第17話 モデルとしての信念

「風が気持ち~」

「火照った体に染みるわね」


室内湯を堪能した二人は外の露天風呂に行っていた。湯につかり火照った二人の体に涼しい風と気持ちのいい太陽の光が当たり閉ざされた空間とはいえ絶世の美少女が外でタオルで軽く身を隠すだけの姿、それはまるで天の園を思わせる。

二人は体が冷えないうちに露天風呂に入る。


「外ってだけでやっぱり全然違うわね~~」

「そだね~~~~」


二人とも完全に体だけでなく心すら緩み切っている。

何もしゃべることなどない。ただそこにいるだけ。人工でありながら和の調和、日常のどこかにはあるはずの景色なのに、非日常な日ノ本の自然の美しいさを感じながら、ただお湯の流れる音、人が上がり滴る水滴の音、風で流れる木々の声、その一つ一つがその場に調和をもたらす。その中で感じる体に伝わる温かさ、そして時々吹く風が眠る心を活性化させる。

気が付けば天で輝くそれは傾き、天眺めてもその眼は開くことができるようになっていた。

少しばかりうとうとしていた二人だがそろそろと思い顔を見合わせ露天風呂を後にする。


「それじゃあ身体を洗って上がりましょうか」

「そうだね」

「折角だし洗ってあげる」

「え、いいよいいよ!」

「いいから」


なにかといつもとは違う体験を共に過ごしたからなのか二人の距離が縮まったようだ。

五十嵐を椅子に座らせ、まずは頭から洗っていく。シャワーで一度髪を流してシャンプーで洗っていく。


「五十嵐さん、髪の毛ゴワゴワじゃない。いつも頭どう洗ってるの?」

「普通にシャンプーして流して終わりだけど?」

「トリートメントとかは?」

「してないよ?面倒くさいもん」


それを聞いて三秋はやれやれと頭を横に振る。


「後でしっかりとした手入れの方法教えるから明日からちゃんとやること」

「え~~」

「え~~、じゃないの。いい、こういうのは毎日ちゃんとしなくちゃダメなのよ。その様子だとお顔の手入れとかもしてないでしょう?」

「う、うん…」

「はぁ~、アタシの美容品いくつかあげるから」

「あ、ありがとうございます」


シャンプーの後にトリートメントで髪を補強して軽く流す。

次にボディーソープで五十嵐の体を洗う。


「体もしっかりと洗わないと。特にあなたみたいによく体を動かす人は特にね」


三秋はしっかりと体の隅々まで三秋の体を洗いつくす。


「ねえ、なんで三秋ちゃんってそんなにこだわり強いの?」

「そうかしら?」


五十嵐からしたら三秋の考え、というより美容という面に対してかなりのこだわりが強いように感じた。もちろんそれはモデルという仕事の影響もあるだろう。


「うん。あたしが気にしなさ過ぎもあるけどなんか強い思い?みたいなものがあるよな感じが」

「アタシはね、性格は心と環境を、見た目は努力を表すものだと思ってるの」

「うん?」


三秋が自分の考えを言うが五十嵐にはパットこない様子。


「性格のはじめは何もない自分自身の心を中心に動くの、そして過ごした環境がその心にだんだんとくっついていって今の性格みたいのができると思ってるの。そしてこの身体」

「うん、綺麗だと思うよ?」


三秋のそのバランスの取れたスタイルに綺麗な肌、誰もがうらやむプロモーションは五十嵐でも素直にそう感じた。


「そう、雑誌とかではよく天性の美貌とか書かれるけどアタシは別に最初からこんな見た目じゃないの」

「そうなの?」


高校からの出会いである五十嵐は今のこのされた三秋しか知らない。


「そうよ。他のモデルにも言えるけどみんな少なからずその美貌やスタイルを維持するのに必死なの。みんな少なからず老いるの、そして怠ければそのスタイルは崩れちゃう。それを維持するのにみんな必死で努力してるの」


綺麗や美しいはと若さとの関係が強い、つまり極一部、美魔女と呼ばれるような部類の人間や元からの体質の人を除けば、みな老いと共にその美貌は失われていく。だからこそ少しでもそれを保とうと我慢に我慢を重ね、苦しいなか欲望を押さえて自分自身と戦っているのだ。


「でもよくアニメとかではそのいわゆるイケナイ関係で出してもらってる人とかもいるんでしょう」

「それは分からないけど、スポンサー企業の意向とかでこの人を使えって言うのは少なからずあるわ。アタシはそういうのは嫌いだけど」


五十嵐の言うものは一昔前のもの…とは言えないが昔よりはマシにはなっているはず。だけどそれに代わって企業の意向が優先されることが増えた気がする。特に海外はそれが顕著と言う噂もある。


「そうなんだ」

「当たり前でしょう。ただただ世間の後押しだけで一面の主役を取られたらアタシたちの努力は?今までは?それら全部が否定された気分だわ。特に今まで楽しみで読んでくれたファンのみんなをガッカリさせたくないの」

「なんか以外。三秋ちゃんって七星ちゃんとか四乃原先輩までとは言わないけどあんまり他人に興味がないと思ってた」

「別に興味とかそういうのじゃないわ。これは私の信念の問題よ。もちろんアタシだっていろいろ事情があるのは理解いてるわ。でもね何事も急げばそれは反発につながる。そしてそれは余計な批判を生むの」

「なんか大人だね」

「これでもあなたよりは先に社会に出てるもの。余計な話をし過ぎたわね。早く洗ってしまいましょう」


これで一旦話は終わりと三秋は五十嵐の泡を洗い流し、自分も綺麗に体を洗い女湯から上がった。


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