第8話 食堂は天国であり地獄でもあった

「今日もありがとう。じゃあ明日もよろ」

「わかった」


今日は珍しくこれと言った仕事はなかった。なので久しぶりに食堂で飯が食える。


「フライ定食一つ、ごはん大盛りで」

「はいよ!」


食堂のおばちゃんにカードを見せて頼む。


「本当に使えるのか」


このカードは平野先生からもらったもので。なんでも食堂のおばちゃんに見せるとただで飯が食えるとかいうチートカードだと言う。これもこの依頼を受けている間適応されるみたいで半信半疑ながら使ってみたが本当に使えた。

ちなみにうちの食堂は入り口の券売機で金払ってそれをおばさんたちに見せるシステムだ。俺はおばちゃんから定食を受け取りトレーに乗せる。本当に久しぶりにこんなに豪華な飯が食える。俺は空いている席を探す。すると一か所だけ明らかに空白のスペースがあった。


「お前いつも一人で食ってるのか?」

「あ、開が食堂に来るなんて珍しいね」


それは東だった。俺は東の対面の席に座る。


「それにそのメニュー、どうしたんだい?もしかして何かやばいものに手を出したり!?」

「違うは!?」


俺が座るや否やなんとも過激な勘違いをされた。


「これは世話役の特権ってやつだよ」

「なんだ。てっきり開があっちの方に行っちゃったかと」

「おい、お前マジでなに妄想してやがる」


言い方的にいかがわしいことを考えてるのに違いない。だが断言しよう俺はちゃんと綺麗な女性が好きな健全なタイプだ!!


「それにしてもよく食堂に来れたね。いつもならこの時間彼女たちに振り回されてる頃なのに」

「今日はたまたま一条先輩と四乃原先輩がいないからな。時間があったから来てみた」

「そうなんだ。で、どう続けられそう?」

「ぼちぼちだな。きつくはあるが無理と言う訳でもない」


確かに文句も多いし、理不尽なこともあるし、謝りに行ったり、仲介とかも面倒だが慣れてしまえば案外どうにでもなる。


「それよりなんでここだけお前以外だれもいないんだよ?」


昼時のこの時間、俺自身あまり食堂に来たことはないが周りの様子を見る限り毎日混んでいることは間違いない。それなのにこいつの周りだけは誰も来ようとしない。


「それは僕もわからないんだよ。時々食堂でご飯は食べるんだけど。毎回僕の周りには誰も来てくれないんだ。だからここでは毎回一人で寂しく昼食を食べてるよ」


そう言って東は優雅にサバの味噌煮を食べる。そしてその姿を遠目で女子たちが見ている。なるほどな、こいつ顔といい性格といい更には所作まで綺麗とか神はこいつに贔屓し過ぎだろうと言いたくなる。ようは女子は単にこいつに緊張して近づけない、ファンがアイドルに近づけないみたいなもんで。男子はこいつと比べられたくないいってことか。


「どうしたんだいそんなに僕の顔を見て?」

「……いや、何でもない」


こいつがどれだけモテようが俺の知ったことじゃない。それよりもこのご馳走を早くいただこう!!俺はそっとエビフライを箸で摘まみ、そして噛ぶりつく。


「う、美味い……!」


思わず涙が出てしまった。白米も味噌汁もすべてがうまい!


「これで涙がでるとか開は本当にいつもどんなご飯を食べてるんだよ…?」


俺のリアクションを見て流石の東も引いていた。だが仕方がないだろう。こんなに美味いものをただで食べれるなんて俺にとっては最高過ぎることなんだからよ!

他のアジのフライにタルタルソースもキャベツも美味い。気が付けば俺はフライ定食を完食していた。だがこの食欲を俺はまだ全然満たせていない。なのでもう一度フライ定食を取りに行った。


「爆速の完食だったね。というかまだ食べるのかい?」

「ああ、まだまだ俺の食欲は満たされてないからな!!」


時間があれば毎日こんな豪華な飯が食えるとかマジで天国かよ!


「だから嫌だって言ってるっしょ!!」


その時食堂の奥でそんな怒鳴り声が聞こえた。全員がその声が聞こえたほうに注目する。もちろん俺も東も注目する。そしてそこにいた人物を見て俺の気分は一気にダダ下がった。


「三秋っち~それ貸してよ。うち今金欠でさ~」

「じゃあバイトすればいいっしょ!アタシにたかんないでよ!」

「アタシも最近お気にのイヤホン無くしてさ。三秋っち何個か持ってたよね。一つぐらいちょうだいよ!」

「嫌よ!」


三秋が同じギャル仲間に囲まれて何やらもめていた。


「行かなくていいの?」

「そうしていいのか?」

「ダメだろうね」

「だよな…」


俺は席を立ち三秋のところに行く。


「だから何度言われても嫌だって言ってるっしょ!」

「そこをなんとか」

「三秋、どうしてこんなところにいる」

「あんたは……」


俺が三秋に声を掛けると三秋はバツの悪そうな顔をしそっぽを向いた。


「ちょっと君だれ~?」


ギャルの一人が俺に顔を近づけてそう聞いてきた。明らかに不機嫌だ。だが俺は態度を変えず自分の立場を言う。


「俺はこいつの世話役だ」


俺は三秋を指してそう言った。

そして一人のギャルが納得した様子で俺に近寄ってきた。


「君が三秋っちの新しい奴隷君か」

「奴隷?」

「そうだよ。アタシたち知ってるもん。君が三秋っちたちに逆らえなくて親に泣きついても辞めれなくて悩んでるんでしょう?どうアタシたちがちょっとぐらい三秋っちに相談しとこうか?」


こいつら三秋たちに少しは説得してやるからって遠回しに言ってきたな。その証拠として俺によってるギャルが俺にしか見えないように親指と人差し指で輪を作っている。だが俺は彼女たちを無視して三秋に話を振る。


「三秋、今日は飯食ったらあの部屋に集合だろう?俺も飯食ったらすぐに行くから」


これに関しては完全に嘘だ。だが俺の考えを汲み取ってくれたのか三秋が反応する。


「そ、そうだった!アタシ行かなくちゃだからじゃあ!」


そう言って三秋はその場を切り抜けた。だが残ったギャルたちは腹の居所が悪いのか俺に言いがかりをつけてきた。


「ちょっと何してんの?」

「折角アタシらが三秋っちに話付けてあげようって言ったのに、馬鹿なの?」

「なんか言ったら?」


こいつらあれだな。典型的な集りだな。ギャルって括りだけで三秋に集まっていろいろともらってるやつだ。そしてこういうやつらへの対処法は簡単だ。


「ちょっ。どこ行くのよ!」


無視だ。こういうのにはなるべく関わらない方が面倒が少ない。俺は東のところに戻って残りのごはんは爆速で食べる。


「いいのかい?彼女たちの事無視して?」

「ああいうのはなるべく関わらない方がいい。どうせ何言っても文句しか言わないだろうからな」

「そういうもんかな?」

「知らん。間違っていたとしても今は三秋をあの場から逃がしてやるのが最優先だった。それができたら終わりだ。仮に間違っていたとしてもどうにかする」

「できるの?」

「やるさ。必ずな。じゃあ俺は先に行く」

「うん。頑張って」


俺は先に食堂から出て行った。

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