第12話 マッスルオネェ様

「と言うことで鷹宮君。貴方には最終試験を受けてもらうわ。その名も七姫試練」

「いや、何が『と言うこと』ですか!?」


彼女たちの世話の質を大幅改善して四日、金曜の放課後、何度目かの全員揃った姫様会議(自称)に呼ばれた。呼ばれた時はまたしても嫌な予感しかしなかった。だって、この会議に呼ばれていいこと何てあったことがないからな!!

そして呼ばれて来てみれば一条先輩から七姫試練とかいうよくわからんものを受けろと言われた。まともな説明も無しに。というわけで


「てか何ですかその七姫試練って。ネーミングセンスめちゃくちゃ安直だし」

「悪かったね安直で」


俺がそう言うと機嫌悪そうに四乃原先輩がそう言ってきた。四乃原先輩なのかよ。てっきり五十嵐辺りだと思ってたのに。


「七姫試練っていうのはあたし達が用意する試練のことだよ!!」

「試験の内容や合格ラインは事前に渡すことになってるから。それともちろんハンデもつけるから」


五十嵐と六倉があっさりとした説明をしてくれた。だがその前に俺には気になることがある。


「それ以前に俺は正式なお前らの世話役じゃなかったのかよ!?」


そう、かれこれ半月ほど面倒を見たのにまさかの正式の世話役でなかったかもしれない可能性が浮上してきてしまったのだ。


「一般的には正式な世話役よ。ただこの仕事の詳細を知ってる私たちや理事長からしたら違うだけ」

「それが一番重要じゃないんですか……?」


周りの人間の感じ方より当事者たる彼女たちの認識の方が重要だろう。


「あくまで今は仮免許ってことよ。今までの事なんてできて当たり前のことなんだから。これぐらいで根を上げるようじゃ到底私たちの世話役なんて務まらないに決まってるじゃない」


そういうことは最初から言ってくださいよ。てか理事長それ最初に説明しろよ。


「これ資料、よく目を通すことを勧める」

「修学旅行のしおりかよ」


俺は七星からしおり、じゃなくて資料を受け取る。


「最初の試練は来週の月曜。それから学校のある7日間、一日一つの試練を行うわ。もし一つでも落としたら即失格だから覚悟するように」


七姫試練、どうやら俺の青春は俺をいじめることが大の好物のドSのようだ。



***


「七姫試練か…そんなもんがあったのなら最初から知りたかった」


帰りながら七星からもらったしおりじゃなくてえ~資料を見る。


「それぞれの個性にあった試験。ある種、彼女たちへの理解度が試されるか…」


どれも油断はできないがいくつかは付け焼き刃程度しか無理だから基礎知識だけ詰め込んでその場でどうするか。まあでも多分本当にやばいのは3日目からだと思うから、特に七星と五十嵐のに関してはあまりにも差があり過ぎるから。


「一人考え込んでも仕方がない。久しぶりにあそこに行くか」


開は一度家に帰り私服に着替える。それと着替えを持って住宅が立ち並ぶ通りの路地を少し進んだ人気ひとけのない場所に構える大人なお店。『バー ラバーズ』に入る。


「いらっしゃいませ」


店内にはちょび髭の紳士感のあるマスターがガラスのカップを磨いていた。まだ夕方時だから人もおらずカップの磨かれる音が小さく聞こえるだけ。


「夢の話を一つ」

「かしこまりました」

「トイレ借りる」


開は注文だけしてトイレのある廊下にでる。しかし開はトイレのある方とは逆方向に進んだ。そこを更に左に曲がったところに一つの扉があった。

そこに入るとそこは本棚で囲まれた一室だった。開は右の本棚の5段あるうちの2段目の右から4冊目の本を押す。

すると本棚が動き出し、その奥から地下に続く階段が現れる。

階段を下りて行くと紫に光る看板が待ち受ける。『バー マリー』。


「いらっしゃい」


待ち構えていたのは筋肉ムキムキのスキンヘッドにグラサンをした厳つい男性だった。

開は驚くことなくカウンター席に座る。


「シンデレラ一つ」


そこのマスターは小さく頷きカクテルを作る。


「シンデレラです」

「うん」


差し出された小さいカップに入ったカクテル。それを一気に飲む開。


「相変わらず美味い。お代わり」

「いい飲みっぷりだな。何か嫌なことでもあったか」

「あんたこそなんだよその見た目に合った口調は?」


その言葉にマスターの口角は少し上がり店内の明かりが全部消える。そして一つの光がマスターを照らすとマスターはポージングをしていた。


「あら似合わなかったかしら?」


するとマスターは先ほどまでの厳つい声ではなくオネェ口調に変わった。


「いや滅茶苦茶マッチしてた」

「それはありがとう。で、今日は何の用かしら?」


マスターはポージングを変えながらそう聞いてくる。


「ちょっと学校でいろいろとあってな。それと実家からも」

「あら、それは大変。というか学校の方は置いといて、ご実家のほうはあなた何したのよ?」

「なんで俺がやらかした前提なんだよ!!てかそのポージングやめろ!いろいろとうるさいわそれ!!」

「ふん」


今度マスターがポージングを変えるとスポットライトの色も次々と変わっていく。


「まったく、ハーちゃんにはこの筋肉の魅力はまだ早かったかしら?」


マスターはキラッと俺に自慢する。


「遅くて悪かったな。てかスポットライトどうなってんだよ!?」


何かを操作した様子もなくマスターのポージングに合わせれ色が変わっていっている。


「これかしら?これはね、事前に記録してた3Dモデリングの動きを覚えさせて、そこのカメラのセンサーが私の動きを識別して色を変えていってくれるのよ」

「無駄に最先端だなおい!!」

「私はどんなものにも妥協しないのよ!!」

「もっと優先するものいろいろとあるだろう!!」


やべ、いつものノリでコントみたいになっちまった。仕切り直し仕切り直し。


「とにかく今日マスターには頼みがあって来た」

「頼み?何かしら?」

「久方ぶりにさ稽古つけてくれ」


俺が要件を言うとマスターはポージングをやめ店内の照明も戻りカクテルを作りに戻る。


「本当に久しぶりね。あなたが卒業してからもう2年かしら」

「そんぐらいだろう」

「鍛錬は怠ってないわよね?」

「一応柔軟や体力の維持ぐらいはしてる」

「それを怠ってるっていうのよ。もうまったく…まあでもあなたの環境を考えれば無理ないかもしれないけど。それでどうして稽古をつけて欲しいの?」

「節制のため、それと万が一の自衛のためですよ」

「自衛ねぇ……仕方ないわね。いいわ稽古してあげる」

「ありがとうございます」


そしてマスターはすっとお代わりのシンデレラを出す。


「それで、自衛って言うのは分かるけど節制ってなに?」


俺はマスターに彼女たちの御世話役の仕事を受けたことを話した。それを聞いたマスターはかなり興味津々のようすだった。


「なんだか面白いことになってきてるわね」

「当事者からしたら疲れて仕方がないがな」

「でも美少女たちに囲まれてるなんてハーレムじゃない」

「リアルとフィクションのハーレムなんてまったく違うんだよ」

「まあ周りからは爆死しろとか言われそうね」


マスターは面白がって笑っているが俺からしたらいろいろと制約や失っちゃやばい権限とかあるから結構焦ってるんだがな……。

俺はシンデレラを飲み干した。


「ごっさん」

「お粗末様。それじゃあ場所はいつものところでいいかしら」

「ああ、先に行ってる」

「了解」

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