第7話 継続の始まり
「ただいまって誰もいないか」
家についても返事のない言葉。ここ4年ほど親父が海外転勤してから形成された日常に寂しさは多少感じつつも慣れたで済ませる。
リビングの明かりをつける。
「相変わらず無機質な部屋だ」
かろうじてリビングと言えるぐらいに最低限の物しか置いていない部屋。家のリビングにはその家族の色と言うか特徴を少なからず感じる雰囲気的なものがある。だがこの部屋にはそんなものは感じない。逆にこの何のなさが特徴ともいえるのかもしれないがな。
「とっと飯の準備でもするか」
開は慣れた手つきで食材を出していく。だがその食材たちはもやしに人参やジャガイモなんかの格安野菜ばかり。肉や魚なんてものはない。
開は野菜を軽く洗い皮をむき、炒める、蒸すなどそれぞれに合った調理法で調理していく。料理ができる間に開はプロテインの準備をする。そしてタイマーをセットし出来上がるまで目を閉じて少しでも休む。
「肉でもあれば少しはマシなんだがな……」
テーブルに並ぶメニューは明らかに高校生男子が食うものにしては味気ない。客観的に見てこれで満足するとは思えない。
「いただきます」
開にとっては慣れた食事だがこんなもの普通の学生にだしたら文句の一つや二つは覚悟ものだ。しかし苦学生である開にとって少しでも節約しなくてはいけない。そして最初に思いつき最も削れるのが食費だ。開は人間が取るべき最低限の栄養素をできるだけ安い食材で取り、足りない分はプロテインや野菜ジュースでカバーする。
「来月はもう少し余裕が生まれると思うが後少しの辛抱か……」
今年分の学費は既に払ってしまっている。今月分の親父からの仕送りは既にない。かれこれ4年間この食事で多少の貯金があるとは言え使える余裕なんて俺にない。だがこの仕事を受けてい間は学校に関する費用は全て学校が払ってくれる。そうなれば親父からの仕送りでもう少し豪華な、最低でも格安肉でも手にれる余裕は生まれると思うがそれまでは我慢だな。
そんなことを考えつつもしっかりと完食する。
そして食べ終わった皿を洗面台に置き無言で洗う。
「あいつら、まだ何かやってんか……」
ふと出た言葉。開は考えていた。この1週間見てきた彼女たちのことを、そして今日の放課後見た六倉と五十嵐のこと。校内で言われている面倒な部分と凄い部分。そしてその裏にある抱えている部分。まだ彼女たちのことをよく知ったわけじゃない。これ以上彼女たちの為に自分を犠牲にする必要があるのか、このまま彼女たちの言うことだけ聞いていいのではないのかと。そんな考えが開の中に過る。
「もう今日は終わるか」
洗い物の途中だが開は手を止めリビングの電気を消す。そのまま風呂場に行き風呂は沸かさずシャワーだけで体を洗い、体を拭いてタオルを腰に巻いて自分の部屋に上がり着替える。スマホもいじらずベットに沈む。そして気絶するように眠った。
***
『なぜこんな簡単なこともまともにできんのだ!』
年老いた老人の怒鳴り声が少年に向かって響く。
少年は何も言えずその場に立ち尽くすだけ。それを見た老人は興味を失ったようすで椅子に座る。
『その顔も気味が悪い。もうよい。部屋に戻り反省しろ』
少年は逃げるようにそして刺激しないようにそそくさと自分の部屋に戻って行く。
『見て、坊ちゃま、また旦那様に叱られたみたいよ』
『本当に永遠様のご子息なのかしら』
『あの年頃の永遠様は既に中学の範囲も終わっていたらしいわよ』
『それに比べて、やっぱり出来損ないなのね』
『それにずっと笑顔なのよ。気味が悪いわ』
メイドたちは聞こえないように言っているのかわからないが少年はしっかりと聞こえている。だが少年は何も言わない。分かっていても悔しくともそれを押し込め笑顔でい続ける。大切な母との約束を守るため。
***
ピピピ、ピピピ
無機質な部屋に目覚まし時計のやかましい音が響く。
「ゔゔ~~」
眼を開けたくないので音を探りながら腕を振る。
ピピピ、ピピピ、ピッ。
「もう朝か…」
スマホを確認すると時刻は6時前、帰宅部の身からしたかなり早いだろう。
「久しぶりに嫌な夢を見たな」
開は重い体を起こして朝食の準備をしに下に降りる。
「マジねむ……」
朝食と言いつつも開の朝食はここ最近コーヒー一杯となっている。本当はもっとエネルギーの補給が必要なのだが、疲れすぎて逆に1週回って腹が減っていないのだ。
「俺も五十嵐のこと言ってられなくなるかもな……」
五十嵐とは別の意味で体を壊しそうと思いながらも登校の準備をする。
「行ってきます」
4年間誰も返事のない言葉を放ち、俺は学校に向かう。
春の早朝、気温は暑くもなく寒くもない。通る人も少なく学生もほとんどいない。学校まで30分程度、このまま行けば7時ぐらいに学校に着く予定だ。
ここでみんな疑問に思うだろう。なぜ帰宅部の俺がそんなに早く学校に行くのか。もちろんこれもあの7人に関係がある。
学校に着いて俺がまず行くのはあの部屋だ。
鍵を開けて中の掃除をする。それと最近知ったのだがこの部屋は姫の部屋と割とそのままの名前があった。
「学校の備品の癖に俺の家の物より高性能な掃除機があるのがな~……」
俺は部屋の備え付けてある掃除機で部屋を掃除する。これは仕事を受けた2日目に三秋に指摘され、その時に朝早く来てこの部屋を掃除することを知った。それから毎日7時に学校に来てこの部屋の掃除をしている。
掃除と言っても掃除機を掛ければいいというものではない。この部屋の床はカーペットなのでコロコロで埃を取ったり、窓を拭いたり、それぞれ7人の椅子や机の掃除などやることは多い。
そして気が付けば時間は8時になっている。
「おっは~先輩!」
「ねむ」
「おはようございます!!」
「ほんとにまだいるのね」
この時間になると大体一条先輩と四乃原先輩の3年組を除いた5人がこの部屋に来る。
「先輩本当にまだ続けるんですね!雫ちゃんは嬉しいですよ♪」
俺のような普通の人間からしたらマジで朝のテンションとは思えない元気の良さに呆れる。
「シズクうるさい。朝から頭痛くなるからマジでちょっと黙って」
三秋が自分の椅子に座って二宮に向かってそういう。
「すみませ~ん」
だが二宮は笑って謝る。それを見て三秋は溜め息をしながらもスマホに集中する。六倉は荷物を置いてすぐに部屋から出て行った。恐らく生徒会室で昨日の書類の続きをしに行くのだろう。五十嵐はカーペットに座り柔軟を始めた。七星は自分の椅子に座って本を読む。こうして今日の一日が始まる。
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