俺も五十嵐に付き添います」
「鷹宮君はダメ。貴方も直したとは言え脱臼したのよ。無理はしないこと。今日の試験は合格とするからあなたは家に帰りなさい」
「……わかりました」
しぶしぶ開は帰った。
六倉も五十嵐を連れて保健室へ。それに三秋がついて行き、七星は開と同じ方向に向かった。
「どうして鷹宮は家に帰したの、彩花」
「それ私も気になります〜」
残った四乃原と二宮が一条に鷹宮を家に帰したのか聞く。
「それはどういう意味かしら?」
「とぼけるのも白々しい。梨華と開、対応が逆じゃない?」
「そうかしら?」
「私から見ても梨華先輩より先輩の方が保健室に行った方がいいと思いましたね」
二人は五十嵐と鷹宮に対する対応は逆じゃないのかと疑問を持っていた。
「鷹宮君のあの動き。二人はどう思った?」
一条は二人の疑問に答える前に一つ質問をする。
二人はなんとなく答える。
「それは素直に凄いと思いました」
「ボクもそうだね。それに手馴れてるとも感じたかな」
「そうね。私も同意見よ」
二人の意見に一条も同意する。
「あの動き、ただの高校生とは思えなかったわね」
「それをあんたが言う?」
「四乃原先輩に同意です」
一条の言葉にちょっとツッコむ二人だが一条は気にせず話を進める。
「あえて脱臼した時の躊躇のなさ、脱臼を治す時の手馴れ感、そして二発の突き。共に躊躇いがなかった。多分数回とかそんな数じゃないほど経験しているわ。だから彼は家に帰していつものルーティンに戻した方がいいと思ったの」
「なるほどね。彩花の言いたいことはなんとなく理解した。じゃあなんで梨華は保健室に?」
「あれは家に帰したら、貴方みたいになりそうだから」
それを聞いて四乃原は一瞬考えるがすぐに納得した。
「そういうことね。これ以上聞くことないから帰るわ」
「え、帰るんですか!?ちょっとどういう意味か私にも教えてくださいよ!」
四乃原はそそくさと道場から出て行き二宮が四乃原を追いかける。
***
「少しは落ち着いたかしら?」
「大丈夫?」
「う、うん。二人ともありがとう……」
保健室ではベットの上で休んでる五十嵐に六倉と三秋が看病をしている。
「震えてたけど、なにかあったの?」
「もしかしてあいつにどこか触られたとか!」
「い、いやそういうのじゃないから!!」
六倉の質問に五十嵐は強く否定する。
「これは……私の問題だから」
「そう……部活に支障が出ないならいいわ。でも決して無理はしないこと」
「うん……」
「私はまだ生徒会の仕事があるから。何かあったらRISEで、三秋さん後はよろしく」
六倉は保健室を出て行った。
「ほんとに大丈夫なの?」
「うん。ちょっと戸惑っちゃったけど平気…だよ」
まだちゃんと平気とは思えないけどここは本人の意思を尊重するべきかしら。
「それならいいけど。今日は一緒に帰るから」
「いいの?」
「平気よ。最近は土日にできるだけまとめるように頼んでるから。少しぐらいは平気よ」
「ありがとう……」
「それと、アイツの前でそんな顔はダメだから。また余計なこと考えてだから」
「えーと、じゃあどうすれば?」
「笑顔よ笑顔」
三秋が五十嵐の頬を指で押して笑顔を作る。
「三秋ちゃんってやっぱり優しいね」
「な、なによ……」
***
「いつまでついてくるつもりだ?」
「なんとなく」
一条先輩に言われ、教室で荷物をまとめている。だが道場を出てから七星がずっと俺について来ている。
「てっきり俺には雑用係としてしか興味ないかと思ってたが」
「それは心外。これでも一応興味はある。珍獣として」
「珍獣ってな……俺はお前からどう見られてんだよ?」
「おかしな生物。美少女とはいえ問題児たちの世話にそんなに本気なのは謎」
「お前、自分のこと美少女とか言うのかよ」
「否、客観的意見」
「そうですか。それと問題児の自覚があるなら少しは手加減を」
「断る。そうなると鷹宮の仕事がなくなる」
「なくなることはないと思うけどな」
最初よりはなんかちゃんと女の子かなって思い始めてきたが、いやそれもおかしいし、そう思うのも失礼かもしれないが最初よりはマシに思えてきたがそもそもこんなことをしてること自体おかしいんだよな。
「改めて質問する。鷹宮はどうしてそこまで本気なの?」
そうは言われても特にこれと言った理由はないんだよな。今はただ単にこいつらの世話をするってだけだから。
「まあでも強いて言うなら学費の為だな」
「なら改善しようなんて考えない」
七星が見るのは俺が作ってもらったカートだ。
「お金を節約したいから必要のないお金を使う。矛盾」
そう言われると言い返せないが。
俺は少し考える。
「なら特段理由はないな」
「やっぱりおかしい。人は何か目的があって行動する。目的のない人間はたち立ち止まり堕落する。だから問う。鷹宮の目的はなに?」
「そういうなら。七星はなんの為にそこまで知識を貪るんだ?」
いつも本を読んでは飯は食って暇さえあれば本を読む、パソコンで調べる。
七星の持論に基づくのであればそれは七星自身に何か目的があって行っているということになる。
「……失敗した。忘れて。帰る」
最初の部分は極端に小さかったので聞こえなかったが七星は二言言って自分の教室に行ってしまった。
七姫試練 五十嵐の試練合格
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