第6話 天才であろうと秀才だろうと・・・・・・
6限が終わってすぐ一条先輩から帰りのHRが終わり次第あの部屋に来るように連絡があった。そして来てみれば1週間ぶりの7人全員集合であった。
「まずは1週間お疲れ様。よく1週間も持ったこと褒めてあげるわ」
相変わらずの上から目線。完全に御貴族様と平民、いや奴隷の関係のような態度だ。
「それはどうも」
だから俺も少し反骨精神を持って皮肉を含みながらそう言った。
「いいのよ。頑張った子をちゃんと褒めるのも上に立つ者の役割でもの」
どうやらこのお嬢様には俺の皮肉がまったく通じないらしい。
「それで姫様方が全員揃い踏みでなんのようですかな?」
最初の顔合わせ以来、彼女たちが全員揃ったのを見たことがない。必ず誰かしらはいない。てか基本的に揃わないのが普通だと3日目ぐらいに気づいた。
「そうね。じゃあ単刀直入に、やめる?世話役」
「・・・はぁ?」
突然の一条先輩の問いに思わずそんな音が漏れた。だがすぐに一条先輩がその問いの経緯を教えてくれた。
「大抵、というか今まで1週間ももった子は3人。それ以外の子は3日、早くて1日目には先生たちに泣きついてやめていったわ。そして一番長くもった3人も私がこの質問をしたらやめる機会ができたと思って嬉々としてやめていったわ」
ああ~~なるほど理解した。初日の顔合わせの時に六倉が言っていた意味も分かった。つまり俺もその3人と同じでつらくてもう辞めたい。だからその機会を与えてやるって言いたいわけか。とんで舐められたもんだ。
「あいにくだが俺はやめる気はありませんよ」
その言葉に少しなからず7人が驚いた。もちろんあの一条先輩も少しだけだが一瞬驚いたような表情を見せた。だがすぐにそれは笑みに変わった。
「いいのかしら?ただでさえ今までの子たちは泣いて逃げていったのに。ここからは本当に未知の領域よ?」
これは俺は心配しての言葉じゃない。俺を試す為の、ゲームで言う分岐選択だ。だが俺の答えは決まっている。
「悪いですけど俺は今はこの仕事に縋るしかなくてね。俺が挫けるまで、これからもよろしくお願いいたしますよ姫様方」
これは宣言だ。俺を辞めさせたきゃやってみろと言うある種の宣戦布告だ。やってやるさ。必ず1年間アンタらを世話してみせる。
「いいわ。その気概。嫌いじゃないわ。みんなはいいかしら?」
「私は全然オッケー♡」
「アタシはどうでもいい」
「別に」
「あたしは平気だよ!」
「チッ、仕方がないわね」
「うん」
一条先輩以外の全員の承諾が取れた。
「全員の意見が一致したわ。これからも頑張ってね。鷹宮君」
「誠心誠意務めさせていただきます」
それから一条先輩、三秋、四乃原先輩、五十嵐、七星はすぐに帰って行った。
「六倉、ちょっと話がある」
「なによ」
5人に付いて行く感じで部屋から出ようとした六倉を呼び止める。だがそのことに六倉はイラつく。しかし手回ししないわけにもいかない。
「今日の体育の件。霧崎とは話をつけておいた」
「そう」
六倉は興味なさそうに部屋から出ようと歩き出す。
「明日か明後日には霧崎がお前のところに謝りに行くと思う!その時は素直に!」
ガチャ
最後まで言い切る前に六倉は部屋から出て行ってしまった。
「あ~あ、残念でしたね」
「ならお前が伝えに言ってくれるのか?俺は大歓迎だぞ?」
毎回の如く二宮が絡んできた。俺が代わりに六倉に伝えに行ってくれるかと言うと二宮は両手を横に振る。
「無理無理、無理ですって。六倉先輩はと~~てっも!頑固ですから。それにあの人と私って性格合いませんし♪」
二宮がニコッと笑いながらそう言った。
「それもそうだな」
生真面目な六倉に適当感半端ない二宮は水と油だろうからな。
「それじゃあ先輩、バイバ~~イ♪」
二宮もスキップしながら出て行った。
「はぁ~教室で課題でも進めて帰るか……」
部屋の戸締りをして俺は自分の教室に向かう。
教室には誰もおらず吹奏楽の楽器の音と運動部の掛け声が廊下に響く。俺はイヤホン付けて、物理の課題を取り出して課題を進めて行く。
***
「もうこんな時間か」
気が付けば時刻は5時を回り部活動以外の生徒はもうほとんどいないだろう時間だった。
「キリも良いし今日はこれぐらいにしとくか」
一度区切りができてしまったし課題もいい具合に終わってしまっているので気持ち的にやる気が起きない。これ以上続けても効率が悪いだけと判断し切り上げることにした。
「ねえ今日このままカラオケ行かない?」
「ありだな」
「久しぶりに行くか」
「てかさっき部活の書類生徒会に持ってたんだけど六倉さんまた一人でいたのよ」
「マジかよ」
「でもあの人の性格からしていじめられたりして」
「それあるかも」
昇降口で靴を履き替えていると一組の男女グループの会話が耳に入ってしまった。
「………」
開は黙って上履きにもう一度履き替えた。そしてそのまま生徒会室に向かう。
「聞いてしまったからには行かない訳にもいかないな」
それにここでほっといたら個人的に後味が悪い。
俺はなるべく音を立てないように生徒会室の扉を開ける。
中を覗き見ると二つの紙の山に挟まれてひたすらペンを動かす六倉の姿があった。
そして六倉は紙を左の山の上に置き右の山の上の紙を取ってペンを動かす。
あいつの性格からして自分の仕事を他人に手伝ってもらうってことはしないだろう。てことはつまり左側の紙の山、あれ全部あいつが一人でやったのか。
昼休みに決算報告書を取りに来た時あんな紙の山はなかった。多分俺の想像通りだろう。
「このままじゃあ、いつ倒れてもおかしくないぞ」
俺は六倉に聞こえない声でそう呟いた。
だがここで俺がしゃしゃり出てもあいつはきっと、いや確実に拒絶する。つまり今の俺にできることは無いということか。
俺はゆっくりと扉を閉めた。そしてない事もなかったかの様に昇降口に足を運んだ。今度こそ帰る。そう思って靴を履き替え昇降口を出ると五十嵐と恐らく3年生と思われる女子生徒がいた。俺はそれを見て反射的に隠れた。
「五十嵐さんお願い!」
「え、え~と、は、はい。わかりました」
「ほんと!?ありがとう!じゃあ今週の日曜よろしくね!」
そう言って3年生と思われる女子生徒はどこかに行った。
「ふぅ~~……」
五十嵐は大きく息を吐き自販機でスポドリを買ってそのまますぐに半分まで飲み干した。そして次の瞬間五十嵐はふらつき倒れそうになるが自販機に手をついてどうにか倒れずにすんだ。
「あいつ脚ガタガタじゃねか」
五十嵐をよく見ると脚が小刻みにだが震えていた。過度な運動の上、休みも少ない。体力よりも先に筋肉がいかれるか。
五十嵐は残りのスポドリを飲み干して今助っ人で入ってる部活のところに行った。
「これもまた課題か……」
俺は今日見たことを考えながら帰路についた。
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