第11話 改善する日常

「ちょっとまたお茶切れてるんだけど?」

「せんぱ~い、ついでにサイダーよろです~~」

「ヘイヘイ、はいよこれとこれでいいか?」


開自分の近くにあるボックスから冷えたお茶とサイダーを取り出す。


「え、あ、ありがとうございます…」


サイダーを受け取った二宮はちょっと呆然とお礼を言った。


「ねえこれ冷たいんだけど?温かいのないの?」

「これでいいか?」


開はもう一つのボックスから今度は温かいお茶を取り出し三秋に渡す。


「あ、ありがとう……」


思っていた感じと違ってスッと対応する開に拍子抜けする三秋。


「それと六倉、男子サッカーと女子バレー、あと野球部と吹奏楽の部長たちを放課後に多目的ホールに来るように連絡入れといた。それとついでに男子サッカーと野球部からの変えの必要な備品のリスト持ってきたから確認よろな」

「え、ええ、助かるわ……」


ついでと言わんばかりに、パソコンで作業していた六倉に開は一条先輩の紅茶を入れながら報告した。急な報告に驚きながらも自分が放課後に召集しようと思っていたことを先にやっていたことにほうけながら、更に前々から調べようと思っていた資料をいつの間にかに作成してくれていていままでと違う開に調子を崩す。


「今日はかなり調子がいいんじゃないかしら。この紅茶も飲めなくないぐらいにはマシになってるわよ。なにか変な物でも食したのかしら?駄目よ。身体は労わらないと」


一条先輩が紅茶を綺麗に飲みながら興味ありげに褒めてくれた。俺はティーポットを置き答える。


「別に変な物なんて食ってませんよ。ただ改めてこの仕事を頑張ろうと決めただけです」

「へぇ~、中々面白いこと言うじゃない。それにその目、あの時と似てるけどちょっと違うわね」


一条先輩は俺の何かを探るように俺を見つめる。そしてそのことは俺も感じていた。まるで自分の心に入られて覗き見れらているような、そんな感じがする。


「一歩、深くなったって感じかしら」


一条先輩はそう言って俺から目をそらし普段通りの様子で紅茶を飲み仕事をこなしていく。

一旦終わった感じなので開は次の仕事の準備をする。


ピピピ


「はい」

『準備できたから取りに来てください』

「分かりました」


丁度いいタイミングで連絡が来たので俺は一旦図書館に向かう。図書館に着くとちょっと変わったカートにたくさんの本が積まれていた。


「今日もまた多いですね」

「そうね。でも七星さんて思うとそうも思わなくなって来ちゃったけどね」

「じゃあ持って行きます」

「ええよろしくね」


俺はカートを押して行く。そして来る関門階段。しかしその関門を前にしても開は気にすることなく階段にカートを押す。するとカートはゆっくりとだが安定して階段を上がって行く。


「よし!本も安定してる。これならもうちょっと改良すれば図書館の司書さんも使えるかもな」


開の押しているカートには秘密があった。それは車輪部分をクローラークレーンを参考にして改良しているからだ。ほんとはちゃんとした製品版もあるのだがもし買ったらうちのガスと電気が止まりそうだったので知り合いに頼み協力してもらった。

その代わりにたくさんの借りを作ってしまったがまあどうにかなるだろう。


「七星、持って来たぞ」

「ありがとう。…それとなにそれ?」


初めて見せるこのカートを見た七星は観察するようにカートを見ながら聞いてきた。


「ちょっと楽しようと思ってな。お前、本を妙に丁寧に扱うだろう?本とか落としたらばち切れそうだし」

「よくわかった」


七星は関心関心と頷く。


「でどうにかして一気に、そして安全に持って運べないか考えたときにこれを思い出したってわけだ」

「でもコレ手作りだよね?」

「まあな。買うって手段もあったがあまりにも高くてな。あくまで俺からしたら。で、知り合いに作ってもらったってわけだ」

「ふむなるほど」


七星は満足したのか本を一冊持って本を開き読み始めた。


「マイペースだな」


俺はちょっと微笑み、新しく持ってきた本と七星が読み終えた本を取り換える。


「それとアレもよろしく」

「アレ?」

「うむ」


七星が指さす先には大量の空の椀、丼、皿、空きのペットボトルがあった。


「な、なんだこれ……?」

「お昼ご飯」

「ひ、昼ごはん……?」


これ全部一人で食ったのか……?

開は冗談かと顔を引き攣らせ皿の山と七星を見比べる。

あの体のどこに入るんだ?てかどんなスピードで食えば1時間足らずで完食できんだよ?多分力士でも無理なんじゃねか?


「うむ。食堂によろしく」


ペコリと頭を下げてまた本に集中する七星。


(運ぶか……)


「これ、もう一つ作っとくのも一考だな……」




***


「どうかしら、今回の彼、鷹宮君のこれまでのこと。貴方達はどう評価してる?」


姫の間、いつもなら開が掃除をしている頃、珍しく開はおらず七姫が集結している。そして一条が6人に開が御世話役になってからのおよそ2週間どうだったのか問う。


「私は滅茶苦茶良いと思いま~~す!!」


二宮が体を乗り出して大きく手を挙げて高評価を示す。


「私も特に問題ないと思います。一応仕事もできるので今までの人達と比べると大分マシです。何より私たちをいやらしい目で見ないことが私は高く評価しています」


六倉は事務報告の様に客観的視点から開の事を評価した。


「六倉はツンデレ、この中で六倉が一番助けられてる。それ以前堅苦しくて怒りっぽい六倉を前にそんな目を向けること人なんてほとんどいない」


七星が容赦なく六倉をぶっ刺しに行く。


「な、なに言って!?というか七星さんあなたも彼に手伝ってもらってるでしょう!!」


六倉は顔を真っ赤にして七星に自分のそうでしょうと反論する。


「そうだけど?個人的には彼の自己改善と行動力が評価できる」


七星は六倉の反論に当たり前じゃんと言わんばかりにあっさりと認め、それに付け加えて開の成長意欲を評価する。


「アタシはちょっと借りがあるから。でも悪くはないと思ってる」

「あれ?借りってなに?」

「食堂騒ぎの件よ」


三秋の借りと言う言葉に引っかかた五十嵐がそう聞くと三秋の代わりに一条が答えた。


「し、知ってたんだ」

「当たり前よ。これでも生徒会長なのよ。校内の騒ぎはほぼすべて生徒会に伝わるのよ?ねえ楓さん」

「はい。その件に関しては一応個人間の言い合いとし、学校は関与しないといういことに

「仮にも人気モデルが校内で問題を起こしたとなれば面倒だもの。悪いけどそうさせてもらったわ」

「あ、ありがとうございます……」


一条と六倉の説明を聞いて居心地が悪く、罪悪感もありながら、三秋は弱々しくお礼を言った。


「あたしも鷹宮っちでいいと思う!部活の部長たちも好印象だったよ!」

「それは嬉しい報告ね」


五十嵐から伝わった自分たち以外の印象が好評なのは良い報告だと一条は満足そうに笑みを浮かべる。


「四乃原さんはどうかしら?」


最後の一人、ずっとパソコンで何か調べのもをしている四乃原に一条が話しかける。

四乃原は興味なさそうに答える。


「特に」


その一言で終わった。開と関わっている時間を考えると四乃原が圧倒的に少ない。例えるならラノベと漫画のコスパの差ぐらい短い。


「反対意見は無いようね。じゃあ決めといた通り各自で準備しといてね。それじゃあ解散」


これにより今回の会議は解散した。この会議によって今度はどんな試練が開に立ちはだかるのか。

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